ちぎられたような地底の入口から、光の道標がこぼれ差す。

静寂の中、その光に近付いていく程に。
彼の形を縁取るように、光が燃えていく。


昔見た、あなたが好きだった本の一頁に綴られた詩。
その一節を思い出したら、あなたが笑った気がした。



いつかここの妖気にあてられてしまったあなたは、病に犯されて死んでしまった。

あなたの曇りの無い心が好きだった。

誰も信じられなかった私が、どれだけ疑って心を覗いても。
何も変わらないあなたが。



この忌まわしい第三の目さえ、光を知らなければ。
きっと、見なくて良いものがあった。

曇りの無いあなたを知ってしまった。
あなたの温もりを知ってしまった。

ただの一度もその優しさにすがる事さえ無ければ、きっと私は、こんなに弱くはならなかった。



光の届かないはずの地底にも。
入口にだけは、海底の様に光が差す。

その光の中に、あなたが見えた。
私の中に、こぼれるように。


死を告げる鐘が、まだ声を殺していたなら。

あの時、あなたの死に向かう翼が折れていたなら。

あなたが今も、私を抱き締めていたなら。


今もふたりは、溶け合っていられた?



もう何も、見なくていいの。
最後に貴方の心に触れた、その記憶以上のものは、要らない。

第三の目を手に取って、握り潰した。
力を失った私は、きっとこのまま死に絶えて行くだけ。


だけど、もういいの。
あなたのいない世界に、これ以上生きていたくはないから。



この目さえ光(あなた)を知らなければ、見なくて良いものがあったよ。

この身体があなたの温もりを知らなければ、引き擦る想いも、きっと無かった。

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最終更新:2011年11月23日 14:13