「ねえ妖夢お願いがあるんだけど・・・」
私がお仕えする幽々子様の手にあったのは寝息をたてている赤ん坊だった。
「幽々子様!いくら食道楽でも西大后の暗黒料理は作りませんよ!」
「妖夢私を何だと・・・・赤ん坊のミルクを作って欲しいのよ」
着ている産着からこの赤ん坊は外界から幻想入りした子供だとわかった。
生まれたばかりの子供すら忘れ去ってしまう外界の人間達に対し、私は憤慨するがこの子には罪はない。
「そうね。そんなわけでこの子育てるから」
「ええ!? ど、どうしてですか! 里に預けた方が……」
「いくら人里でも赤ん坊を育てられるほど裕福じゃないわ。それに外界へ戻しても忘れ去られた子供に明るい未来はないわ。」
「う……。そ、それは……」
「それに人里で生きるか否かは物心ついてから選ればいいじゃない?」
「分かりました。この子を育てましょう」
赤ん坊は西行寺 ○○と名付けられ私達の家族になった。
「・・・・幽々子様」
「わかっているわ妖夢」
今日は特別な日だ。
○○が自分の行く末を決める日。
これは○○を引き取ったその日から既に決まっていたこと。
でも・・・・
「妖夢お姉ちゃん今日はすごい御馳走だね!どうしたの?」
「ううん・・・今日は○○の12歳の誕生日でしょ?だから奮発しちゃった」
「妖夢お姉ちゃん大好き!」
12年経って○○の身長は私と同じ位になった。
屈託のない笑顔を振りまく○○を見ると、この12年にあったことを思い出す。
○○が男の子だったこと。
それを見て幽々子様が柄にもなく取り乱したり・・・
蔵にあった「呪いの棍棒」に○○が憑依されたり・・・・
「妖夢お姉ちゃん?どうして泣いているの?」
「えっ!?」
頬を一筋の涙が落ちていた。
「玉ねぎ切っていたから涙が出ちゃった」
「じゃあ僕が代わりに切るよ!」
いつも○○は手伝ってくれる。
この幸せを離したくない
○○を永遠に失うくらいなら・・・・
食後、○○は幽々子様に呼ばれて書斎に行っている。
私は洗い場で食器を洗っていた。
墓場のような重く、怖気を感じるような力が白玉楼を覆う。
「これは!」
私は書斎へ向かう。
私の思う通りなら・・・・・
「○○!」
書斎を覆う死告蝶
そして眠るように蹲る○○の姿
「良かったまだ息がある・・・・・幽々子様!どうしてこんなことを!」
「妖夢・・・あなたと同じことよ。私も○○を家族と思っているわ・・・・亡霊にしたいくらいに!」
再び、○○に向けて死告蝶が覆う。
私は○○を抱えると書斎を飛び出した。
「妖夢お姉ちゃん・・・・どうして裸足で走っているの?」
「○○大丈夫だから!お姉ちゃんがちゃんと守ってあげるから!」
「わからないよ!」
「わからなくていいの!幽々子様があなたを・・・・・」
突然私の中に何かが入ってくるような感覚が私を襲う。
その瞬間、私の腕が○○を突き飛ばす。
「痛いよ妖夢お姉ちゃん!」
私の腕が腰に帯びた桜観剣を抜き放つ。
「くっ!・・・○○逃げて・・・・」
私は失念していた。
幽々子様の「死霊を操る程度の能力」。
半霊の私でも操られるとは思わなかった。
精神力で抑えるが、桜観剣を構えジリジリと近づいていく。
「○○こっちへ!」
私に向かって弾幕が向けられる。
「妖夢は悪霊に取り付かれたのよ。おかあさんのところなら安全だからね?」
何も知らない○○は幽々子様のところへ・・・・
「だめ・・・・行っては・・・だめぇぇぇぇぇ!」
弾幕に蹂躙され消えゆく意識のなか、幽々子様が○○を抱きしめ慈母のような微笑みを浮かべていた。
「妖夢・・・・これから三人で本当の家族になりましょうね」
最終更新:2012年02月18日 15:26