俺の家には人形がある。名を、アリスという。
このお人形の由来については、あまり多くを語りたくない。
ある日の晩に俺の家にやって来て、縄と首輪を持って所有してくれとお願いしてきたのだ。
そのお人形とは幾らかの付き合いがあった俺は、戸惑いながらも彼女を所有した。
何故なら、俺はお人形に元々ぞっこんだったのだ。そのお人形が自分から俺のものになりたいと言ってきた。
人形、という言い方が幾らか歪に感じたが、それでも絶好の機会でもある。
俺は人形……アリスに自分の所有品である事を刻み込んだ。ベットの上でね。

そして暫く経った今だが……人形……いや、アリスは今も俺の傍らにある。
正直に言おう。やはり、アリスは人形じゃなかった。なれなかった。
人形師でありドール造型に置いて第一人者なのに、そのものになれなかった。

ちっと考えれば解る話だったんだよ。
人形に、奴隷になったからって感情まで俺の意のままに出来るかどうか。
出来る訳がない。

人形は放置されれば九十九神でも入らない限りは朽ち果てる。
意志がある人形にそれを許容できるか?
耐えられる筈がない。彼女は感心を得る為にあらゆる手を尽くす。

愛されない事に人形は耐えられるか?
耐えられる筈がない。愛され手元に置かれる事に人形の存在意義があるのだから。
彼女は愛を得られるよう、奪えるよう行動するだろうし実際にそうなった。

捨てられる事を人形は許容出来るか?
出来るはずがない。ただの金で買われた奴隷であれば、ただの人形であれば受け入れただろう。
だが己の意思で愛を抱き俺の元に存在する事を絶対とした彼女がそれを許容出来る訳がないのだ。

俺は、それらの事を全て実行した。
馬鹿げた話だと思うか? 上手い具合に彼女のご機嫌を取りつつ、奴隷、人形としてのアリスを楽しめれば良かったと?

……正直、俺はこの時こそ自分が幻想郷に『馴染んだ』と理解してしまった。
アリスの引いてしまいそうになる奴隷だの所有だのと言った言葉を、アリスの執着と歪みに満ちた愛を受け入れた理由を。

そうだ、俺はアリスの愛情を、人形で収まるかどうか確かめたくなったんだ。
俺の傍に居たいが為に人形になると宣言をした女が、どこまでそれを突き通せるかと。

結果は彼女にとって大失敗と言えるだろう。女の業を『人形』という枠で押さえる事など不可能だったんだ。
でも、俺の家に居るのはアリスという名の人形だ。そう言い張り続け、矛盾も破綻も無視しきった人形だ。
俺の傍に居たい。俺に愛されたい。それだけを求めてアリスは人形と自分を定義し続けている。

「○○、ご飯が出来たわよ。食べさせてあげるね」

アリスが指先を動かすと共に俺のスルスルと手が動き、彼女が精魂込めて作った料理を俺の口元へと運ぶ。
手足の神経を術式によりアリスの制御下に置かれた俺は、まさにアリスの操り人形だった。
先程挙げた人形へ対する試しにより、彼女は見事に人形の枠を崩壊させた。

彼女は『自分が人形として、奴隷として最善を尽くせるようにしたまでの事』と主張している。
人形がご主人様を人形にして、自分の家に閉じ込めるだなんて、どう考えてもおかしいのにな。

「大丈夫よ○○。私は○○のお人形さんだから……もっと愛してね。私も愛情で返すから。
 人形は愛せば愛す程生き生きとするものなのよ?」

無数のアリス人形が俺の一挙一動を見守る『○○とアリス人形のお家』。
それが、俺とアリスというゴシュジンサマとオニンギョウの在り方、そして歪な二人のアイジョウ。

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最終更新:2012年03月14日 21:02