桜が散り、命が躍動する為の準備の時。曇天が続き湿気が気になる。
彼は傷んだ物を食べたりしていないだろうか。
男性でそういうのを細やかに気にする人は、そう多くないから。
兎に見張らせるだけでは解決しないから、代わりに管理してあげよう。
この合鍵で。
彼が仕事に出たのを見計らい、彼の家に入る。
彼の家の匂い。それに包まれただけで心に温かなものを感じる。
まず台所へ向かい、今朝の食器を確認する。
きちんと洗っている。問題無いか舌先で確かめる。箸は特に念入りに。
醤油などの調味料に一滴ずつ血を混ぜ、気を込める。
それから清掃を徹底的に行う。
黴や虫ごときに、彼を汚し傷つける事は絶対に許されないから。
綺麗になった台所に、仕上げとして結界を張る。
彼を惑わす邪悪な女が来ても、すぐに消え去るよう。
次は厠の清掃をする。
不浄な場所だからこそ、綺麗に保たなければいけない。
念入りに汚れを落とし、汚れを弾く薬で仕上げ。
消臭殺虫剤を落とし込み、害虫と悪臭を消す。
彼がこんな所でも不快感を持たないように。
居間に移り清掃を行う。
彼の湯飲みを取り出し、舌先で汚れが無いかを確認。
床も壁も柱も磨く。染み付いた汚れも私の薬には敵わない。
仕上げとして、無意識に働きかける芳香剤を。
僅かずつ独りでここに居る事に寂しさを感じていくように。
神棚の中にいる存在には事情を伝え、お帰り頂く。
ここを礎として厄と不浄を弾く結界と、遠見術の依代としての機能も持たせる。
彼を守護するのも私だけで充分だから。
床の間へ向かう。
彼の寝巻きの上を肩に掛けつつ清掃を行う。
こうしていると、彼と二人でやっているようで嬉しさが込み上げて来る。
箪笥の中の衣服は全て出し、匂いを確認して畳みなおして収納。
押入れから布団を出して敷き、全て脱いで中に入る。
彼の匂いに包まれながら、自分を慰める行為で私の匂いも染み込ませる。
仕上げに胡蝶丸と私の血を元にして作った香水を、枕の中に忍ばせる。
夢の中でも私を感じて貰える様に。
戸締りをして外に出る。
昼頃に一度帰ってくる彼を、玄関の庇の下で待つ。
傘を忘れて出かけたから、と。
一緒に一つの傘で買い物に出るのも良いかも知れない。
それから料理を作ろう。私だけにしか出来ない物を。
「あれ? 永琳さん」
私は今、この笑顔を変えられない。
最終更新:2011年11月23日 14:34