この罪は、滅ぼす事を許されない。
その罰は、贖う事を認められない。
……何故か?
罪を許し、罰を認める者が居なければ……
その意味を、失ってしまうから。
日を遮る曇り空が見えた。
まるで今の自分の気持ちを表現しているかのような、空の顔。
ふと。
扉を叩く音で、我に返ると、玄関に立ちノブに手を掛ける。
ゾクッ。
……不吉な予感がした。
何だ、苦手な客でも着たのだろうかと思いながら扉を開ける。
真っ直ぐと此方を見て
ナイフを脇腹に突き刺してきた。
……え?
「知りたくなかった。
知らなければ良かったのにね。
……貴方が私に近付いた理由を。
あの子に近付きたかったから、だったわね」
脇腹が熱を持ち、痛みと血が流れ出るように溢れてゆく。
倒れこみながら嗚咽を漏らす事しか出来ない。
「だから最近になって、私を捨てた。
……上手く行ったんでしょう、知ってるわ。
ずっと人形が見ていたの。
……気付かなかったんだ」
這いずるようして、アリスから離れようとする。
無駄だと何処かで思いながらも。
「……私はもう、人形遣いなんかじゃない。
人形のがまだずっと、マシな捨て方をされる。
全部偽物の愛情だったのに、幸せだった。
なら欠片でも本物の愛情をもらえた人形は、どれだけ幸せだったのかしらね」
這いずった分の距離、アリスが自分との距離を詰める。
「ほんと言うと、全部嘘でもよかったのよ。
あなたが死ぬまで嘘をついてくれてるなら、それで。
だって嘘をついている貴方は優しかったもの。
本当に。信じてたのに」
アリスの右腕が上がると、自分の全身が糸で拘束される。
ブヂリ、と肉が切れるような痛みが走る。
「○○、私の事……好きだった?」
絡んだ糸が、更に強く締まる。
「答えなくていいわ。私も聞きたくないし」
首に巻かれた糸が、皮を抉る様に食い込んでゆく。
息をする事も、言葉を発する事も叶わない。
意識が、朦朧としてゆく。
「私の好きなままの○○でいて。
大好きだったあなたを、これ以上嫌いになりたくないから。
……こんな事間違ってるって、きっと自分でも分かってる、けど」
ビヂッ
ゴトリ。
「今でもずっと、好きなの。どうしようもなく」
床に落ちた○○の頭を抱きしめると、目を瞑り壁にもたれかかった。
「これであなたを、好きでいられる……。
何も考えなくていい……。
○○を愛してる、人形でいられれば………………」
アリスはあれ以来、何も喋ることはない。
ただ幸せに浸るかのように、不気味に笑った表情で、何もしない。
まるで人形の様に。
あの後、自宅でうずくまっていたアリスは
魔理沙が見つけた。
始め面倒を見るといっていたが、霊夢が魔理沙の家では無理だと念を押したので、
神社の縁側で、アリスはただただぼうっとさせられていた。
「じゃあ帰るぜ。またな、霊夢、アリス」
魔理沙は話し終えるとさっさと帰ってゆく。
出していた茶碗を片付けると
台所に置いてあった包丁を手に取った。
アリスの所に戻るなり、
上着を破り捨てて包丁を突き立てた。
「……あんたは絶対に、許さない」
昨日あった傷の上に、更に傷を上乗せする。
ぎり、と刃で傷を、傷を、傷を。
……出血は、させていない。
「あんたが死んだら、○○と会えちゃうかもしれないでしょ」
「その時までに、あんたの体を見るに絶えない姿に変えておいてやる」
「そして、出会った時に呆れられて、もう一度本当に死になさい」
「簡単に死ねると思わないで頂戴ね……アリス」
友達だったから、これでも譲歩してあげてるんだからね。
罪は、滅ぼす事を許されない。
罰は、贖う事を認められない。
何故か。
罪を許し、罰を認めるものがいたとしても、
消える事の無い、その傷跡がある限り。
その意味は、存在し続けるから。
最終更新:2010年08月27日 01:11