幻想郷にやって来て、早一ヶ月が経った。
僕は幻想郷の有力者の家に食材を届ける仕事をして、元の世界に帰るためのお金を貯めていた。
今週は、命蓮寺に食材を届ける日だった。
いつもだったらこのまま直帰なのだけれど、住職の白蓮さんに呼び止められ、本尊を拝んでいきませんか、と進められた。
「我が寺の本尊は毘沙門天。拝んだらなにかいい事があるかもしれませんよ」
確かにそうかもしれない、と思い、僕は白蓮さんについて行く事にした。
「それでは、私は説法会に行きますので、後はごゆるりと」
白蓮さんが出て行った後、僕は目の前にある毘沙門天の像を見つめた。
やっぱり、かっこいい。悪を滅する神様というだけあって、凛々しくも雄々しい。でも、
「なんか、女性っぽいんだよなぁ~、この毘沙門天」
筋骨隆々かと思えば、覗く手足は細く、凛々しい顔付きも、どことなく柔らかい。
男装した女性といえば合点がいった。
「まぁ、とにかく拝んでいこっと」
僕は拍子を打って、目を閉じた。願う事は早くこの世界から出られますように、だ。
すると、なにかに抱き締められた。香木のいい匂いが鼻腔を満たした。
「えっ!」
慌てて目を開けたけど、特になんの変化もなかった。
「おっかしいなぁ……ひゃいっ!」
辺りを見回していると、今度は耳をなにかに舐められた。
後ろを振り向いても、あるのは毘沙門天の仏像だけだった。
怖くなった僕は、慌てて逃げ出した。
「……という事があったんだ」
長屋に帰った僕は、仕事仲間の☆☆と××に今日あった事を話した。
すると、二人共異様なくらい食い付いてきた。
「そうか、じゃあ妖怪退治に行くか。今すぐに」
「えっ、もうすぐ夜だよ。外に出たら危ないよ」
「なに、心配ないさ。夜になったら命蓮寺に泊めてもらえばいいんだ。さぁ、早速準備だ」
二人はそう言って、妖怪退治の準備を始めた。
僕達は今、命蓮寺の本尊の前にいる。どういう訳か、こそこそとまるで泥棒のように侵入してここまで来た。
「さて、ミッションは簡単だ。これから命蓮寺の皆にばれるよりも早く妖怪を退治する」
「これが成功すれば、妖怪を退治した俺達は有名になって、女達からウッハウッハという寸法だ」
「そんなくだらない事のために……」
「グチグチ言うな。早速始めるぞ」
そう言って☆☆が取り出したのは、先の裂けた竹の棒だった。
「それでなにをするつもりなんだ?」
「まぁ、見てな」
そう言って、☆☆は毘沙門天の足元まで移動し、そして、
「ハイヤァアアア!!!」
物凄い勢いで、毘沙門天の脛辺りをぶったたいた。
「この中で一番怪しいのはここしかない。怪異の正体はこいつだ!」
もう一発、☆☆が脛を叩いたが、なにも起きなかった。ただ、心なしか、毘沙門天が痛そうな表情をしているように見えた。
「しぶといな、じゃあ、これでどうだ!」
次に××が、手に持っている水風船を放り投げた。水風船は毘沙門天の顔面に直撃した。
「ストライーク!当たりが出たからもう一発!」
再び水風船が毘沙門天の顔面に直撃した。
「ねぇ、その風船の中身、なに?」
「クサヤの臭いを封じ込めた水。霧雨魔法店で作ってもらった」
胸を張って××は言うが、その特製水風船でも、毘沙門天の像はぴくりともしなかった。
水に濡れて、表情がちょっと変わったぐらいだった。
「なんだ、やっぱり○○の思い違いか」
「今日は女達からウッハウッハ作戦は失敗か。……ちぇ……」
本当に僕の思い違いなのだろうか。そんな事を思いながら外に出ると、なんと命蓮寺の面々が待ち構えていた。
「ちっ、ばれていたのか!」
「バカだろ、君達は。正門から堂々と入った挙句、中でビシバシやってれば、気付くに決まってるだろ!」
「あんた等、ウチの毘沙門天に手を出して、無事に帰れると思っていたのかい?」
「特に後ろのバカ二人!あんた等、三途の川に沈めてやろうか、あぁ!」
「「ひいっ!」」
☆☆と××が怯えている。まぁ、無理もないだろうけど。というか、僕はどうなるのだろう。なにもしてないけど、同罪になるのだろうか。
「さぁ~て○○さん、あなたにもちょぉ~とオ・シ・オ・キを受けてもらわないといけないから、ついてきてもらえないでしょうか?」
いつも笑顔の白蓮さん。こんな時でも笑顔なのに、なぜだか凄まじい圧迫感を感じる。断ったら、南無三される。絶対、確実に。
「分かり……ました……。甘んじてお叱りを受けます」
僕は抵抗せず、白蓮さんの後について行った。
白蓮さんに連れられてついたのは、本尊の置いてある部屋だった。
「毘沙門天様直々にお叱りがあるみたいよ。逃げたら駄目ですからね」
白蓮さんはそう言って、戸を閉めた。
毘沙門天様直々、とはどういう意味だろう。あの仏像が動いて殴りかかってくるのだろうか。
そんな事を思っていると、目の前の毘沙門天の像が歪み始め、しばらくすると、僕より少し背が低いくらいの女性が現れた。
「君が毘沙門天様なの」
「そう、私の名は虎丸星、毘沙門天の代……オエッ……」
毘沙門天様が嘔吐いた。そういえば、顔面にはクサヤ水がかかってるんだった。
「大丈夫ですか?」
「大丈ぶワッ!」
今度は豪快に転んだ。そういえば、脛も叩かれてるんだった。
「本当に大丈夫ですか?」
「うぅ……、私は君の事が好きになっただけなのに、なんでこんな目に……」
「えっ!」
突然の告白に、僕は驚いてしまった。
「せっかく聖が機会を作ってくれて、二人きりになれたのに、君に逃げられた挙句、あんなアホ二人組に……。
もう……、お嫁にいけないよぉ……」
なんだか分からない内に星さんに酷い事をしてしまっていたらしい。
謝らなければ、と思い、口を開こうとしたら、いつの間にか服を脱いだ星さんに押し倒され、口に舌を入れられた。
「という訳で、今日から君は、私の人生のパートナーになってもらうから。拒否権はないからね」
次の瞬間、快楽の激流が僕を襲った。
こうして、僕は毘沙門天の補佐官として、
ナズーリンさんと共に星さんに仕える事になった。
僕は改造され、幻想郷から離れられない身体になってしまった。別にいいのだけれど。
「ところで、☆☆と××はどうしたの?」
「あぁ、あのバカ二人組なら、穴に埋めましたよ」
最終更新:2011年11月23日 14:10