どうも、二年ほど前に幻想入りしてしまった○○という者です。
唐突だけど・・・・・・最近、やけに視線を感じるんだ。
周りに誰か人が居ても居なくても、何かの視線を感じるんだよ。
特に一人でいる時、周りがうっそうとした森や人気の無い場所にいると、視線だけじゃなくて声まで聞こえてくる感じなんだ。
……まぁ、声は言い過ぎかもしれないが、とにかく誰かに見られているのは確実なんだ。


そんな訳で紅白の巫女さん……博麗霊夢に「どうにかしてくれ」と頼みに言ったら、
「○○さんの頼みだもの。喜んで引き受けさせてもらうわ」
と、快く引き受けてくれた。やっぱり持つべきものは友達だね。


ところが数日経っても視線は感じる。はて? 霊夢は本当に調べてくれているのだろうか。
気になって博麗神社に行ってみることにした。道中で手ぶらなことに気付いたので饅頭を買ったが、口に合う事を祈っておこう。
「なぁ、なぁ、霊夢」
「あら○○さん。……ごめんなさい、件の依頼の事なのだけれども」
「?」
どうやら思ったよりも手ごわい相手らしく、なかなか尻尾を掴めないのだそうだ。
「本当にごめんなさい……これじゃ楽園の素敵な巫女なんて言ってられないわ」
「あー、いや、焦らなくてもいいよ。のんびり待つからさ。霊夢はすごく頑張ってくれているし」
「そ、そうかな?」
「そうだとも。自信持ちなって。素敵な巫女さんなんだから。壁の一つや二つくらい、霊夢なら乗り越えられるさ」
「○○……さん」
何故か赤くなっている……気がした。
「あ、そうだ。お土産持って来たんだ」
そう言いつつ僕は土産の饅頭を取り出した。
「わぁー……、美味しそうなお饅頭ね。一緒に食べましょう? ○○さん♪」
報告は良いものではなかったが、彼女の笑顔が見られたのでよしとしよう。
あ、帰り際に饅頭のお礼にと御札を貰った。気が楽になった気がする。


「―――全く、私の○○さんにちょっかい出すだなんて」
「次やったら――すわよ?―――」
「○○さんは私を頼ってくれているんだから……ふふふふふ」


霊夢を訪ねて二日経ったのだが、視線はまだ感じる。
しかも家にいる時でさえも少しだが感じるようになってきた。これは危険だ。
霊夢には悪いが、次の手を打たなくては。


「どうも早苗さん」
「あ、○○さんじゃないですか」
向かったのは守屋神社。訪ねた相手は東風谷早苗……さん。
まだ会って間もないので呼び捨てにするのは少々気が引けるのだ。僕と同じ外の世界から来た、という事でかなり仲のいい友人だ。色々と手伝った事や手伝ってもらった事も多々あった気もする。
「それで、こんな時間に何の用でここまで来たんですか?」
「あ、実は……」
事情を説明すると「きっと悪意ある者の仕業に違いありません!」とか言って協力してくれる事に。
「じゃ、これで……」 そう言って帰ろうとすると、
「あ、○○さん!お昼ご飯はどうしました?」 と訊いてきた。
……そういえば何を食べるか決めていない。
「んー、家に帰ってそうめんでも食べy「なら、此処で食べていきませんか!?」 凄い迫力だ。
「でも、何か悪い気がするし……」
「どの道今この神社には私と○○さんしかいませんよ。諏訪子様や神奈子様の分も作ったのですが、何故か材料の分量を間違えてしまって多く作り過ぎちゃったんです」
こんな暑い日だ。腐らせてしまってはもったいない。
「じゃ、お言葉に甘えて……」
「はい!それじゃ温めてきますね!」
タダ食いは何だか申し訳ないので今度和菓子でも持っていくとしよう。


ううーん、心なしか視線が増えた気がする……。巫女さん二人でも手ごわい相手なのか?
とりあえず三日前の昼食のお礼に芋ようかんでも持って訊きに行こう。


「さーなーえーさーん」
「あ! ○○さん! ……その」
「あぁ、やっぱり……?」 「え? ……何ですか? 『やっぱり』って」
「うん……実は、霊夢にも同じような事をお願いしているんだ。……でも、霊夢でもなかなか尻尾掴めないって位だから」
「――な、――私に――理―と―言う――で――」
「え?」
「……あ!な、何でもないです! えへへ」
はて? 今何か聞こえた気が……。
「そうだ、○○さん、いい事を思いつきました!」
「へ?」
「○○さんには今、悪霊がとり憑いているんです! ですので今晩はこの神社で一晩過ごして頂きます。そうすれば悪霊といえども神社の境内には入ってこれませんし、諦めるでしょうから」
「嬉しい提案だけど、神様達に何か悪いよ……」
「大丈夫です! もしもの時の為に説得済みですので!」
仕事が早いなぁ。
「……う、でも、なんか恥ずかしい気が」
「○○さんッ!! このままだと貴方は呪い殺されてしまうんです! 私、そんなの絶対に嫌なんです!……だから―――」
「わわ、わかったから……」
涙目で訴えてくるなんて、断れないじゃないか……。
って、あれ? 僕を見ていたのって悪霊だったのか?


「○○さん……私に出来なくて、霊夢さんに出来る事って……何ですか?」
「私なら○○さんを助けられるんですから――――」
「邪魔、しないで下さいね?―――さん?」


「―――――――――」
暑いな……流石は夏。暑苦しい。
和室=涼しいの定義が崩れそうだ。……心なしか身体に何か乗っている気がする。
……気のせいだよな? 気のせいだよね?
「――○○さん」
「!?」
僕に乗りかかっていたのは―――早苗さんだった。
「さ、早苗さ「○○さん、どうして私には『さん』付けなんですか?」
そんな事言われても―――まだ会って三カ月位じゃないか。
「私、○○さんの事気に入っているんですよ?・・・・・・ヒトとしても異性としても」
「へ?」 何とも間抜けな声が出た。そんな事いきなり告白されたら誰だって疑問に思うだろう。
「幻想郷に来てから、友達らしい友達がロクに作れませんでしたし、そんな暇もありませんでした」
「でも、○○さんは忙しい私達を手助けしてくれました」
「私、男の人に優しくされたの殆ど初めてで、この気持ちが何なのか理解できませんでした」
「だから、○○さんを今度は私が助けるんです」
「いや、あの、その気持ちは嬉しいけど……今はそれ所じゃ」
「○○さんは私の助けが必要で、私も○○さんの助けが『色々と』要るんです。……ね?」
いや、ね? じゃなくて―――うわ! 顔近い! だ、誰か―――! 助け―――


「早苗ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


外から轟音と叫び声が響いてきた。
「―――!」
僕は一瞬呆けていた早苗さんを突き飛ばすと、無我夢中で外に出た。そこには―――
まるで、般若か鬼のような表情の霊夢がそこに立っていた。


「れ、れい「○○さん、退いてください」
後ろで早苗さんが御札を取り出していた。目の前の霊夢は早苗さんを血走った眼で睨んでいた。
「「○○さん、こいつが犯人よ」」
……なにを、言っているんだ?
「早苗、あんた何他人の大切な人に唾付けてる訳? はっきり言わせてもらうけど、あんたみたいなのじゃあ○○さんは救えないわ。私が先に依頼されていたんだし、私の方が信頼されているのよ。……あんたの出る幕なんてこれっぽっちも! 砂粒一つ程もありはしないのよ!!!」
「はぁ? 暑さで遂に頭おかしくなったんですか? ○○さんは貴女に依頼してもロクな結果が得られなかったから私の所に来たんです。個人の依頼さえ満足にこなせない貴女にそんな事言えるんですか? 言えないですよねぇ!? ○○さんは私を頼っているんですよ!!!」
「はぁ!? ○○さんを毎日毎日覗き見していたのはあんたじゃないの!! 神様のくせしてそんな事して、あんた恥ずかしくない訳!? あんたの所の神様が知ったらどう思う事やら!!」
「そう言う貴女こそ毎日毎日○○さんの事覗き見ていたでしょ!? 遠くから覗くに飽き足らず、風呂や睡眠している時でも覗いていたじゃない!! 何が楽園の素敵な巫女よ!!」
ギリギリガリガリと歯ぎしり……なんて生易しい音じゃないぞ、これ。
「「○○さん、ちょっと待っててね?直ぐにコレ、片付けるから」」
守屋神社はその瞬間、弾幕飛び交う戦場となった。

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最終更新:2024年04月05日 13:43