「永琳先生、これでこれ本当に……」
「先生はつけないで、貴方と私は夫婦だったのよ?」
「え、ああ……ごめん永琳。何分、僕が狂気を帯びてしまって何もかも記憶にないから」
「しょうがないわ○○、これも精神病医療として有効な事なの。かつての生活をそのまま営めば、貴方の精神の歪みを癒す事も可能になるに違いないわ」
「ああ、ごめん。頭の中がまだぐちゃぐちゃになったような、そんな、思考もままならない状態なんだ……」
「大丈夫よあなた、脳髄は物を考える処に非ずよ、ただ、感じればいいの。私の温もりを、私の貴方に対する妻としての愛情を」
穏やかな面持ちの我が妻永琳と、部屋の外で太鼓をチャカポコチャカポコチャカポコと叩きながら踊り唄う妖怪兎達。
あ―――ア、そうか、これは治療なんだ。僕は一生、この屋敷で永琳に夫婦生活という治療を受けるんだという何故か漠然とした運命を感じた。
襖の間から、スカートが半ばまでずり落ち、ブラウスのボタンが全て取れ、乳房が丸見えな兎耳の少女が太鼓をチャカポコと叩いていた。
胡乱気で焦点の合わない瞳と、口の端から流れ落ちる唾液。明らかに正気ではないまま、彼女は狂ったように太鼓を叩いて屋敷中を行脚し続ける。
永琳が、僕に太鼓を差し出す。僕の手が勝手に動いてそれを受け取る。
チャチャラカ、チャカポコチャカポコチャカポコ。
チャチャラカ、チャカポコチャカポコチャカポコ。
チャチャラカ、チャカポコチャカポコチャカポコ。
衣装が乱れきった兎と、それに続く僕と妻。
これは夫婦の共同作業、愛で失われた記憶を繋げる愛の煉獄行脚。
お金はいらない愛情欲しい。病んで病まれて行き着いた先は、誰も彼も忘れ去られた幻想郷。
ああ、愛おしや終の世界。貴方と貴女が居れば他に何も要らぬ。
チャチャラカ、チャカポコチャカポコチャカポコ……。
最終更新:2012年03月14日 21:17