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「あの…霊夢さん、霊夢さん」
布団越しに伝わる弱々しい振動に霊夢と呼ばれた少女はうるさそうに寝返りを打った。
「あ…ご、ごめんなさい」
消え入りそうな声が聞こえ、身体を揺すっていた手が離れた。
「お昼ごはん、温め直しますから」
ぱたぱたと足音が響き、布団の傍から気配が遠ざかっていく。霊夢は気だるそうにあくびをすると、布団をかぶり直した。
…何よ、もう少し位傍に居てくれてもいいじゃない。霊夢はぼそりと呟くと、また眠りの中に落ちていった。
博来神社に一人巫女が増えたのは、一ヶ月程前のことだった。
とは言っても、半ば空家と化しているこの神社にわざわざ勤めに来る物好きが見つかった訳ではない。
彼女は『落ちて』きたのだ。何も無い青空から、縁側でお茶をしていた霊夢の目の前に。
原因は全く分からなかった。例のスキマ妖怪の仕業かと問い詰めたりもしたが、返事は「知らない」「わからない」の繰り返しでしかなかった。
結局、彼女の目の前に残されたのは目を回している外来人の娘が一人。その時に霊夢が何を考えていたのかは誰も知らない。
ただ、次の日からは神社の門前で箒を掃いている巫女装束の見慣れない娘が見られる様になった。
「○○、おかわり」
霊夢が起きたのは、既に日が落ちかけていた頃だった。一日中寝て過ごしていた為か、いつもより食欲が旺盛な様に見える。
○○と呼ばれた少女は既に四杯目になる「おかわり」に多少困惑しながらも、茶碗に飯を盛っている。
「霊夢さん、その…あんまり一度に沢山食べると…」
霊夢はじろりと少女の顔を見上げた。少女がびくりと肩を震わせる。
「何よ、一度に食べると?」
「あ、あの…霊夢さんの、お腹に良くないです…胃袋が、びっくりしちゃうから…」
霊夢は少女の顔をじっと見つめた。少女は慌てて目線を下に落としてしまい、気まずそうにしている。こうした風景はここ一ヶ月神社の中でよく見受けられた。
少女がおどおどしながらも霊夢にお節介を焼き、霊夢は彼女を睨む様に見つめる。すると少女は霊夢に怯えて目を逸らしてしまう。
だがしばらくすれば、びくつきながらもまた何かと世話を焼いてくる。
「…わかったわよ。片付けといて、ごちそうさま」
「え?…あ、はい!」
少女は一瞬驚いた様な表情を見せ、その後は珍しく嬉しそうな表情を浮かべながら食卓を片付けていった。
霊夢は、少女の事が分からなかった。
始めの内は厄介な居候を背負い込んだ物だ、位にしか思っていなかった。彼女の臆病で従順な性質を知った時は便利な居候が出来た、と内心喜びもした。
世話焼きな性格も、余計なお節介ぐらいにしか考えずほとんど無視していた。しつこいと感じた時はひと睨みしてやれば彼女は呆気なく口をつぐんだ。
だが、彼女は変わらなかった。一人暮らしで不規則な生活をしていた霊夢をただ心配し、世話を焼き続けた。
何度睨んでやっても、どんなにそっけない態度を取ってやっても彼女はどこまでも臆病で、従順で、そしてひどく世話焼きな少女だった。
何でこの子は私なんかに構うんだろう。毎日こき使っているのにどうして私を嫌いにならないんだろう。何で私はこの子のお節介に付き合ってるんだろう。
「何で、そうなの」
霊夢は無意識の内に漏れた声に気づき、慌てて少女を見た。少女は洗い物をしていて、ごく小さなその声は食器が立てる騒がしい高音に邪魔され彼女に届く事は無かった。
霊夢はひどく不機嫌になった。本来なら無意識の呟きを聞かれる等、ほとんどの人が望まない筈だが、霊夢にはまるで少女に自分が無視されている様に感じられた。
彼女は少女に声を掛ける事もせず、寝間へ向かっていた。どうせまたあの子に起こされるのだろう。いつもの様にお節介を言われながら。
そう思いながら霊夢は布団の中に潜り込んだ。
「…何処に行ったのよ、あの子…」
朝の境内。霊夢は寝巻き姿のまま、素足を土で汚しながら境内を歩き回っていた。
まずはあの子の部屋に行った。いない。その次は台所を探した。いない。土蔵も探した。いない。屋根裏部屋まで登った。いない。
「○○…○○…返事しなさい、してよ…」
頭の中が困惑で満たされていく。彼女の中には次々と不安が連鎖し、錯乱が広まっていった。
何であの子は私を起こしてくれなかった? 何処に行ってしまったの? 何で? 何で? 何で?
―――私のことが、嫌いになったの?
「嫌…嫌よ…そんなの嫌ぁ…○○ぅ…」
霊夢の声が、親とはぐれた幼子の様な涙声に変わっていく。何時も無表情を保っていた顔が涙で崩れていく。
―――何故自分はこんなにも辛いのだろうか、まるで子供みたいに泣きじゃくって。
そう自問自答してみても、涙は止まらない。ただ、胸に風穴が空いた様な凄まじい喪失感が霊夢を襲っていた。
―――今までずっと独りだったのに。昔に戻っただけじゃないか。
「嫌…嫌、嫌なの…もう独りなんて嫌ぁ…」
とうとう霊夢はその場にへたりこんでしまった。
彼女は知らなかった。孤独がどこまで恐ろしい存在であるか。自分がこれまでどれほど孤独に蝕まれていたのか。
彼女は知らなかった。少女が彼女に取って如何に大きな存在であったか。どれほど自分が彼女に依存していたのか。
あの子がいなくなってしまった。もう起こしてもらえない。もうご飯も作ってもらえない。リボンも結んでももらえない。
…二度と彼女が、霊夢に世話を焼いてくれる事も無い。彼女の心は、もう孤独に耐えられる程、強くはなくなっていた。
「嫌…いやあぁぁぁっ!!!」
「ほんっとーに、あんたって度胸があんのか臆病なのかわかんねえなぁ」
「ご、ごめんなさい…ご迷惑をおかけしてしまって…」
とんだ拾い物をしたものだ、と彼女―霧雨魔理沙は苦笑した。まさか妖怪の巣窟である森の中のど真ん中に突っ込んでいく人間が居るとは。
しかも整備してある山道があるにも関わらず、人里への近道だと言う理由で。
「なぁ、何であんたそんなに急いでたんだ?霊夢の奴に無理なおつかいでも押し付けられたのか?」
「れ、霊夢さんは…そんな人じゃないですっ」
少女の語気が急に激しくなる。今までのおどおどした印象から一転したその口調に
魔理沙は若干驚いた。
「あっ…すいません、助けてもらったのに…こんな…」
魔理沙は何となく、この少女に好感を持ち始めていた。一見臆病そうに見えるが、芯は強い物がある。そんな印象だ。
「いや、ちょっと言いすぎたんだぜ…ごめんな。ところでそいつは?」
魔理沙は少女が大事そうに抱えている土瓶を見やった。少女は何となく、恥ずかしそうに視線を下に落とした。
「これは…その、霊夢さんへのお詫びなんです。私、昨日霊夢さんにすごく失礼なこと言ってしまったみたいで…霊夢さん、ふて寝しちゃったんです」
「何だ、それなら大丈夫だぜ。なんたってあいるの趣味はお茶と酒と寝ること位だからな」
「いえ、いつもなら私に必ず起こせって言ってから寝るのに…何も言わず出てっちゃったから…」
魔理沙はまた別の意味で驚いた。
あいつ、この子にどこまで任せっ切りなんだ…。神社に着いたら絶対に文句を言ってやろう。こんないい子を目覚まし時計代わりに使うな!ってな。
そう決めて
魔理沙は少女を箒の後ろに乗せて神社へと飛んでいった。
「おーーーい、霊夢ーー!!」
神社の境内に入るなり、
魔理沙は大声を張り上げた。誰一人いない境内からは、声の反響が虚しく帰ってくるだけだ。
「あいつ、出かけたんじゃねぇのか?」
「いつも昼過ぎか夕方位まで寝てますから…多分まだ…」
最早何も言うまい、そう思いながら
魔理沙は境内を見回した。すると神社の隅の方にどうも奇妙な物体があることに気づいた。
「…? 何だこりゃ?」
古びて苔むした石灯籠。それだけなら何処の神社にもある物だが、灯籠の部分が下の地面に落ちて砕けている。
灯籠と石柱の接続部はまるで豆腐でも切ったかの様な滑らかな表面を晒していた。
「石工の手抜き工事…にしちゃ変だよな…」
こんな切れ方が、単なる風化や老巧化で起きるものだろうか?それにしても、どこかで見たような…どこかで…
「あの…
魔理沙さん…?どうかしましたか?」
少女が不安げな雰囲気を感じ取ったのか
魔理沙に近づいてきた。
「あ、いや、ちょっと妙なもんがな」
まさか、な。
魔理沙は頭の片隅に浮かんだ不安を打ち消そうと帽子をかぶり直した。
次の瞬間、帽子は
魔理沙の背後の石灯籠に細長い針で縫い止められていた。
帽子は、後ろの石灯籠がゆっくりと地面へとずり落ちて行くのに合わせて二つに別れてひらひらと落下していった。
「れ…霊夢…か…?」
魔理沙は一瞬、自分の目を疑った。目の前に立つそれは余りにも彼女の知っている『博来霊夢』とはかけ離れた存在に思えた。
いつも付けているリボンは解け、乱れた黒髪はさながら黒い炎の様だ。その炎の合間から覗く、更に暗く燃える炎を宿した瞳。脱力し、端がひきつった如く上がった唇。
着ていると言うよりはぶら下げているといった表現が正しい、よれよれの寝巻き。泥と砂利で汚れた素足。
「何で」
そして何よりも、普段の彼女からは想像も出来ないような、狂気と冷酷さに満ちたその声。
「何で○○がそこにいるの」
魔理沙は動けなかった。子供の頃、蛇に蛙が飲まれていくのを見たことがある。蛙は蛇に睨まれると、身体が固まって動けなくなる。
そう教えられたが、今ならその蛙の気持ちを充分過ぎる程理解できた。動かなければ確実に死ぬ。だが動いた所で逃げ切れる筈が無い。だったらせめて死の恐怖を少しでも
短くしよう。あの蛙はそんな風に考えていたに違いない。
「…す。殺してあげる、
魔理沙」
霊夢がそう呟くが早いか、
魔理沙の視界には無数の銀の閃きが見えた。あの閃光が自分が最後に見る風景なのだろう。
魔理沙はそう思った。
目の前が真っ暗になり、周囲に無数の針が降り注ぐ音が聞こえた。
痛くはない。軽い衝撃はあったが。目を開けたら地獄の閻魔の説教が待っているのだろうか?あいつの説教は阿呆みたいに長い。
…説教がはじまらねぇな。そうか、まずは渡し守に運賃を払わなきゃ…八卦炉で通してくれるかな?
魔理沙が目を開けると、そこには青い空が見えた。そして横には、あの少女がぎゅっと目を瞑りながら自分に覆いかぶさっていた。
「お、おい…あん「こっちに来なさい、○○」
魔理沙が口を開こうとするよりも先に霊夢の声が響いた。どうやら針の軌道を寸前で変えたらしく境内は酷い有様になっている。
少女は動かない。固く瞑った目の隙間からぼろぼろと涙をこぼしながら頑なに
魔理沙を庇っている。
「…さないで」
唇の隙間から、蚊が鳴く様な声が漏れでてきた。
「…
魔理沙さんは、何もしてないんです…霊夢さんが、何でそんなに怒ってるのかわからないけど、
魔理沙さんは何も悪くないんです…お願いだから、殺さないで、ください…」
霊夢から答えは無かった。
魔理沙も、何も言えなかった。
余りにも重い沈黙。
魔理沙は鉛の中に溶かし込まれたような錯覚を覚えた。
「何で」
霊夢がぽつりと言葉を紡ぎ出す。その言葉に先ほどまでの狂気は見られない。
「何で、そうなの」
霊夢が少女と
魔理沙に向かって歩みを進める。ゆっくりと、一歩一歩確かめる様に。そして、一歩手前で止まった。
少女が、泣きはらした顔を上げる。その顔に、霊夢への恐怖は無かった。
あの時、霊夢の腹具合を心配していた時の様な。毎日見てきた表情。余計なお世話だと煙たがっていた表情。
霊夢の感情は、爆発した。
「…何で、何であなたはいつもそうなの!?」
「いつも、いつも私にお節介ばかり焼いて!!」
「自分のことなんて何時でも後回しにして!!」
「私は独りで良かったのに!独りだから我慢できたのに!!」
「何で、何で私に優しくなんてするのよ!?」
「あなたのせいで、私は…私は…!もう独りじゃいられなくなっちゃったじゃない…!どうしてくれるのよ!?」
「どうして…どうして私以外の人に優しくなんてするのよ…!」
「あなたの優しさを他の人なんかにあげないで…私にだけ優しくしてよ…お願い…お願いだから…」
「あなたが居ないと何も出来ないの…お願い…行かないでよぉ…」
「うっ、うえぇぇ…うぇぇん…ぐすっ、うええん…」
霊夢は、幼児の様に座り込み泣き出した。
所詮、無理だったのだ。人間という生き物が、誰とも関わらずに生きていくことなど。
博来の巫女というシステム自体が、脆弱で傷つきやすいヒトの精神にはこの上無く不適応なシステムだった。
霊夢は、徹底的に深い人間関係を絶つ事でそれを維持していたがそれは張面表力で盛り上がったコップの水の様なものだった。
少しでも異物が入り込めば、あっと言う間に水は溢れ出す。…それが例え、どんなに彼女が憧れ、渇望した物であったとしても。
今、彼女は十六年間溜め込んできた負の感情を一気に放出させていた。
「霊夢…」
泣きじゃくる霊夢。きっとこれは、霊夢が小さい頃には決して見せなかった表情なのだろう。
我慢して、諦めて、押さえ込んできた表情。それは決して消え去ることは無く、心の奥深くに食い込んだまま心を蝕んでいく。
今、彼女に対して出来ることなんて何があるんだろう。泣きたい事なんてとうの昔に過ぎ去っていると言うのに。
霊夢は壊れる。いや、既に壊れていた。ずっと昔から、泣かなくなり、笑わなくなった時から。
魔理沙は、目を地面に落とした。見ていられなかった。せめてこの泣き声を止めてくれるなら悪魔に魂を売ってやる。そんな気分だった。
その時、急に泣き声が止んだ。
魔理沙が顔を上げると、そこには。
―――あの少女だった。困惑と不安の入り交じった表情を浮かべながら、しっかりと霊夢を抱きしめていた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…迷惑、でしたよね…何も分かってないのに、私…」
「私、居ない方がよかったんですよね…霊夢さんのこと、駄目にしちゃって…」
「私…優しくなんてないんです…霊夢さんに嫌われるのが怖くて…ただそれだけだったんです…」
「ごめんね、ごめんね…私、自分のことしか考えてなかったの…優しくなんてないの…ごめんね…」
「霊夢さん…許して…許してください…お願い…お願い…」
魔理沙には、少女が悪魔には見えなかった。勿論、天使にも見えなかった。
そこに居たのは、ただの人間。自分や霊夢と同じ、淋しがりやで泣き虫な、か弱い生き物だった。
「っから、何でなんだよ!!」
テーブルに拳が降りおろされ、湯のみが倒れる。拳の主は、霧雨魔理沙。彼女は伝説のスキマ妖怪、八雲紫の所まで直判談に押しかけていた。
「何でもよ。そんな事するのはルールに反するわ、一切お断りってこと」
魔理沙が悔しそうに歯ぎしりをする。まるで親の仇でも見詰める様な目付きだ。紫はそんな
魔理沙の様子を傍目に見ながら説明を続けた。
「いい?今回のあなたの依頼は、『人間と妖怪は平等』って言う幻想郷の基本ルールに違反するの。確かに私は大妖怪だけど、神様じゃないわ。だから…」
「霊夢とあの外来人の女の子の記憶の境界をいじるなんて依頼、お断りよ」
ドン、とまたテーブルが大きな音を立てた。
「叩くのはいいけど、壊れたらちゃんと弁償してね?」
魔理沙は益々激昂しているらしく、紫の皮肉をモロに受け取ったのか口調が激しくなっていく。
「さっきからルール、ルール言いやがって…ルールってのは人を幸せにする為のモンだろうがっ!!」
「ルールはね」 「秩序を守る為にあるの。誰かが不幸せでも、それを我慢させるのがルール。諦めさせるのがルール。押さえ込むのがルールよ。」
紫は突然自分の服の襟首が掴み上げられるのに気づいた。
魔理沙が拳を振り上げてこちらを睨みつけている。
「あの子がなぁ、○○がなぁ、霊夢がなぁ…どんなに辛かったか分かってんのかよ!?」
「あくまで『かった』でしょ?今はどうなってるのかしらねぇ。スキマから見てみる?」
紫が虚空を扇子で仰ぐ。すると何も無かった空間に切れ目が現れ、やがてその中から博来神社が見えてきた。
「あらら…もうここまで凄いの作っちゃったのねぇ…」
紫が意外と言った表情で博来神社の全貌を見詰める。
魔理沙が脇から覗きこむが、何の変化も無い、いつもの博来神社にしか見えない。
「どういうことだよ…」
「結界よ、それも超弩級の。私のスキマも干渉できない位のね。もう神社の内部は覗けないわ」
魔理沙の息が詰まった。
「神社の敷地が見えるのも今の内ね、その内何も見えなくなるわ。博来神社はこの世界に在りながらこの世界から消え去る…」
「これは…あいつらが一緒になって、やってるのか?」
トーンを落とした声で、
魔理沙が質問した。紫はまた別のスキマを開けると、
魔理沙に向き直り初めて真剣な声で語りかけた。
「人間はね。私達、妖怪にはわからない存在なの。当の貴方達が分かってないんだから当然よね…。だから、私にはこれを貴方に見せるべきかはわからない。
きっと貴方だって見ていいかどうかわからないと思うわ。…完全に自己責任よ。覚悟があるなら見なさい。いいわね」
魔理沙はコクリと頷いた。スキマから見えていたノイズが徐々に形を成し始める。やがてそれは色を放ち、像を結び始めた。
映されたのは、縁側で仲良くお茶をし合う二人の姿だった。霊夢は楽しそうに笑いながら、○○の分の茶菓子まで横取りしようとしている。
○○は困ったように笑いながらも、横取りを助けるかの様にわざわざ腕を上げている。
ただそれだけの画像だった。
「…このすぐ後、霊夢が張った結界が発動してスキマは遮断されたわ。あの結界の中ではね、時間が流れないの。全てを遮断する結界は時間の流れさえも遮断する…
あの子達を待っているのは永遠に止まったままの世界よ。」
魔理沙は下を向いたまま、何も言わない。
「私には、わからない。何故、この子達がこんなに無邪気に笑っていられるのか。光も音も無い世界に二人っきりで永遠に置き去りにされると言うのにね。」
魔理沙の肩がぶるぶると震え出した。
「私にはわからない。何故、この子達がこんな方法を選んだのか。傍にいる方法は他にいくらでもあったのに。」
魔理沙は嗚咽を堪えていた。ぱたぱたと溢れた涙の雫が畳に小さな池を作っていく。
「―――私には、わからない。人間が何故、こんなにも愚かで、哀れで、そして限りなく優しい存在なのかが」
「幻想郷の大結界はどうなってる?」
マヨヒガからの帰り際、
魔理沙は紫に尋ねた。
「これ以上無い位安定してるわ。例の結界は大結界と連動して張られているから…それが崩れない限り、影響は受け付けないでしょうね」
「そうか…」
魔理沙はぼんやりと空を見上げていて、話を聞いているのかいないのかはわからなかった。
「じゃあな、どーも邪魔したんだぜ」
魔理沙は別れの挨拶を言い終わるか終わらない内に猛スピードで青空へと吸い込まれていった。
「人間はとても愚かで」
紫が空を見上げながら誰に向けるでも無く呟く。
「とても哀れで」
その声は停止したあの世界に向けられているのか、それとも今も動き続けるこの世界に送られているのか。
「限りなく優しい存在、か…」
その答えを知る者はいない。
感想
- ヤンデレズ最高ですありがとうございました -- 空白 (2023-08-15 09:39:29)
うわああああい、やっちまったああああああい
ヤンデレかもわからない、百合であるかも定かでない、厨設定満載のでろでろ駆け足SSが完成してしまいました…スレの皆さん、ごめんなさい…
「悪役、善玉のいないSS」をコンセプトにして書いてみたら、まーこれがひどい。ひたすら霊夢イジメに奔走していた気がする…
こんな金魚の糞みたいなあとがきまで読んでくれた諸君、ありがとう。ヤンデレズとかねーよと思った人、すいません。持病なんです。
最終更新:2023年08月15日 09:39