「やあ、可愛い子ですね」

里中の洋品店で買い物をしていると、不意に声をかけられた。
ニコニコと人の良さそうな青年が、私にカメラを向けている……服はまだ糊が効いていて、窶れてもいない。
恐らくは里近くに現れた外来人だろう。経験上、この郷に少なからぬ興味を抱いている。
そして、観光気分でこうして回っているのだろう……経験上、よく解る。

「ええ、可愛いでしょう。妻によく似ているって言われるんですよ」

私の後ろに隠れてはにかんでいる銀髪の少女、私の娘で三歳になる。
妻に似て甘えん坊であり、今回は初めての人里でのお買い物だ。
青年とはそれから暫く世間話をした。そして、何を買いに来たのかに話が及ぶ。

「妻との記念品を買いに来たんです。今日は彼女と結婚した記念日ですからね」
「おお、そうでしたか。お熱いですねぇ」

銀で出来たブローチを見せながら、私は今日という特別な日に思いを馳せる。

「ええ、丁度一周年です。短いようで、長かった様な気がします」
「え……? 1年?」

青年が困惑の顔になる。1年という時間と、我が子の年齢で混乱しているのだろう。

「まぁ、色々あったんですよ……それでは」

会計を済ませ、子の手を引いて外に出る。
暫く歩くと妻である咲夜が手を振って近付いてきた。
彼女も私に送る記念品を購入していたのだろう。綺麗にラッピングされた小包を抱えている。

「こらこら、咲夜。気をつけないと、お腹の子に差し障るよ」

彼女の体内には、私と彼女の子供が居る。
妊娠三ヶ月目の、長女の妹か弟だ。
長女の健やかな成長を見られなかった私としては、お腹の中の子が正しい時間の流れで育つことを切に願っている。

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最終更新:2012年03月14日 20:55