浪人生である俺は「幻想郷」という場所に来てしまった。
ここでは人も妖も神も、なんぴたりも受け入れる正にファンタジーを体現したような─どうも和風チックすぎるが─場所である。
だが、俺のような外から来た人間─外来人というらしい─には真面な仕事など廻って来ない。
この幻想郷で絶大な力を持つ人外─なぜかほぼ女性のみ─に媚を売ってヒモのような生活をするしかないのだとか。
その事に不満を抱き、思わず外来人の先輩の愚痴ってしまったのが運の尽きだ。
つまりは延々と、それはもう延々と説教を繰り返されている次第だ。
「ここでは女の方が圧倒的に優位だ。人も妖も神も無く、無情なまでに平等であり感動的に理不尽だ」
「はぁ…………」
「貧血なヤツでも吸血鬼に一生つくし、神父だとしても仏教に改宗させられ、かなずづちでも河童と川で暮らすようになるのが当たり前なんだ」
先輩は、やつれた様な顔で淡々と俺に説くように話している。
言い回しは変わってはいるが、結局は「女性に逆らうな」という一言で済む話を繰り返しているだけだ。
正直うんざりしてくる。
「俺も、たぶんおそらく明日には人里にいないだろうな」
「────え?」
「地獄の妖怪にな、攫われるんだよ」
本人は迎えに来ると訴えているがなと、自嘲気味に呟く。
「俺なんかまだいい。先月までいた人なんか3人に惚れられて、そいつらが奪い合うように争って…………あれは無残だった。」
バスティーユ牢獄の牢獄という物がある。
牢獄と言うのが憚れるほど、豪華な食事に遊戯施設まである至れり尽くせりだったとか。
まさに、ここ幻想郷も同じような物だ。
なにをするのも自由だ。
去れども捉えられている、拘束されている、出られない。
「お前もさ、理不尽でも理不尽なりに…………楽しめよな」
そして今日も一人────貪欲なご主人様に連れられていく犬が一匹。
最終更新:2012年02月18日 15:51