「◯◯、ご飯だよ」
「………………そう」

この生活を送るようになって何カ月が経っただろうか。
日光がまともに当たることの無いここでは時間という感覚がすぐに狂ってしまった。
ただ、にとりに提供される食糧を摂取し、会話をされれば返すだけ。
オブラートを引き剥がして現状を言い当てるなら『監禁』以上にピッタリな言葉があろうか。
もしあるのなら、ぜひご教授願いたい。

「初めて◯◯と会った時はもっといっぱいお喋りしてくれたのに。最近は口数が少ないよね」
「……どういうわけかここに住んでから体の調子が芳しくないんだよ」

読み物とかで、こんな風に女性から異常な愛情を押し付けられ、監禁されたら最後まで抵抗するのが筋だろうか。
だけど実際問題、提供された食事を食べなければ餓死し、無駄な抵抗をすれば精神が病んでいるにとりからどんな仕打ちをうけるのか解ったもんじゃない。
どこぞのD帝国の諜報員では無いので生にしがみ付くのが人の性という物じゃないだろうか?

「それはそうだよ、だって…………」

にとりは鎖に..擇・譟△垢辰・蟯恭个量気・覆辰娠ο咾鱧咾瓩襪茲Δ防錣任襦まbr>
「◯◯は人じゃなくなるんだもん」
「………………っ!?」

鼻息がかかるぐらいにまで耳に顔を近づけ、死刑宣告のような恐ろしいことを呟く。
いや、考えようによれば人間である俺への死刑宣告でもある。

「一昨日は天狗の肉、昨日と今日は河童の肉…………ずーっと毎日妖怪の血肉を食べてたらどうなると思う?」
「な──」

聞きたくない。
だが無情にも、耳を持つ俺にはその言葉が届いてしまう。

「どんどん馴染んでいって、最後には私と同じ妖怪になれるんだよ」
「嘘だ…………」
「嘘じゃないよ?」

にとりの手が絡みつくように背中に廻った。
その時、背中に妙な感覚を覚えた。
まるで砂に埋められたような、異質の感覚。

「ほら、背中がどんどん固くなってきてる。まるで甲羅みたいにね」
「な、甲羅……!?」
「別に河童は甲羅を背負ってるわけじゃないんだよ?ただ背中を守るために甲羅みたいな固い皮膚が亀甲模様になってるだけなの」

そう言いながら、にとりは背中の亀甲模様を俺に示すようになぞる。
その何とも言えない感触を感じながら、なにかを諭されているような気分になった。
─もう、人には戻れないんだと─

「あ、ははははは…………アハハハハハハハハハハハハハハ!」
「どうしたの◯◯、なんかおもしろい事あったの?」
「ううん、なんでもないよ」
「そう?」
「うん。ウフフフフフフ…………」

なんとなく、吹っ切れたような気がした。
なら、むしろ受け入れて河童になってしまえばいい。
その方が、楽に慣れる気がした。







しばらく、その洞穴には笑い声が木霊したという。






【とある鴉天狗の新聞】

◯◯という外来人が行方不明になって数か月、ついに身柄が発見された。
彼は我々の予見通り、彼と親しかった河童によって監禁されていた。
この事件は先日の号にも記載されていた妖怪の行方不明事件とも関連しており、その妖怪は容疑者である河童に殺害されていたとか。
報道部にまで流れてこないが、個人的な解釈だが常軌を逸する目的があったと思われる。
身柄を拘束された容疑者は精神を病んでおり、すぐさま竹林の診療所へと搬送された。


また、外来人の◯◯としたが現在、この情報には誤りがある。
あえて正確な情報を伝えるとすれば…………被害者は河童の◯◯とするべきであろう。

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最終更新:2012年03月05日 22:06