取材、ねぇ…まあ、こんな辺鄙な場所にネタがあるとは思わねえが、立ち話もアレだ。
茶ぐれえは出すよ。上がんな。
さて、あんたも知っての通り、ここは色んな奴のいる長屋だ。
外来人や身寄りの無くなった奴、果ては短期の宿を取る妖怪まで、そりゃあ沢山な。
最近消えたここの連中について取材してるって言ってたよな?
入れ替わりの激しい長屋だが、俺の知ってる範囲でなら教えてやるよ。
まずはそうだな…ああ、そいつはAとでも言っておくか。
Aは外来人だったんだが、ここに来る前は技術屋だったらしくてな。
やはりこっちでもそういう仕事に就いたんだが、仕事の依頼で河童の里に呼ばれたんだと。
そこで河童の娘と出会って、で、娘の方がそいつに惚れちまったんだ。
娘はどっちかと言やあ可愛らしい感じの見た目と性格だったんだが、単純な話、奴の好みでは無かった。
奴は寧ろ大人びた別嬪さんの方が好みで、里の先生に随分お熱になっちまってな。
元が鈍感な奴だし、そんな調子だからその子を友達としてしか見てやらなくて…まあ、その子の悲しみっぷりは、な。
それである時奴は、遂に先生に告白して…結果は見事に玉砕だ。
ただ、告白した事自体がまずかった。
何でかって?
あんたも天狗なら、河童と付き合いあるから解るだろ?
光学迷彩。
アレを着て、その光景を見てたんだ、その子。
そんなもんを意中の奴に見せられた方は、たまったもんじゃねえよな?
その日の夜だ。
そいつの部屋からでかい音がしたと思ったら、壁に大穴が空いててよ。
後はマジックハンドに掴まれたそいつが拐われるだけだったよ。
余りにも突然で、皆ぽかんとしてたなぁ。
その後どうなったかって?
そうだなあ…噂でしかねえが、最近夜な夜なロボットと少女が歩いてるって話はあるな。
一度俺も見たんだが、どっかで聴いたような声で「愛してる」ってずっとスピーカーから流れててよ。
くくく…おかしいったら無かったぜぇ?
だって本当に生きてるみてえにロボットに接してんだもんよ、あの子。
あいつはもう死んでんのにさ。
まあ、気付いてやらねえあいつが悪かったんだろうよ。
さて…次か。
次はDって言う旅の妖怪だな。
二ツ岩の姐さんと同じで、あいつも外から旅してきた妖怪でな。
それで暫しの宿に、ここを選んだんだ。
あいつはちょっとした能力があって…『意識させる程度の能力』って言ったかな。
それは他人に自分を意識させるに留まらず、隠れてるモンを自分に意識させる事も出来る。
「危険を知るのに役立つ」なんて言ってたが…まあ、所詮はあいつも幻想郷の妖怪じゃないからな。
運が無かったんだろうよ。
そこの妹の方は、無意識を操る。
だけど本人も無意識で発動してるフシがあるから、望んでも他者に認識されない事もザラだった。
皮肉なモンだよな。
孤独に耐えかねて心を閉ざしたのに、余計に孤独になっちまうなんて。
そんなあの子の前に現れたのがあいつだ。
あいつは能力を使って、自分に対してその子を意識させた。
あの子は大層喜んでたよ。
少なくともあいつだけは、どんな時でも気付いてくれるんだから。
妖怪の癖に子供好きだったあいつは、よく遊んでやってたんだが…幸せなんて、長くは続かねえな。
元々旅を目的に幻想郷に来てたあいつは、遂に次の土地へ向かう事にしたんだ。
だけどまだまだ幼いその子は、やはり受け入れられなくてよ。
案の定泣きわめいて、終いにはそいつに弾幕をぶっぱなした始末だ。
結局男妖怪なんて弾幕には不慣れなモンで、あっさりやられて後は監禁コースさ。
人外って不便だよなぁ、簡単に死ねないんだから。
そいつは舌を噛んでも死ねず、おまけに精神に重きを置く身だから、余計に衰弱してな?
縛られてる上に、衰弱した精神では力も発揮できない。
おまけに死ねない。
それが何百年と続くんだ…ここじゃ幻想にもなれないから、簡単に消滅も出来ないしな。
だからあいつは、永遠にあの子の可愛いお人形なんだよ。
おお、こわいこわい…ひひひひひ。
さて…3人目か。
次はそうだなぁ、ちょっと趣向を変えるか。
ここには色んな奴がいるって言ったろ?
恋に病まれた奴に限らず、恋に病んだ奴もいたのさ。
そいつは永遠亭の助手で、あそこの姫さんに惚れちまってな。
で、それは姫さんも同じで、二人は相思相愛になった。
そこまでは良かったなで済む話だったが、やはり寿命の差は大きくてな。
姫さんの方は長く生きてる分、あいつが死ぬまで添い遂げるって覚悟を決めたが…あいつは違った。
姫さんを残して死ぬ事を苦痛に感じたあいつは、とうとうアタマを病んじまった。
それで短刀片手に姫さんの寝込みに乱入して、生きたまま肝を抜いたのさ。
そりゃあ壮絶な光景だったらしいぜ?
即死じゃない分すぐに再生出来なかったらしく、姫さんは内臓ぶちまけたままはぁはぁ言っててな。
奴はその横で、泣き笑いでむしゃむしゃと生肝を貪り喰ってたってんだから。
その件で奴は永遠亭から叩き出されたんだが、以来、あの姫さんは奴に付け狙われてるんだと。
竹林の姉ちゃんに加え、あいつにも狙われてるってんだから、大変だよなぁ。
…どうした?顔色悪いぜ。
気分が悪い?
おいおい、お前も似たようなモンな癖に何言ってんだよ。
ずっと俺の事、盗撮してたお前がよ。
何?
何でバレてたのかって?
どんだけ速く動いたって、あれだけ派手にシャッター音撒き散らしてたらバレるよ。
これでも外来人だぜ?
別に怒っちゃいねえ。
強いて言うなら…俺もお前やさっき話した連中と同じ、って所か。
何がかって?
そうだなぁ、それらのエピソードを見て、思ったのさ。
『病んだ愛には、病んだ愛で返せば良い』って。
お、立てないのか?
思ったより効くんだなぁ、アレ。
さっきお前に飲ませた茶にな、魔除けの効果のある植物を少し混ぜといたんだ。
さて、魔除けの草は後でたっぷり喰わせてやるとして…まずはあそこの椅子に縛るか。
ああ、お前の生き血でも飲んで妖怪になるのも良いかもしれないな。
そうすりゃずっと一緒だ。
やめてくれ?
そりゃ無理な相談だよ、何でお前を手放さなきゃいけねえんだ?
ずーっと二人っきりさ、ずっと。
お前が俺にしようとしてた事は、寧ろ俺がしたい事だからよ。
くく…愛してるぜ?文…。
最終更新:2012年02月18日 16:09