覚悟を決め、俺は家の扉に手をかける。
直ぐさま背中に重みがかかる。扉にかけた手に、彼女の手が重なった。

「……俺は、出なければならない」
「ダメよ、ずっと居て、此処に居て。出ていこうとする貴方が妬ましい」

やんわりとした口調で、彼女の決意を和らげようとするが、思ったよりも頑固だ。

「どうせ貴方は外に出て私の知らない所で女と会うのよ。そうして組み敷き、自分の精を注ぎ込む。そうに違いないわ」
「何時も最悪のケースばっかり想定して鬱にならないか?」
「鬱にはならないわ。妬ましいだけよ」

もっと悪いと思うが、彼女は本気でそう思っているようだ。
恐らく目は爛々と輝き、今にも俺を縊り殺しそうな顔をしているだろう。
背中にしがみついている為両腕しか見えないが、両手には霊気が篭もっている。
どうあっても俺を家から出すまい、そういう決意が窺える。

「どうして、貴方はここから出ていこうとするの」
「そうしなければならないからだ」
「私が不満だと言うの、私に飽きたというの、飽きたから捨てるというの、妬ましいわ、妬ましいわ、そうやって他の女に乗り換える為此処から出るのねそうよね妬ましい」
「…………」
「だ、黙っているというのは肯定なのね! 私をこんな身体にして、うち捨てて、他の女をまた孕ませて、そしてまた捨てて好き放題する気でしょう妬ましいわ!!」

腕の締め付ける力がぐっと強まる。
その割には身体が密着しないのは、良い具合にお腹が膨らんでいるからだろう。
何だかんだ言って彼女が俺との間に出来た絆を大事にしてくれている事に安堵する。
世の中には保身の為に腹パンなんてする外道も居るが、大きくなった女性のお腹は優しく愛でるものだ。

「なぁ、パルスィ……」
「な、何よ○○! 絶対放さないからね妬ましい!!」

俺はスルリと身体向きを変え、彼女と向き合う。
充血した目付き、俺を徹夜で監視してたのだろう。
可愛らしい鼻は真っ赤、興奮しているのか首筋も真っ赤だ。
全く、今は身体を大事にしておかないといけないのに無茶をする。ちゃんと後で説教しておかないと。

「お前が身重だから、旧都に買い物に行くだけだろ。毎日の日課じゃないか」



そう、毎朝俺とパルスィはこういう会話をしているのだ。
嫉妬深い、猜疑心の強い嫁さんを持つと苦労するのである。

やおい

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最終更新:2012年02月16日 12:47