里人の屈辱

その里人の青年にとって、上白沢慧音は憧れであり初恋の人だった。
村の青年達は各々の愛や恋を見つける前に、大方彼女に初恋の情を抱く。
青年もその内の1人だったが、彼の場合はずっとそれを引き摺り続けていた。
知り合いがやがて初恋の痛みを知り、村娘と結ばれたり夫婦になる中、一途に想い続けていた。
しかし、自分の思いを伝えるだけの度胸は無く、彼女を思い人か妻に出来るだけの度量やその根拠もなかった。

そんなある日、1人の外来人が里にやって来た。ひょろりとした青年で学者志望だという。
多くの外来人がそうなるように、里の代表である慧音が世話をした。そこまでは普通だった。
しかし、彼は慧音の家に世話になり続けた。本人は頻りに恐縮していたが、彼女が強く希望してるのだという。
何でもかなりの博識らしく、歴史家でもある慧音はその知識を知りたいが為に逗留させているのだとか。

青年は面白くなかった。あんな余所者が何であの人に近づける。しかも家にまで住み込んで。
おまけに里人の連中も奴があの人の家に住むことを認め始めているとは。何とも気にくわない。
彼の日課に、暇さえあれば外来人の青年を見張る事が付け加えられた。慧音に対し慮外をしたら即座に里からたたき出せるように。

そんな満月の夜の事。
青年は、信じられないようなものを見るかの如く目を見開いていた。
「上白沢さ……ん、こ、こんな事は」「こんな事は何なんだ○○、私達がこういう事をするのは当然じゃないか」
慧音の書斎で、角を生やし本性を晒した慧音と外来人が激しくまぐわっていた。
「○○、上白沢だなんて他人行儀な言い方をするな。お前と私の仲だ、慧音、だろ?」「…………あ、ああそうだったね慧音」
初めて見る彼女の白い裸体、その下に男を組み伏せ淫らに腰を動かしてなければ見惚れていただろうに。
「あ、……そうだ、もっとくれ。幾らでも搾り取ってあげるから。私に子を授けてくれ」「だ、駄目だよ慧音。そこまでするのは……」
「なぜ駄目なんだ○○、私とお前で臥所を共にし子作りするのは当然だろ」「当然……当然?」
「その通り、当然なのだ。私達は夫婦だろう……『あなた』。」「…………………………ああ、そうだな。愛してるよ『慧音』」

里人の青年が絶叫し、書斎に躍り込もうとした瞬間、頭が白く爆ぜた。



青年はいつもの野良仕事を終えた後、里中の通りで慧音を見つけた。
慧音は彼女の夫と共に、何事かを博麗の巫女と話し合っていた。
最初は厳しい雰囲気だった巫女がやがて呆れた顔になり、何事かを念押ししてから空を飛んで去っていった。
何か、また異変でもあったのだろうか。青年には詳しい事は解らなかったが、取り敢えず挨拶する事にした。

「どうも。上白沢先生と…………旦那さん。何かあったんですか?」

何故か、心の中で疼く正体不明の不愉快感を持て余しながら……。

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最終更新:2011年11月23日 14:37