幻想の郷で生活している里の人達は、平均的に恵みを受けている。
豊穣神の恵みも、山の恵みも、川の恵みも、田畑の恵みも、全て平均的に、だ。
彼らは、突出を嫌い、何よりも恐れた。
外来人の猟師が、山で連日大物を仕留めた。
嬉しそうに「山の神社で祈願したおかげかねぇ」と酒を呷っていた。
普通の兎や山鳥を仕留めた里の猟師達は、何故か彼に酒や肴を振る舞った。
暫く後、彼は山に猟へ出かけたまま、山から降りてくる事は無かった。
それから、時折山を歩いていると彼が唱っていた鼻歌が後ろから付いてくる事があるという。
山菜採りに出かけた外来人の青年が、沢山の山菜を持って帰ってくる事が多かった。
監視の天狗と仲良くなって、特別に良いスポットを見つけてくれたとか。
彼もまた、冬を間近に控えたとある日、今日で最後にして冬籠もりの仕事しないと……と言い残したまま山から戻らなかった。
十数年後、彼によく似た面影の年若い天狗が山の上空を飛んでいるのを見た人が居るという。
紅葉狩りを楽しんでいた青年が、紅葉色の服を着た少女と出会った。
もっと凄い場所があると、彼女は山中を連れ回した。
郷に渡って長い外来人達はそれ以上関わるのを止めた。
しかし、彼は何かに魅入られた様に山へと消えた。
その年以降、山の紅葉は素晴らしく、山全体を紅く覆い尽くす様な彩りだったという。
里の知識人は伝える。
恩恵を受けすぎるのは毒だと。
突出した恵みを受けるというのは、山に魅入られるという事と同義だと。
そして、こうも言った。
それらに対して無垢で、無防備な外来人が魅入られ贄となるのも道理だと。
最終更新:2012年02月18日 15:23