一番近くて、一番遠い、憎いアイツ
「きょうも○○はいない・・・・」
外界から「入荷」した男どもを見る。
皆、意識を失い眠っている。
姿形は千差万別だったが、その中に○○の面影をもった者は誰ひとりいない。
私はいつものようにスキマを開き、幻想郷へ廃棄した。
「うぅん、そうだけど?」
「やっぱり!今日は誕生パーティーする予定?」
「・・・・そのつもりだったけど、お母さんも父さんもいないからまた後で・・・」
「だめだよ!誕生日プレゼントは子供にとって一大イベントなんだから!おじいちゃんがコレジャナイロボを買ってきて・・・」
彼女は宇佐見蓮子。
大学のサークル仲間で私の・・・・友達。
いつも賑やかに会話をして私を楽しませてくれる。
「だ・か・ら!いつもの喫茶店で誕生パーティー決定!」
「どうしてそうなるの?」
「病弱な○○のためよ?たしか・・・病気の所為で学校にもいけないんでしょ?」
「・・・そうだったわね・・・」
「そうそう!家で腐るよりも絶対いいって!」
「おそいなぁ~メリー・・・・ちょっと呼んでこようかな」
メリーの家はこの街でも目立つ豪邸だった。
初めて○○に会ったのは風邪で寝込んだメリーを突撃見舞いに行った時だ。
それまでメリーに弟がいるなんて知らなかった。
寂しげに笑う○○を見て私は彼を笑顔にしたいと思った。
今日の誕生パーティーもそのためだ。
「おじゃましまーすって、鍵掛かってるじゃないの!入れ違いになったかな?」
私が帰ろうとしたときだ。
リビングの奥に光が見えた。
「今・・・開けるよ・・・・」
「○○?メリーは?」
「お姉ちゃんは誰か来ても開けるなって言って・・・何処かへ行っちゃった」
重々しいドアが開き、私は家の中に入った。
「○○・・・・貴方!」
私の記憶が正しければ○○は中学生くらいの背格好があってしかるべきだ。
だが、そこに居たのは私が初めて出会った時と同じ姿の○○だった。
「そんなことって・・・・」
「ここでも貴方が障害になるのね・・・・」
振り向くとメリーが立っていた。
殺気を滲ませながら・・・
「さて何処から話してあげようかしら?」
「あなたは一体何なの?なんで○○は成長していないの!」
「どの時間軸でも同じ・・・このぎゃーぎゃー喚くところはね!」
メリーが私の口を押さえる。
「○○は私の弟じゃないのよ。両親を消し、認識の境界を弄って弟にしているの」
「メリー・・・あなた普通じゃないわ!」
「おかしくもなるわ!愛していた男性が友人と交わり、それを妊娠という形で知らされ続ければね!だから○○を弟にして貴方が攫わないようにしたの。わかる?」
「・・・・・・・・・」
「私は別の時間軸であなたを殺したこともあるのよ?それでも駄目なら気が狂うまで男どもの相手をさせた!でも!でも・・・・駄目だった。」
メリーの澱んだ瞳に涙が滲む。
「だから・・・・○○を諦めることにしたわ。でもあなたにはあげないけどね!!!!!!!!!!!」
「?!」
私の手が半透明になり姿を無くしていく。
「あなたに○○が否定した私をあげるわ・・・・私が作った檻もね」
狂ったメリーの哄笑の中私は気を失った。
私は森の中で目を覚ました
喉が渇く
水音が聞こえる
川があるんだ・・・水だ!
私は狂ったように水を飲む
そして・・・・
「いやぁぁぁぁっ!」
水面には見慣れた私の顔ではなく・・・・・見慣れない服を着たメリーがいた。
「○○・・・ごめんね・・・私がメリーを見失ったばかりに・・・・」
葬列者がいなくなった葬儀場で「宇佐美蓮子」は最愛の姉を失った○○を慰めていた。
「ねぇ○○・・・もう遅いし・・・今夜は私の家に泊らない?」
「いいの?蓮子お姉ちゃん?」
「えぇ私をお姉ちゃんと思っていいのよ?」
そう言うと蓮子は微笑んだ。
その裏に潜んだモノを知らず、○○は微笑んだ。
最終更新:2012年02月16日 12:27