「つきましたよ、ここが人里です。」
買い出しのために東風谷さんに連れられて、
幻想郷で人間の集まる 人里 というところに来た。
なるほど、確かに聞いた通り、自分の住んでいた世界とはかなり趣が違っている。
一番近い雰囲気でいうと時代物の映画に出てくる村、といったところだろうか。
しかし建物の窓や看板など、ところどころにガラスやプラスチック?のようなものが使われており、
海外の影響は外の世界に比べて少ないにもかかわらず、
その風景はどこかエキゾチックな雰囲気を漂わせていた。
「へぇ、結構活気がありますね。」
「妖怪に襲われる心配なしに暮らせる数少ない場所ですからね、
いろいろなものが売っていますから妖怪も結構訪ねてきますし。」
「訪ねる?人と妖怪に交流関係があるってことですか?」
「ええ、…というよりも幻想郷全体の決まりとして人里のなかにいる人間は襲ってはいけない、
というルールが、妖怪たちの間に存在しているんです。
ですからここを訪れる妖怪は人を襲う以外の何らかの用事があってきてるんですよ。」
「はぁ…………
しかし何のためにそんな決まりがあるんですかね…?
妖怪たちに得がない決まりに思えるですけど…」
「そこは私も詳しくは知らないんですが、なんでも妖怪たちの存在意義にかかわってるらしいですよ」
「存在意義、ですか…」
どうやら妖怪という存在は人を一方的に蹂躙するだけではないらしい。
成程、確かに通行人の中に、はねや尻尾の生えたもの、髪の色が緑だったり青だったりと
ファンタジー物のゲームから飛び出してきたような格好の人たち?
がところどころにいるのがわかる。
しかしそれらは非現実的ではあるけれども、コスプレのような不自然さは不思議と感じられない。
おそらくはその人ではないであろう者たちが纏っている気配、空気といったものが
明らかに普通人とは一線を画したものであるからだろう。
雑談をしながら舗装されていない道を進んでいくと
いくつかの店が集まっている小さな商店街のようなところに到着した。
ここで買い出しをするのだろう。
「いらっしゃいませ。早苗様、今日は何を買ってくれるんです?」
豆類や乾燥させたシイタケなどが並ぶ、半分乾物屋といった感じのよろず屋につくと
店の奥から店主が軽く会釈をしながらやってきた。
「そうですね…今日はこれとこれ、それからこれにします。」
「いつもごひいきにしてくださってありがとうございます。
他に何かあたしらに役に立てることはないですかね?」
「えっと、そうだ、霊夢さんの居場所とか、近況とかを知ってそうな人っていますか?」
「博麗の巫女様ですか。そうですねぇ…ああそうだ、最近の異変について聞くために
稗田様と慧音様が神社を訪ねたそうですよ。」
「なるほど、私たちのところにも異変について聞きたい
って訪ねてきてくれたんですけど、
やっぱり霊夢さんのところにも聞きにいってるんですね。
ありがとうございます。それじゃ、○○さん、行きましょうか。」
店主に軽く挨拶をしながら店を後にし、
その後も何件か買い物を済ませた後、とある家についた。
そこそこ大きな家だが、造りからなんらかの店ではないことはわかる。
さっきの会話の2人のうちのどちらかの家だろう。
「失礼します、東風谷早苗です。」
戸をノックしながら玄関であいさつをすると、
少し青色の入った銀髪の女性が出てきた。
「久しぶりだな、早苗。調子はどうだ?
……そちらの方は?」
「この人は○○さん。幻想郷に迷い込んでしまったみたいなんです」
「初めまして。○○です。」
「初めまして。ここ幻想郷の歴史の編纂をさせてもらっています、上白沢 慧音と申します。
……早苗、今日は○○さんの今後のことについて話をしに来た、ということでいいのか?」
「ええ、それもありますが、霊夢さんの近況も知りたくてですね。
慧音さんが最近霊夢さんを訪ねたって里で聞いたので。」
「成程な…。
……結論から言わせてもらうが、
今は霊夢には会わない方がいいぞ。機嫌が悪いからな。」
「機嫌が悪い?」
「なにせここ最近異変が立て続けに起きているからな。
異変に付き物の強い霊力や妖力のせいで、結界にもほころびが増えているらしい。
……当然結界の管理にかかわっている博麗の巫女にはそのしわ寄せがくる。」
「成程、霊夢さんも霊夢さんで大変なんですね…
う~んそうなると今外来人を外に出してっていうのは厳しいですか…」
「そうだろうな。せっかく結界をはり直しているのに
ここにきてまた緩めてくれというのは
いい気分はしない話だろう。」
2人の話していることは完全にはわからないが、
どうも元の世界に帰る、ということについては雲行きが怪しくなってきたようだ。
今後の身の振り方を考えなければいけないということか…。
と少々不安混じりに考えていると、話の内容が自分の処遇のほうへ移ってきた。
「早苗は○○さんの今後についてはどう思っているんだ?
なんならうちで寝泊まりさせてもいいが…」
「そうですね…最初はそんなに外に返すまで期間がかからない予定でしたから
神社で暮らしてもらうつもりでしたけど…
長く暮らすなら確かに人里が近い方がいいかもしれませんね。
山から下りるのも一苦労でしょうし。」
「まぁ今の霊夢の様子からすると、すぐに返すというのはおそらく無理だ。
…そうだな、里である程度の期間暮らせるようにこちらで手配をするから
その間だけ神社で暮らしてもらう、というのはどうだろう?」
「私は別にかまいませんが…
○○さんはどうですか?」
「ええ、今の提案の通りで構いません。よろしくお願いします」
…ここまでお世話になるというのに異論など出るはずもない。
むしろ2人の厚意に心から感謝の念があふれてくる。
「それでは、申し訳ありませんが
しばらくの間、辛抱のほどよろしくお願いします。
早苗、○○さんを頼むぞ。」
「はい、慧音さんも無理はしないでくださいね。
最近忙しそうですし」
「わかっているさ。」
こうしてどのくらいかはわからないが結構な間
この奇妙な世界に留まることがほぼ確実となった。
もちろんまったく常識の通用しない世界に身を置く
ということに対して不安もかなりある。
しかし、まだであって間もない自分に
ここまで親身になってくれる彼女たちの存在が
心の曇りを払ってくれているように感じられた。
最終更新:2012年03月05日 22:37