圧倒的な劣等感。
地霊殿に住み込み始める前から○○が抱えていた心の闇。
地霊殿の主人、古明地さとりだけはその第三の眼で知っていた。

「あなたは本当は優しい人なんです。だから……だから、此処を出て行くなんて言わないで下さい」

「駄目だ。俺は外の世界にいた頃から酷い奴だった。周りの事を考えられなかったから、俺は周囲から見放されて幻想入りしたんだ」

そんなことないですよ、○○さん。お燐もお空もあなたを慕ってますよ。
――とは言えなかった。

彼は本当に自分が地霊殿の住人に相応しくないと思っている。
一人で生きていくつもりなのだ。
本当はそんなことをしたくないと思っているのに。
彼はもう十分自身を見つめ直して、他人を思いやる心を手に入れたというのに。

鬼の酌をとることも、橋姫の妬み言を静かに聴くことも、こいしの話し相手をするのも、彼が心から望んだことなのに。

彼は信じてくれない。
他人の心を視ることが出来るのは私だけ。○○には伝えることができない。

どうすればいいの。どうすれば……。

「どうすれば私の心を信じてくれるの?」

何が○○をこんな風にしたの?

○○は何も答えず、地霊殿から出ていった。



それから数日後のことである。
旧都で日雇いの仕事をしていた○○の元に古明地さとりが訪れた。

「これを受け取って下さい」

○○に渡されたのは、第三の眼だった。
呆気に取られた〇〇はふとさとりの胸元を見る。

無かった。心を覚る眼が。

「これを使えば信じてもらえますよね、○○さん」

○○にはそれを拒む事が出来なかった。

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最終更新:2012年02月16日 12:45