○○「はぁ~、なんか今日は……つかれた」
蓮子はもう寝ているだろうか?
隣の部屋からは物音はしないから多分寝たんだろう。
自分の部屋で溜息を吐きながら一人ココアを片手に本を読む○○。
その手には青い表紙に赤い背表紙の二冊の厚いか薄いか微妙な本。
それは昔から○○の家にある本の筈なのに殆どの風化や劣化が無い、少し不思議な本。
もっとも保存状態が本当に良いだけなのだろうが。
そういえば昔、これにはもう一冊あると誰かから聞いた覚えがあるがそれが誰だったかは思い出せない。
なにせその記憶はもう今から10年以上昔の事なのだ、余程印象に残った出来事で無い限りそんな昔の事を鮮明に覚えている程自分の記憶力は良くは無い。
それでも少し気になりはするが家に無いものはどうすることも出来ない。
○○「真と偽、裏と表か……」
それは自分がその二冊に抱いているタイトル。
その二冊にはタイトルが何処にも無く、誰から聞かされたわけでもない。
けれどもただそう感じるのだ。
自分はこの本がとても好きで、小学校の時から……あるいはもっと前から持ち歩いている。
もしかしたら物心つく前から持っているかもしれない。
温くなったココアを一口、口に含む。
壁に掛けられた時計は丁度0の数字を刺す48秒前。
もうそんな時間かと思いながらまた一口、舌に甘さが広がる。
ふと今日一日全く開かなかった携帯を開いて見るとそこには1件のメール。
相手は
メリー、軽く目を通す。
○○「んー……、――………眼が疲れているのか?」
何度か携帯を閉じたり開いたり。
バッテリーの残量、そして文字書式の確認。
部屋にある目薬もさして軽くストレッチもしてみた。
小さく欠伸が出た所で軽く目を擦りもう一度携帯の画面を見てみる。
そこには最初に見た時と変わらないメリーからのメール。
そして変わらない文章。
つまりまったく変わらない内容。
『○○へ
今日は色々着いて来てもらって
ごめんなさい
それでなんだけど、今日の……
正確には明日の午前2時15分に
いつもの場所で待ってます。
もし無理だったら来なくても
良いけれど、こんな時間に
ごめんね?
それでは、待ってます。
マエリベリー・ハーン』
大きな声を上げそうになって慌てて口を押さえる。
下手な事をして蓮子を起こすのは失礼だと思い落ちつく。
現在の時刻を壁の時計で確認する。
丁度12時改め0時を過ぎた所。
次に携帯の時計も確認、0:00:7と表示されている。
メールの届いた時刻は……、あの後別れてすぐだった…。
○○「何故メール?そして何故こんな時間?さらに何故別れてすぐ?……繋がんないし…」
とりあえずメリーの携帯に掛けてみたが反応なし。
正確には電波が届かないだとかなんとか。電源切ってるのか?
本当ならこんな時間に出かけるのは面倒だから遠慮したいが何も言わずに待たせて結局来なかったなんてのは自分がされたら嫌なのでその考えは止めておく。
仕方が無いので昔から着ているいつもの上着を羽織って出かける用意をする。
物音を立てないように二階から一階へ、そして玄関へ。
靴を履いて鍵をポケットに入れて腕時計を確認して…現在時刻は0:08:43、携帯のバッテリーを確認、問題無し。
そう言えばと思って今度は靴を脱ぎ台所へ。
○○「やっぱ、コレが無いとなー…」
自分は棚から瓶を、冷蔵庫から牛乳を取りだしてココアを作る。
この時間、この季節に温かいものを持たずに外出する勇気は自分には無い。
冷蔵庫の横の引き出しからチョコクッキーを取り出して一口、二口。
ココアをレンジへ、牛乳を温めている時間が長く感じる。
○○「……ぁ、そういえば部屋にココア置きっ放しだ」
部屋に中身の入ったマグカップを置いたままの事に気付き二階へ。
途中蓮子のいる部屋を取るが物音は無し、やはり眠っているようだ。
自分の部屋に入るとどうやら電気も消し忘れていたらしい、自分はマグカップを回収して部屋の電気を消した。
足元に気をつけながら廊下へ、目の前が見えない暗闇の中で先に廊下の電気をつけておゲバ良かったと後悔しながらそのまま階段を下りる。
マグカップの冷えたココアを飲みながら台所へ、丁度温め終わったようだ。
自分はココアを水筒へ移して冷えたココアを一気飲みする。
○○「…ふぅ…、さて……」
移し終わったところで蓋をしっかり閉めて再び持ち物確認。
財布、身分証明書、携帯、腕時計、水筒。
そこまで確認したところでついでにマフラーなども付けていく事にした。
再び階段を上り自分の部屋へ入り、電気をつけて箪笥に入れている手袋にマフラー、帽子に耳あてを回収して箪笥を閉める。
ふと視界に二冊の本が入ったのでついでに鞄にその二冊も放り込む。
○○「今度こそ準備万端!」
窓から外を見れば真っ暗。
今が夜なんだと実感させられる。
部屋の電気を消して……の前に今度は廊下の電気を先に付ける。
その後に部屋の電気を消して階段を下りて廊下の電気も消し玄関へ。
靴を履きながら家の中に灯りは無い事を確認して、ドアノブに手を掛けて。
○○「……ん?」
一瞬、誰かの声が聞こえた気がした。
蓮子は寝ている筈だし……。
まぁ気のせいかと思って再びドアノブに手を掛ける。
『ピリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ』
○○「ぬぁわっふぁーぃぃいッ!!?」
突如ポケットの中の携帯が威嚇するように震え、甲高い音を奏で始めた。
心臓に悪い。
まじで悪い。
まじと書いてマジ、そしてマジと書いて本当。
つまり本当に心臓に悪い。
止まるかと思った。
電気を消して暗闇の中でいきなり携帯を鳴らさないで欲しい。
一体誰だこんな時間にこんなタイミングで!
アレか?驚かしてショックで心臓麻痺にさせて自分を殺そうと言うテロかッ?!テロなんだな!!テロしかないよな!? メリーだった。
鳴り続ける携帯の通話ボタンを押して耳元へ携帯を。
メリー『えっと、○○?』
○○「この電話番号の形式は無効です。 国番号と電話番号を確認してから、もう一度おかけ直してください。」
切った。
つい勢いで切った。
メリーが悪いマジで悪い。
自分悪くないもん。
胸に手を当てると今現在進行形で心臓がバクバクとなっている。少し痛い。
再び携帯が鳴ったので再び通話ボタンを押して。
メリー『……あの、○○?』
○○「この電話番号は現在使われておりません。電話番号を確認のうえおかけ直しください。」
再び切った。
つい勢いとノリで切った。
今のは自分が悪い、少しだけ悪い。
メリーも悪い。
二度あることは三度あると言わんばかりに携帯が再び鳴ったのでこちらも二度あることは三度あると言わんばかりに通話ボタンをポチっと。
メリー『……あの』
○○「お客様のお掛けになった電話は、現在電波の届かない所に居られるか電源が入っていない為、掛かりません。」
更に切る。
流石に可哀相なので次に掛ってきたらちゃんと出よう。
これ以上は完全に自分が悪くなってしまう。
後でメリーに謝ろう。
携帯電話が、鳴る。
メリー『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい』
○○「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい、ごめんな――」
メリー『○○』
○○「はい、ごめんなさい」
メリー『泣くわよ……?』
○○「ごめんなさい、もうしません、だから泣かないでッ!」
電話越しにメリーの感情の籠った赦しを請う声が耳に届く。
今にも泣きだしそうなその声の中に呪詛の様なものが籠められている気がしたのでに本当にこっちまで釣られて泣きそうになるのを堪えて謝罪する。
唐突に感情の籠らない声音で名前を呼ばれ懇願を止める。
流石にやり過ぎたと少し後悔しつつそして更に謝る。
メリー『もういいから……、あと、声大きい』
○○「………」
怒られた。
仕方が無い、自分が悪い。
まぁ冗談は程々にして用件を聞く。
流石にこれ以上長引かせるとメリーも疲れるだろう。
○○「それで、なにかな?」
メリー『あの、起きてるかなと思って』
○○「うん、呪いのメールなら削除したよ」
メリー『えぇッ?!』
○○「ごめん、嘘。だから泣かないで」
メリー『もう…バカっ……。えっとね、ちゃんと読んでくれた?』
○○「うん、今から1時間53分19秒後に…だよね?」
腕時計と携帯の時計を交互に見ながら時間を確認する。
この時間、交通機関はほとんどがあまり機能しなくなり始めているので早めに出かけなければ。
自分は靴紐をしっかり結びながら答える。
メリー『あの、来てくれる?』
○○「うん、行くよ」
メリー『ありがとう』
○○「あの……ってもう切れてるし…」
メリーの声が聞こえなくなったので何事かと思って携帯電話を見れば通話終了の表示。
いつもはおとなしいがたまに強引なところがメリーにはあるなと思いながら自分は立ち上がる。
この時間では電車は当てにならないから自転車で行く必要があるだろう。
ならばもう出なければ。
○○「思ったよりも時間くったな……」
靴紐をしっかり結び終え、立ち上がり軽くつま先を蹴る。
携帯のバッテリーを再確認。
一つ減っている。
まぁ大丈夫だろうと思い玄関を開けて外へ、冬の寒い空気が自分を迎えた。
○○「眠い」
ここは学校から少し離れた小さな喫茶店。
なんでか24時間営業の地味に自分の良く行く場所だったりする。ココアもあるしね。
時計は携帯の1:53:41、約束の時間までもう少し。
つい急いで来てしまったは良いが肝心のメリーがまだ来ていなかった。
自分の家から此処までは自転車でくればゆっくりでもなんとか来れる程度の位置にある。
しかし自分は時間がもったいないと思って急いで漕いだまでは良いのだが予定より30分以上前に着いてしまった。
仕方なく自分は鞄の中から真っ白なメモ帳とシャープペンシル、略してシャーペンを取りだす。
その純白のメモ帳の上を滑る様にシャーペンが黒い線を残し右へ左へ奥へ手前へ。
幾つもの黒い線を残してゆく。
そこに描かれるのは三人の姿、背景には公園。
○○「ん……」
ふと奥の方でベルの音が鳴った。
時計を見ると結構な分数が経っていた。
頃合いからするとどうやらメリーが来たようだ。
自分はメモ帳とシャーペンを鞄に直す、鞄の中には先客…帽子とマフラー、手袋と耳あてが入っているが問題はない。。
メリー「おまたせ」
○○「眠かった」
メリー「ごめんなさいね?」
○○「うん、大丈夫」
自分の前の席へ座るメリー。
その手には自分の手。いつの間にか握られている。
冷たい、マジで冷たい。
せっかく温めた手が一気に冷えてゆく。
メリー「はぁぁぁ……、温かいわぁぁ、貴方の手…」
○○「そりゃどうも」
メリーの顔が面白い。
とても緩んでいる、その頬を思わず突いたり摘まんだり伸ばしたりしたくなる。
そんな衝動とはお構いなしに自分の手で暖を取るメリー。
気は付けば自分の手はメリーの手をすり抜けメリーの頬へ…。
メリー「へ?」
○○「……やぁらかぁ~い♪」
緩んだメリーの頬はまるで餅の用でついつい引き延ばしたくなる衝動を抑えつつぐるぐると小さく回すとメリーの表情もぐるぐると変わる。面白い。
それに対抗するかのようにメリーの手もいつの間にか自分の頬を掴みぐるぐるぐるぐる。
一体自分の表情はどうなっているのかがとても気になる、メリーの表情は……なんか笑いを堪えているっぽい。
本当にどんな表情をしているのか。
気付けばメリーの手は顔の温度で程良く温められており心地が良い。
メリー「うりゃ」
頬が何かに引っ張られる痛みを訴えた。
それでもぐるぐるぐるぐる。
反射的に自分もその手を左右に伸ばすとメリーの表情も左右に引き伸ばされる。
メリー「はひふぉふう」
○○「ほえはふぉっふぃほへふぃうあ」
お互いにお互い、頬を引っ張り合っているので何を言っているのかが解らない。
分からないので更に横に伸ばすことに。当然向こうも横に伸ばしてくる。
だんだん目尻に薄く涙が浮かんできたがそれはメリーも同じこと。
メリー「ふぁはふぇ~~…!」
○○「ふぉっひあはいにはあふぇ~……!」
店員「注文は…?」
○○「ほおあ!!」
メリー「ふぉおあ!!」
店員「ココア二つですね。」
店員は慣れた様子で注文を聞きいれ奥の方へと消えて行く。
多分一~二分でココアはやってくるだろう、まずはその前に此の目の前を片付けなければ。
両手に力を少し加えると頬に痛みが増す。
店内は人は店員数名と自分達以外全く居らず自分とメリーの声が良く響く。
店の奥では店員同士が駄弁っているのが聞こえてきた。
内容は他愛の無い世間話、自分とは多分無関係。
そのまま店の奥を覗いていると頬の痛みが急激に増した。
何事かとメリーを見ると全力で思いっきり睨んでいた。
勢いよく自分の頬からメリーの手が離され更に痛みが増す。
つい頬を抑える為に蓮子の頬にやっていた手を離しその手は自分の頬へ、きっと赤く染まっているだろう。
同時に手元に鮮烈な痛みを覚えた。
○○「いたい…」
メリー「ふん…」
何をふてくされているのかわからない。
メリーの頬は赤く染まっており、そんなに強くは掴んでなかったと思う。
そうこうしている内にココアが二つ。
先ほどと同じ店員が運んできた。
その目からは僅かに眠気が伺える。
自分がありがとうと言うと店員はそそくさと店の奥に消えてゆく。
頬を何度も摩っている内に不意に机からゴガッ…と思い音が上がった。
見ればメリーの顔は微妙に歪んでいる。
どうやらメリーは机の下から蹴りを入れようとしたようだ。
が、当たらず机の足に直撃したらしい。
その際自分のココアがメリーの素肌に少し飛びかかった。
メリー「熱っづァっ?!」
自分はメリーの手にかかったココアを軽くふき取るとココアが減ったと軽く愚痴る。
それに対してたった数滴だからいいじゃないと言うメリーに抗議しようとするが自分が負けるだけなので何も言わない。
そのまましばらく駄弁っていると眠気は何処かへ消えてしまった。
○○「んー?」
メリー「○○…」
○○「ん?」
メリーはココアを一口、真剣な声音になる。
それに合わせて自分もココアを一口、口の中に甘さが広がり幸せな気分になる。
思わずもう一口を口に含めばさらなる幸せが口内を満たす。
メリー「あのね……」
○○「昨日の続き?」
メリー「…………いや、そっちじゃなくて……。蓮子の事どう思ってるの?」
○○「こりゃまた昨日と同じく直球超特急な質問で」
再びメリーはココアを一口。
自分は二口、小さく息を吐けば幸せを含んだ二酸化炭素が世界の一部を浸食する。
どう答えたものかと二~三秒考える間にメリーは更に一口。
幼馴染……と答えるのは最早質問の意味を間違われていると思われるだろう。
自分はココアを一口、メリーも一口、そして少し息を溜めたことが察せた。
○○「どう思ってる……とは?」
メリー「思ってるは思ってる。言葉通り、文章にすれば文字通りの意味よ。例えば恋愛、例えば上司、友達或いは親友、他にも家族姉弟妹に姉、片想いに従妹や宿敵他人嫌悪感を抱く相手。そう言う意味で」
○○「うん、少なくとも他人とは思ってないね」
メリー「じゃあなんなの?」
○○「んー、じゃあ昨日の問いが終わったら答えてあげる」
メリー「卑怯者」
○○「正しくは臆病者だね」
そこまで言い終えたメリーは言葉を続けるのが少し辛くなったのか酸素を肺に取り入れ二酸化炭素を肺から追い出した後、ココアを一口。
自分も落ちついた気持ちで小さく息を吐きココアを一口。
自分カップの中のココアは既に2/3が無くなっている。
注文を追加しようかどうしようか。
そういえば鞄の中にはココアを入れたのが入っていたんだったな、じゃあいいや。
メリー「残念、相変わらず○○は逃げ道を探すのが上手だわ」
○○「そう言うメリーは逃げ道を用意してくれているじゃないか」
メリー「あら、何をしても同じ結果が出るなんて面白くないでしょ?」
○○「険悪な空気ですね」
メリー「さて、誰のせいかしら?」
○○「きっと誰のせいでもないさ」
メリー「そうね」
どうもメリーは機嫌が悪いらしい。
しかしそれをどこかで受け入れている自分はその原因を知っているのだろうか?分からない。
とりあえず今日一日……いや、今となっては昨日一日の事を思い出してみるがそんな事象はなかった筈。
とするとメリーが機嫌が悪いのは現在今さっきの間に起こった事だろうか?
真っ先に思いついたのは先ほどの頬をつねる行為だがこれは自分もやられたからお互い様だ。
さて、原因が解らなければどうしようもない。
○○「メリーさん、メリーさん。ちょっと、ちょっと」
メリー「なにかしら?○○」
○○「何をそんなに不機嫌で?」
メリー「…………普通、直球で聞くかしらそんな事。」
○○「自分にとってはこれが普通なので何ら問題はないよ?」
分からない事があるなら訊いてみよう。
もしかしたら正解が聞けるかも。
ココアを一口、少し中身が減ってきた。
そう言えばと思って鞄の中から水筒を取りだす。
中身は史上最高の飲料、ココア。が入っております。
メリー「そう、じゃあヒント」
○○「メリーさんの視線を逸らした回数」
メリー「その回数がヒントよ……って、違うわよ。何をさせたいのかしら?」
○○「かわいいかわいいメリーのかわいいかわいい困ったかわいいかわいい顔」
メリー「なぜそこまでかわいいを強調する」
○○「かわいいかわいいメリーがかわいいから」
メリー「冗談は顔だけにしなさいな、えい」
そう言いつつもメリーの顔は少し赤くなっている。
しかしいきなり何かを残り少ない残ったココアの中へいれやがった。
何を入れたのだと聞くと砂糖を入れたんだとか、自前で持ってきたのだろうか?
さて、次はどんなからかい方をしながら答えを聞きだそうか?
そう言えばメリーのココアもそろそろ切れるかな?
…………必要はなさそうだな。
○○「なんと、自分の顔は冗談な顔なのか」
メリー「えぇ、冗談としか思えないほど美形よ」
○○「なるほど、冗談だった」
メリー「答えは解ったかしら?」
○○「解ったのはメリーが自分を熱烈な視線で穴を開けようとしていることだけだったよ」
メリー「そう、残念ね?あら、もうこんな時間?」
諦めたように溜息を吐きながらその細いを見やるメリーの視線の先の腕時計は既に4の数字を短針が示していた。
こんな夜遅くに呼び出してごめんねと席を立つメリー。
自分はそれをただ座ったまま眺める。
メリー「あら、家まで送ってくれないの?」
○○「早く帰りたいので」
メリー「そんな態度じゃ嫌われるわよ」
○○「はよう帰れ」
メリー「はいはい」
手を振りながら店の外へと消えるメリー。
どうやらメリーの分の勘定も自分が払うらしい。
財布を持っていておいて良かったと安心しながら出費がすこし増えた事に後悔する。
自分は机の上の淹れられたまま一切残量の減っていないココアを一口。
それは自分のココアではないが問題はないだろう。
ココア一杯100円、二杯で200円。
財布の中から小銭を二枚、残ったココアを一気に飲みほし二枚をポケットに用意してカウンターへ向かうと注文を取りに来た時と同じ店員が対応した。
店員「ココアが二杯、計200円になります」
○○「はい」
店員「ありがとうございました」
自分は用意した小銭を店員に手渡しそのまま店の外へ。
冷たい空気は店で温めた身体の体温を急速に奪ってゆく。
白い息を吐きながらやっぱりもう少し店にいようかなと考えるが出ていってすぐに戻るのは気が引けるので自転車にまたがりそのまま帰路へ。
冷たい空気は息を白く染め上げ黒い空へかすみとかす。
自転車を漕ぎつつ、たまに停めて水筒からココアを一杯。
夏なら夜はもうすぐ開けるだろうが今は冬、朝日を拝むのはもうしばらく後になりそうだ。
○○「寒いなぁ…」
自分はココアを飲みながら暗い夜道をただゆっくりと帰り道に向かって漕ぐだけである。
ココアの味は、いつまでも口の中に広がる。
最終更新:2012年03月05日 22:22