蝋燭の照明が照らしだす和洋折衷の部屋
茶色の髪と狸の尻尾を持つ女性と男性が絡みあっていた
女性の尻尾が、まるで電流が流れたかのようにピーンと立ち上がり吼えるような喘ぎ声とともに天上の高みへと上り詰めた。
「ぬしは所帯を持つ気はないのかの?」
― またかよ ―
「まだ年季が明けないので・・・・」
俺は、いいかげん言い飽きたお決まりのセリフを口にする。
この狸婆は金貸しを生業としていて羽振りがいいのか、月に二回俺を「買う」。
この稼業はあまり「仕事」を仕事として振舞うと上客を失う。
だがあまり「仕事」に色を付け過ぎるとこんなことになっちまう。
― 金で買える愛情なんてたかが知れているのに ―
「そうか・・・なら妾にならんか?金なら不自由させんぞ?」
「年季が明けないうちは妾になるのもご法度で・・・それに
マミゾウさんの迷惑になるし・・・」
そう言うと俺は狸婆の胸にしな垂れかかった。
「マミゾウさん・・・・暖かい・・」
「しかたないのぉ。でも困ったことがあったら言うんじゃぞ?」
「うん!」
― 俺はもうすぐ年季が明けてここからバイバイするがな ―
人里に離れた場所
そこには里人が立ち入ることのできない一角がある。
そこには力ある妖怪のみが入ることのできる遊郭が鎮座していた。
そこに働くのは外来人の男性のみ。
年季奉公が基本である此処は、衣食住と確実な安全が保障され年季が明ければ楼主の八雲紫の手で外界への帰還となる。
強欲巫女の「お布施」という名の外界帰還料は変動が激しい。
見ず知らずの化け物女とのまぐわいはネックだが、確実に外界へ帰還できるとあって外来人長屋での生活よりも娼夫となることを選ぶ外来人も多い。
○○もその一人だ。
安全と衣食住が保障されているとはいえ、所詮は苦界。
○○も水揚げ前に八雲藍から施された房中術で何度気絶したか。
だが、年季が終わりに近づくとだいぶ身体が慣れたのか、化け物女の要求を満たせるようになった。
楼主の間
「今日で終わりね○○」
紫のネグリジェにその身を包んだ楼主 八雲紫が○○に声をかける。
「最後の思い出に抱いてみない?」
豊かな二つの果実を○○の腕に当てる。
「約束を履行してもらいたい」
「つれないわね。いい旅を」
○○の身体は足元にできたスキマに飲まれて消えた・・・
「?!」
○○が見渡すと自分が見慣れない部屋にいることがわかった。
だが何処に居るかは見当がつかなかった。
外の様子を見ようと窓に近づいた。
「そん・・・な・・・・・」
窓の外には紅の館 悪魔の住む屋敷 紅魔館が見えた。
「出てこいスキマ!!!」
「五月蠅いわね」
空間に切れ目が走り、金髪を靡かせながら八雲紫が現れた。
「あの紅い屋敷は何だ!外界へ戻す約束じゃないか!冗談にしては悪質だぞ!!!」
「ちゃんと外界へ戻したわ。でも貴方は弾かれた」
「どういうことだ・・・?」
「あなた自分の事をおかしいと思わなかった?たかが人間が妖怪を満足させられるわけないじゃない?」
「それはお前達が俺達に精力剤を与えたからだろ!!」
「なら貴方はなぜ見えているの?今は新月、光すら見えない真闇の中で紅い色が見えるのかしら?」
― そうだ、なぜ俺は暗闇の中で色がわかったんだ? ―
「房術は男女の陰と陽の気を混ぜ合わせるもの・・・」
不意に○○の背後から声が掛けられた。
紅い中国風の花嫁衣装、紅い絹製の角隠しをつけた大柄の女性がたっていた。
○○には声に聞き覚えがあった。
勤めている屋敷の主が有給休暇をくれたとかでやってきた女で名前は・・・・
「紅美鈴です。旦那様」
「人間を妖怪化させるのはホントに簡単なの。特に力の強い女妖とまぐわえばね」
○○は全てを知った。
なぜ年季が明けない限り妾になることすら許されないかを。
それは中途半端な妖怪を野に放つわけにはいかないからだ。
「妖怪の雄は知恵が足りなくて。直ぐ里人に手を出して滅せられる。妖怪でも繁殖はしないとね・・・・」
「俺を・・・俺達を騙したのか!!!!!!」
「騙した?聞かなかったのはあなたよ。絶対の安全と衣食住を保障され枯れることない性欲を満足させてあげているのに?」
「この外道が!!」
「あなたは幻想となった。その証拠に・・・」
新たにスキマが開かれ、そこに映し出されたものは・・・
「あはぁ!いいわぁぁぁ!もっとなめなめしてぇ!」
婚約者が男と乱れた姿が映し出され・・・・
男が振り向いた
「アイツ友人だと思ったのに・・・・・」
「貴方のお姫様は新しい王子様を見つけた様ね」
「畜生・・・・」
紫が○○の首に扇子を当てる。
「あなたが人里でこのことを言いふらしてもいいわ、でも誰も信じないわよ。そしてあなたのような力弱い妖怪は遊郭へ行くことすらできない。」
「あとは貴方次第よ」
「ありがとうございます!」
「幻想郷のために励んでね。生まれ過ぎて困ったら私が面倒をみるわ」
紅美鈴が打ちひしがれた○○を抱きしめている姿を見つめながら、神隠しの主犯 八雲紫は満足気に微笑みスキマへと消えていった。
最終更新:2015年04月05日 23:24