病床で○○は決心を新たにした。
一度は聖の説得に折れたが、そのやり方では根本的な解決にはなっていない。
今は茨の道を進むべきだ。

目隠し目的で立てられた、例のついたてには星蓮船の下絵が描かれている。
あの奇妙な広場に何があるかは分からない、でも廊下で倒れた際あそこの事を考えていた。
そうでなくても、あの場所には常に○○は言葉で言い表せない違和感を覚え続けていた。
寄合の班長である彼が覆いかぶさったときに何故見えたのかは分からないが、もしかしたら何かの条件とたまたま一致していたのかもしれない。

ただ、そちらよりもあの広場の方。こっちの方が真相に近いと思えていた。
とにかくあのついたての中に入ろう。ついたては出入り口といえるものは何も無いただの壁だ。
しかし今は絵を書くための足場がある、それを利用すれば何とか入れないことも無いはずだ。
○○は頭の中であの広場への潜入方法をずっと思案していた。
この事は聖は勿論、命蓮寺の誰にも言っていない。
二回目の昏倒という事であれからの聖は益々○○にべったりだった。特に変わった点は毎晩同じ部屋で寝るようになった事だろう。
今も、深夜明かりの消えた部屋で布団を二つくっつけて、布団のしたでは聖と手を握っている。
だから好機がいつ訪れるかはわからない。
それでも○○は思案をやめなかった。広場のことを思い出しながら、例の映像のことを思い出しながら。
無論、それらを考える際いつもの鈍痛が○○を襲う。
その鈍痛は、考えれば考えるほどキリキリと痛みを増していく。

鈍痛を感じるのを、聖に気づかれぬよう。寝床では聖が握っているのとは反対の手を敷布団が破れるのではないかと言う強さで握りしめ、痛みと戦った。
風呂場で、厠で、道場で。1人になれたときはその事ばかりを考えていた。
それと平行してあのついたての中に入る算段も立てていた。

星蓮船の下絵を描く為に組まれている足場、あれを使わない手は無いだろう。
手ごろな長さの縄も見つけておいた。後は好機が来る前に、あのついたてに星蓮船が描き終わらない事を祈るだけだった。



その夜、○○は夢を見ていた。夢の中にいたが、これは夢だとわかる状態にあった。
しかし体の自由、何をどうしたいと言う意思は働かなかった。いつか里で見た活動写真、あれを見ているかのような感覚だった。
夢で見る場所は薄暗く、採光用の小さい窓からほんの少し、全体を照らすには全く足りない量の光があるだけだった。
そこで男は土を掘っていた、床板の一部からはがせる場所を見つけその下の土を一心不乱に掘り返していた。
そして何かを掘り返した穴に入れると、今度はその穴をふさぎ始めた。
穴を厳重にふさぎ、床板も閉じて男は立ち上がった。
その足は出口と思われる場所へと向いていた。
「駄目だ出るな!大人しくしろ!!見つかる!!!」

その夢は、自分の声で目が覚めると言う結末を迎えた。
場面は夢の中の薄暗さから一変、朝日がさんさんと降り注ぐ自室へと移っていた。
○○自身、何故夢の場面にここまでの大声を出したのかは分からなかった。
でも、そう言わなければならないような気がして、言った所で無駄なのは分かっているのに。

声に驚いたのは○○だけではなかった。
○○の隣に寝ていた聖、そしてドタドタとナズーリンが、星が、村紗が、一輪が。
結局○○の大声は命蓮寺の面々を全員呼び寄せてしまった。
「妙な夢でも見たの?」
聖の問いかけに「うん・・・そうかも」と歯切れの悪い返事しか浮かばなかった。
あの男は誰なのだろう?そして何をしていたのだ?
飛び起きた直後は分からなかったが。その事を考えると頭の端に、いつもの鈍痛が少し走ったから。
これも関係があるのだろうか、そう考えずにはいられなかった。
「・・・・・・何だ大したことではなかったようだな」
いくらかの間を置いてナズーリンがそう言った。そういう事にしておこう、○○はとりあえずこの場を納める事を優先した。

いつもの朝食後、○○は周りに人が居ない事を確認して、夢の内容を思い返していた。
思い返そうとすればやはり、鈍痛が走った。
だがこの痛みも随分慣れたような気もする。
無理をしなければ、縁側で倒れたときや、祭りで倒れた時のような大きさの痛みにまでは成長しない。
少しずつ体が慣れていっているのかもしれない。

「○○~」
不意に聖に後ろから抱きつかれた。
「○○大丈夫?」
恐らく今朝のことを言っているのだろう「ああ、何てことは無いよ」
嘘はついていない、鈍痛もまだまだ耐えられる程度だったから。
「○○、今日は私夜から里の方に行かなくちゃならないのは覚えていますよね?」
聖の言っているのは里の行事の事だ。
この間の祭りも今日の行事の一環だった、農作物の収穫を迎える秋を控え、豊穣神に祈りをささげる大きな行事の一環だ。
その最後を飾る行事が今日の夜から夜明けにかけて行われる。大きな火も炊いて、祈りと念仏をささげ続けるそうだ。

○○は好機が来た事をこの時気づいた。
夢の事に頭が回って、今朝は完全に忘れてしまっていた。
「大丈夫だよ聖」相変わらず○○の肌をなぞる聖の手に触れながら、そうとだけ答えた。

その夜○○は行動を起こした。
夜も深い頃、ゆっくりと○○は寝床を後にする。始めに厠に行き誰かが気づいていないかの確認も怠らなかった。
誰も気づいていない、その事を確認した○○は、そのまま足を寝床にではなく手ごろな縄を調達しに敷地内の倉に向かう。
はやる心を抑え、平常心で○○は縄の用意を終え、絵を描くために組まれている足場を上っていく。
今考える事はついたての中に入る事だけだった。それ以外の、特にあの映像たちの事は徹底的に押し殺していた。
その事が頭をかすめればまた鈍痛が襲うだろう。
ついたての中は闇に満ちていた。
ツツツとついたての底を目指しながら、今手に握られている縄がクモの糸のようだと○○は錯覚した。

地面に降り立ち、用意しておいたろうそくに火打石で火をつける。
四方を壁に囲まれ、一寸先も見えなかったため火を灯すのに難儀した、もう少し計画を練っておけばよかった。

ようやく灯した火もこの闇の中では心もとない物だった。壁がようやく判別できるか?と言った程度だった。
ろうそくを地面に固定して辺りを見回す。ここで○○は思考の封を解いた。
ギリギリと、頭の端に慣れ親しみたくもない、あの痛みが噴出してくるのが分かった。
その痛みはすぐに大きくなり、○○は膝から崩れ落ちた。
それでも思考は止めなかった。
時間と共に、痛みの他○○の体に冷や汗や油汗が張り付く。

夢の事、映像の事、そして祭りの日に感じた組み伏せられるような感覚。
奥歯をかみ締め、痛みを無視し、抗いながらそれらを思い出していく。
特にあの夢、あの夢には前後が必ずあるはずだ。そしてその前後は映像や祭りのときの感覚へと繋がる。
確証は無かった、強いてあげるならどれを思い出してもいつもの鈍痛が襲う、それくらいだった。
でも確信はしていた、その直感を信じて○○は今ここにいる。
徐々に映像たちの記憶が鮮明さを取り戻していく。あの時縁側で見たような映像、○○はあれを欲していた。
そしてあるはずの無い建物の事も。

「・・・ッ!」
建物の事へ思考が移ると○○はハッと顔を見上げた、声はすんでの所で押し殺した。
○○は垂れ下がる縄の位置から方位を判断し、這いずり回りながらあることを確認しようとした。
「ここが入り口・・・向こう側の壁に明り取りの窓・・・・・・階段・・・」
「ここ・・・?ここに建物があった・・・・・・?」
○○は自分で自分の判断を疑った。でも何度考えてもそうとしか思えなかった、何故だか確信めいたものが○○の中にはあった。
「同じ・・・?敷地の広さも・・・・・・」
記憶の中のあるはずの無い建物。
その記憶の中で感じた敷地の広さ。特に直線距離と、ついたての中の広さは同じだと○○の直感はそう告げていた。

○○は直感を頼りにある場所まで這いずり寄った。
そしてその土を必死に掘り返そうとした、しかし土は固くとても手で掘れる固さではない。
「そうだ・・・あの時はスコップ代わりになるものがそこらにあったから」
不意に口をついて出た言葉に○○は何も感じる事は無かった。
今の○○の頭の中はとにかく土を掘り返す事で頭が一杯だった、何故か?
底に自分の求めているものがあると確信したから、そこに隠した事を体が思い出したから。
○○は着ているものを手に巻き、固い土を掘り返す為の保護具とした。

ガリガリゴリゴリと、布の上からでも石ころなどで皮膚が破れ血がにじみ出るのがわかる。
それでも○○は掘るのをやめなかった。

「―合った!」
そしてついに見つけた、一つの箱を。
箱の中身は一冊の本だった。それを取り出すと、箱は投げ捨てた。
そして小さな小さなろうそくの光で本の中身を読み始めた。








○○は息を押し殺し、薄暗い建物の中に居た。唯一ある明り取りの窓から差し込む光を頼りにあることを記録し続ける。
その記録とは、自分が命蓮寺の住職聖白蓮とどのように知り合い。仲良くなり、そして彼女の元から逃げたか。
そして何故今この薄暗い建物の中に身を潜めているのか。

始めは興味だった。この幻想郷から、結界の外に出るのにも時期が必要だし、巫女にいくらかのお布施を渡さねばならない。
そう聞いたから。ここで働きながら仮住まいをし、時期を待ちながら巫女に渡す布施を貯めていた。

それでも、毎日毎日働いて帰って寝るだけの生活はとても味気の無い物だ。すぐに飽きる。
娯楽と言える物も少なかった為、普段なら絶対に聞かないであろう説法に興味が向くのもある意味当然だったのかもしれない。
その説法会で○○は聖白蓮と知り合った。

「貴方・・・何だか雰囲気が違いますね」
「外から来ました、やっぱり分かりますか?」
説法会の終わりに彼女が声をかけた、それが○○と聖白蓮との最初の会話だった。

「よろしければ次も来て下さいね」
「ええ、有難うございます」
最初の会話はそれだけで終わった。

「あら、また来てくれたんですね」
「ああ言われたら来なくちゃ悪いでしょう」
二回目の会話も簡単な物だった。
それから何度か○○は説法会に参加し聖白蓮と会話をするようになる。
挨拶から世間話へ、世間話から身の上話へ、徐々に会話の内容は濃くなっていった。


「貴方は私の話を一番よく聞いてくれます」
○○にとってかなり意外な言葉だった。
幻想郷で生まれ幻想郷で育ち、彼女のような存在が身近な者達より自分の方が酔う聞いてくれるという印象を持っている事に。

そして。
「少し羨ましいかな」
「何なら簡単な物をお教えしましょうか?外に出ちゃったら使えなくなるでしょうけど」
聖白蓮の使う法力、○○はそれに興味を持った。
まだしばらくこの幻想郷の厄介になりそうで、何か一つ習い事を始めてもいいかな。
そんな軽い気持ちだった。

それから○○は説法会の無い日も、度々命蓮寺へと足を運ぶようになった。
そして聖白蓮のもっと深い、彼女の半生の深い深い所までも彼女は○○に話してくれるようになった。


この頃聖白蓮の心中は穏やかではなかった。
実弟、命蓮の死。○○と交流するようになってから彼女は久方ぶりにそのときの感情を思い出した。
あの時は自分が老いさらばえるのが怖くて、だから妖怪達と付き合い、妖怪の力を手に入れ、自身の不老長寿の為に使った。
そしていつしか、虐げられる妖怪に同情心を抱くようになり、妖怪と人間の共存を考え出した折に聖は封印された。

その気持ちに嘘偽りは無い、でも。
今目の前にいる○○が老いさらばえる姿、それを想像するのがたまらなく怖くなってしまったのだ。
その気持ちが芽生え始めた頃「羨ましいかな、そんな力が使えて」○○が自身の法力に興味を持った。
聖は法力で不老長寿を手に入れた、なら○○にも。○○にも法力の手ほどきを与えれば自身と同じような存在になれるはずだ。
不可能ではない、いや十分可能だ。
でも○○の心は帰る事を望んでいる。不老長寿になれば幻想郷の外で暮らすには不便極まりない。
きっと○○は踏み込まないだろう。ズズズと湯飲みを動かす程度の法力で○○は満足するだろう。

いつしか聖は、○○が老いさらばえるか幻想郷から居なくなる事を、命蓮を失った悲しみとをだぶらせる様になってしまった。
その事を寺の皆に相談した。

ナズーリンは深いため息をついた。星と村紗、一輪の表情は三者とも沈痛な面持ちだった。
いくらかの沈黙の後、村紗が口を開いた「聖の封印中に、皆同じところに傷を持っちゃったんだよね」
「・・・思い出したくも無い」ナズーリンが掃き捨てる。
「分かってはいたのよ、だから出来るだけ仲良くならないように気をつけたのに」一輪の目にはうっすらと涙が。
「・・・・・・厄介なものですあの感情は」星が目を閉じながら呟く。

同じだったのだ皆。皆聖の封印中に誰かを好きになっていたのだった。
「苦行は無意味なものなのよね・・・」一輪が呟く。
「何でこの事の意味をもっと早くに・・・あの頃に理解しなかったのかしら」何かを思い出しながら一輪が机に突っ伏す。
「悟りたい、煩悩を捨て去りたいと言う気持ちそのものが煩悩なんですよね」星があさっての方向を見ながら言う。
「今更気づいたって・・・」ナズーリンが頬杖をつく。
「でも聖はまだ間に合うよね・・・」

村紗の一言に場の空気が固まった。それは冷えて固まったのではない、皆様々な思考を巡らしていたから固まっただけだった。
特に聖白蓮「・・・・・・良いの?私だけ」考えが回りすぎてやっと出た言葉だった。
「私が味わった苦しみをお前も味わえなんて言える訳無いじゃない」珍しく見る村紗の真面目な顔つきだった。
「・・・・・・反対は出来ない」ナズーリンが言葉を搾り出す。
「私は村紗と同じ意見よ」一輪の声には語気があった。
「・・・決まりですね」星が場を固めた。

やると言うなら協力する。それが皆の総意だった、後は聖の決意待ちだった。
村紗が聖の背中を押しまくり、他の三人がそれをなだめつつ静観しどちらに傾くかは分からないが、聖の決断を待っている状況だった。

皆の協力は約束された、後は聖がやると言えばすぐに行動へと移されるだろう。
○○と共にいたいと思う気持ちは真実の物だった、しかし。
それを実現させれば、○○の意思を気持ちを無碍にしてしまう。
それを考えると、後もう一歩が踏み込めない。

「まだまだ立った方が早いってくらいですね」
聖に法力の手ほどきを受ける○○は、人差し指をクイッっと何度も自分の方へ曲げ、湯飲みを動かしていた。
と言っても聖と比べればまだまだ甘い物で、2~30回曲げてようやく半分ほど来たかと言う程度だった。
聖の心中など知る由も無い○○は無邪気だった、数百年の時をゆうに生きている白蓮の目には余計に。
「まだ途中で法力がばらばらになってしまっているわね、体の中でしっかり練らないと」
そう言って聖は、○○の手に触れる。

ただ、普通の触れ方ではなかった、教え子の手を取り教えるような触れ方ではない。
○○の指と指の間に絡みつくように、聖の指は動いている。無論、聖の方はある程度意識している。
「―聖さん?」
○○の方は度々こういった行動を起こす聖白蓮に困惑気味だった。始めはからかわれていると思っていた。

聖白蓮が○○の十倍以上の時間を生きている事は知っていた。
そして妖怪とであった事や、妖怪と人間の共存を目指した事、封印された事。
自分とはまるで比べようも無い濃く、重厚な歴史を生きた彼女にとって、自分へのこの行動は遊びと言うか、反応を見て楽しむ程度の事だと思っていた。
だが、どうにも違うような気がするのは、徐々に感じ取っていた。
注意深く聖の行動を見ていると、法力を教わり始めた頃に比べ肌の触れ合う回数、時間、そして聖と○○の身体的な距離が近くなっている。
そして、自分の心の中に聖白蓮の存在が日増しに大きくなっているのも、○○は確かに感じ取っていた。

○○にとっての幻想郷は仮住まい、のはずだ。今でもそのつもりだが。
“いつかは帰る”この言葉の後ろに、多分だとか思うが入り込むようになっていた。
以前と違って言い切ることが出来なくなっていた。その理由ははっきりとしている。
聖白蓮だ、外に帰れば彼女と会うことはもう絶対に出来ない。
その事実が、○○の後ろ髪を引っ張る。






「お話とは何でしょうか?」
星はこの時、里の人間達と話をしていた。
しかも、普段はあまり顔を見せないような指導者層までいた。
「単刀直入に話します・・・○○と言う男についてです」
○○、その名前が出たと同時に星は口を開く男の眼を覗き込んだ。
その色に、ジワリと黒いものが心に広がるのが分かった、一番嫌いな色だったから。

残念な事だが、人妖問わず全ての者と分かり合う事はできない。
妖怪の場合は強いほど、自身の主張を押し通したがる。
その為、荒事にまで発展した経験は数知れない。

そして人間の方は、弱いほど媚びる。その弱さとは腕っ節ではない。
胆力や肝、そういったものが小さい者ほど媚びは大きくなる。
恐らく目の前の彼等は、肝が小さい故に見境無く取って食う妖怪との区別がいまいち付かないでいるのだろう。

聖はそういった人間にも、改心の機会を、考え直せるだけの知識を与え続けている。
それでも、考え直せない輩の方が多いのは事実だった。
その反面、○○の事を好ましく思っていた。
媚びたり、へつらったり、ゴマすり、おべっか、太鼓持ち。
そう言った邪念無く、○○は説法を純粋な興味で聞きに来ていた。

「いや・・・本当の事を言うと暇を持て余して」
それでも良かった。義務感で来ている様な輩に話すよりずっと話し甲斐がある。
村紗も一輪もナズーリンも。表には出さないが同じような事を思っていた。
一輪の場合はもう諦めてしまったのか、最近では説法の相手を子供へと変えていた。
まだ偏見や色眼鏡を知らない子供ならあるいはと思っているのだろう。

でも、こいつ等みたいなのが親ではな。
茶をすするが、ドロドロとした思考はとどまる所を知らない。
その思考に相対しながら、自身の未熟さを、なおも諦めない聖の尊さを再確認していた。

「○○さんがどうかしましたか?彼は優しく純粋な人ですよ」
後半の一言を付け加えずにいられなかった。
「いえ、その・・・最近聖様と○○がとても仲よさそうに」
「ああ、いえ。それ自体はとてもよろしい事です」
早く終わらないかな、星は殆ど聞き流している状態だった。

「○○は外から来たもので、いずれは帰ると心に決めているようですが」
聖が決意できないのは十中八九これが原因だろうな・・・大筋を見失わない程度に、相変わらず聞き流していた
「もし・・・命蓮寺の方々も○○の事を良いと言うなら」


「我々が、○○が幻想郷に定住するよう説得しても構いません」
その一言に、星の思考は固まった。
すすり掛けていた湯飲みもピタリと止まり、瞬きもせず思考の渦にとらわれていた。
―ああ、こいつら
そしてその思考の渦から抜け出た時に導き出した結論は。


―――こいつら、○○を生贄にするつもりだ。
その結論、いや事実を前に、星の顔は。
里の者達から小さい悲鳴が漏れた。
湯飲みを下ろす星の顔は、もう一度作れと言われても無理だ。
そう自分でも分かるくらいに目の笑っていない笑顔が張り付いていた。

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最終更新:2022年11月11日 00:11