1 
 秋も終わりに近い11月中旬。最近は寒い日が続いていたが今日は久しぶりの小春日和。
のんびりと縁側で日向ぼっこをしながら緑茶を啜り茶菓子を食べる。
ああ……平穏で静かな一時。爺臭い?ほっとけ。
 そんな静寂を破るかのように、すごく小さい足音と話し声が聞こえてくる。
「ここま…これ…あいつら…追ってこ…いで…ょ」
少しずつ音が大きくなり、目の前の茂みが蠢くと三匹の妖精が現れた。
「げっ……人間!」
一目見てそれはちょっと酷いと思う。それよりあの妖精達どこかで見覚えが……
「サニー、は、早く能力使ってよ!」
「わ、分かってるわよスター。ほらルナも……」
「え、ええ、すぐに……」
ものすごいうろたえ様だ、確かにここの家は人里離れているから、
悪戯をして逃げてきた妖精を何度か見ているので、こういう反応は慣れていると言えば慣れているが。
こちらとしては別にどうこうしようとする気はない……酷い危害さえ加えられなければ、だが。
「「「……」」」
三人の姿が消え音も聞こえなくなる。ああ思い出した、確か彼女達は光の三妖精って呼ばれている
妖精の一種だったっけ。妖精の中では割と強くて能力も持っていたはず。
たしか、金髪で赤の白の服装をして(あの巫女さんではない方の)昆虫のような薄い羽を持っているのがサニーミルク。
能力は光を屈折させる程度の能力を持っている。擬似的に姿を消せるらしい、悪戯にはぴったりだ。
次に、蜻蛉のような羽を持ち、サニーミルクと同じ金髪だが、ドリルのような髪型が特徴的なルナチャイルド。
能力は音を消す程度の能力。同じく悪戯向きの能力である。
最後に、黒の長髪でアゲハのような羽を持っているのがスターサファイア。
能力は動く物の気配を探る程度の能力……一番悪戯に向いていない気がする。
何に使うんだろう? 射的とか?
ちなみにこの知識は、稗田阿求著『妖精の神秘』より。
しかし、彼女達の能力を用いても足跡や草の動きは制御できないらしく、こちらからでもある程度の場所が分かる。
「……(痛っ)」
あ、誰か転んだ。
「(あっ、姿が……)」
ルナチャイルドだったようだ。サニーミルクが使う能力の範囲から外れたらしい。
立ち上がって走……そっちは大岩があ……
ゴツン! と鈍い音が響いた後ルナチャイルドが仰向けに地面に倒れる。


 ……気絶したらしい。放って置く訳にもいかないよな。
これが原因でめんどくさい事にならない事を祈ろう。
私は気絶している彼女を抱え、治療の為に救急箱を取りに行くのだった……



「あー! ルナが居ない!」
「また? う~ん、あの人間に変な事されてないと良いんだけれど……」



 とりあえずは治療は完了した。だが強くおでこをぶつけたらしく額が真っ赤に腫れている。
女は顔が命と言うが、妖精も当てはまるのか?
ともかく、額に包帯を巻いて少し不恰好になった布団で寝ている彼女は、まだ目を覚まさない。
そろそろ夕方、日はもう沈み始めている。

「……んっ」
あ、起きた。
「……ここは?」
寝惚け眼で周りを見渡している。
「あ!」
布団から飛びのいて私から距離をとる。いや、何もしてないって。
だからそんな汚されたか確認するような仕草をとらないでくれ。
私はロリコンじゃない、ましてや寝込みを襲う趣味を持った変態でもない。
「…っ」
額に触れて痛いのか、彼女の顔が少し歪む。
「包帯? ……これは貴方が?」
「そうだけど?」
彼女は意外そうな顔でこちらを見る。そんなに変か。
……いや妖精から見たら私は変かもな。
「私に何かした?」
「してません」
「……ええっと」
どう対応したらいいのか分からないらしく、彼女は音を消してうんうん唸っている(たぶん)
「あの……ありがとう」
軽くお辞儀をする。
「いや、気にしなくてもいいよ」
さすがにあの状況を放って置くほど私は冷酷ではない。

「……」
「あー、二人の所に戻っても良いと思うんだけど?」
「あっ!」
サニーミルクとスターサファイアの事を思い出したのか、走って……
おいそっちは障子がしまって……
「……危なかったわ」
今度は激突しなかった、良かった良かった障子を張り替えなくて済む。

 障子を丁寧に開け。彼女は一瞬こちらを見て夕日に向けて飛び去っていった。
初めから飛んで逃げろと思うのは無粋なのだろうか。



「ルナ大丈夫!? おでこに怪我したの? あの人間に変なことされなかった?」
「……そこまで悪い人じゃなかったわ。これは治療してもらったのよ」
「じゃあ変態さん?」
「それもちょっと違うと思うわ」
三匹の妖精は少しの間、あの奇妙な人間ついて言葉を交わした後、何時も通りの日常に戻っていった。
(……どうして?)
彼女は違ったかもしれない。



                 2
                次の日
  夜、一風呂浴びて、いつものように居間に戻ると……
「こんばんは」
彼女、ルナチャイルドが居た。炬燵に入り座布団に座りながらコーヒーを飲んでいる。
「炬燵って結構温かいですよね、私達も欲しいかも」
「そうだな」
淡々と相槌を打ちながら私も炬燵に入る。ぬくい。
「コーヒー飲みますか?」
そう言って彼女が炬燵の上にあるポットを指し示す。作ったのか、それとも持ってきたのか。
「いや、私はお茶派なんでして」
「あら、それは残念」
この光景は実にシュールだと思う。
「で、何のご用件ですか、ルナチャイルドさん」
「貴方のお名前は?」
「○○です」
「○○さん、どうして私の名前を知っているのかは分かりませんが、
私の名前はルナチャイルドと申します。ルナと呼んで構いません、以後お見知りおきを」
「はい、よろしくおねがいします」
正直な所妖精や妖怪の類とはあの出来事以来あまり関わりたくないのが本音だ。
ただでさえ変人だと思われているのに、場合によっては村八分にされかねない事態になる。
ましてや相手はあの光の三妖精の一匹……

 秋の夜長、鈴虫の鳴き声が響き渡りながら静謐な雰囲気が漂う。
「私がここに来たのは○○さんに質問したい事があったからです」
「質問?」
「はい、よろしいでしょうか?」
「御自由にどうぞ」
質問くらいなら変なことは何も起こらないだろう。
「では……何故○○さんは私を助けたのですか?」
「何故? う~ん、妖精といえども怪我をした幼女を外に放って置けなかったからかな」
「しかし、私達は里で悪名を馳せている悪戯妖精ですよ。なら気絶している間に
私を人質にサニーとスターを脅したり、村人に引き渡すなりなんなりすればもっと○○さんの
利益に繋がるような気がするんですけど……」
「まあ、こっちはそう酷い悪戯を受けているわけでもないし、こんな所だから別の妖精が
悪戯を仕掛けてくることも結構あるんだよ。とりあえず、よっぽどの事をしなければ
私は特に妖精を恨んだりはしないさ」
そう、極端に言えば、家を燃やされたり、五体不満足にさせられたりしなければ。
「慣れてしまった、と?」
「そういうこと」
彼女は少し考えて。
「それならばこの辺りにはそれなりに妖怪が出没するのではありませんか?
今迄どうやって身を守ってきたのですか?」
「博麗さんと東風谷さんの所のお札。定期的に補充に行くんだ」
「なるほど」
彼女は合点がいったという風な顔をした。
「最後に。私達をどう思いになりますか?」
「よく分からない。むしろ理解できない、まあ自然なんてそんなものだろうけどな」
「人間にしては、私達の事をよくご存知ですわね」
「本の受け売り、大したことじゃあない」

「これでいいか?」
こんな事を知ってどうしようというのだろう。
「はい結構です。大変愉……参考になりました。ふふっ」
そう言うと彼女はクスリと笑った。
先ほどまでの理知的な態度が、子供らしい無邪気な態度へと変わっている。
担がれたのか、馬鹿にされているのか。
「今日みたいに夜に、また遊びに来てもいい?」
「できれば止めてほしい」
「そう、じゃあね」
次の言葉も聞かずに夜空へと飛び去っていく、きっとまた来るんだろうな……
少しめんどくさく思いながら、私は月明かりに照らされている彼女の後姿を眺めていた。



「あ、おかえりー」
「私達もう寝るけど、ルナはどうするの?」
「もう少し起きてるわ、ちょっと読んでおきたい本もあるし」
「じゃ私達は寝るわ」
「ルナも夜更かししすぎないようにね」
「ええ、おやすみなさい」

 一人になったルナはランプに火を灯し、あの家から取(盗)ってきた
『妖精の神秘』を読み始めるのだった。



                 3
               数日後の夜
「この変態!」
出会い頭にそれか。
「前に借りた『妖精の神秘』って……」
ルナの顔が真っ赤になっている。あの本がなくなっていたと思ったら、
やっぱり彼女が持っていったのか。尤も内容は彼女にとってはちょっと刺激が強すぎたみたいだが。
「あーっと……えー…」
もじもじしている。
「そんなに妖精の○○や×××が……」
「これ以上言わないでっ!」
うおっ、被っている帽子が飛んできた。
それでも本を投げつけないのは借り物だと分かっているのだろう。
「ただの図鑑みたいな物じゃないか、何もそこまで恥ずかしがることはないだろうに……」
「う、うるさいわね、自分達の事が、あ、あんな風に書かれてたら……」
変な風に思われるといけないので訂正すると、『妖精の神秘』に書かれている内容は
主要な妖精(ルナ達など)の趣味・嗜好・弱点・対処法や、一般的な妖精の生態系さらには
外界の様々な妖精について書かれている。何故か芸術的な(あくまで芸術的な)裸体絵や、妖精になる方法や、
哲学的な内容が書かれてあったり、変態的であったり、かなり分厚く幅広い本である。合計約1000ページ。
「あんたも私の、か、体に興味があるの?」
「いや別に」
「そ、それならいいわ。ほらこれ返す!」
返すって、勝手に盗っていったんだろうに。
ルナは私に押し付けるように本を渡す。
「もうちょっとまともな本はないの?」
「それ以前に、何で態々それを盗ったんだ?」
「そんな題名だったからつい……」
「はいはい分かったよ、好きなもの借りていいから今度から盗んでいかないでくれよ?」
そういえば妖精の中でも珍しく彼女は本を読むことが多いんだったな。
「盗んでないわ、借りただけよ!」
自信満々に言うな。



 私は今○○さんの家へ来ている。結構ありがちな出会い方だったけれど
彼は私達の知っている人間とは多少違うらしい。いや、ズレていると言うべきかも。
しいて言うならば霊夢さんに少しばかり近い性格をしていると思う。
これで会うのは三度目だからまだ彼の事はよく分からないけど、
私達を付け狙う変態や、私達に恨みを持っている人間ではないのは確かだと思う。
……あの本を読んでちょっぴり身の危険を感じたけど。
「好きな本を借りていい。正し三冊まで、勝手に盗むなよ!」
「借りただけなのに……」
「ルナのした事は盗むと言う」
こんな会話をすると、紅魔館での魔理沙さんとパチュリーさんのやり取りを思い出す。
図書館と言えるほど、○○さんの書斎の本棚にそんな膨大な量の本はないけれど、ね。

 普通の民家よりは多いであろう本棚を私は漁っている。
パッと見置いてある本の種類は、ミステリーとホラー物が大半みたい。
一部に護身術(名前の通り魔法や弾幕関係)の本や、外界の書籍と思われる物もあった。
あっち系の本はたぶんない、ちょっと残……何に考えてるの私!
「外界の本のような物が幾つかあるんだけど、これどうしたの?」
「香霖堂で買った又は交換した」
へー、香霖堂にも行った事があるのね、ますます普通の人間と違ってくるわ。
「やっぱり○○さんて変な人間。こんな所で暮らしてるし」
「……否定はしない」
「昔、何かあったの?」

彼の言葉が暫く途切れる。少し言った事を後悔したが好奇心には勝てない。

「大人の事情ってやつ、むやみに立ち入らない」
「えー……」
答えてもらえなかった、それだけ深刻な事なのかもしれない。
多少気にはなったが、私は本漁りに戻ることにした。


 私が選んだ本、一冊目、氷羽チル著『陽炎』(KAGEROUではない)
二冊目、紅河似楼著『柴犬朔耶の赤屋敷』
この二つの本には、なんだか妙な違和感を感じたので借りてみた。
三冊目、八意永琳著『人間の神秘』これが本命の本。理由は『妖精の神秘』で
私達の事が詳しく書かれているなら、きっとこの本には人間の事が詳しく書かれているにちがいない!
という考えで借りたのである。簡潔に言えば○○さんにも『妖精の神秘』を読んで私の感じた、
こそばゆい気分を味わってほしいわけである。貸す時ちょっと渋ってたしこれで仕返しになるはず!

 帰り際。
「返しに来た時にまた変態って言うなよ」
「言わないわよ」
「どうだか」



 私が家に帰ってきた時、すでにサニーとスターは寝ていた。木の中は怖いくらい物音がよく響く。
自分でも情けないと思うけれど、あの後、炬燵とお茶に釣られて○○さんの家に長いこと居座ってしまった。
彼とはあまり話さなかったけれど、あそこまで居心地がよかったのは
普段騒がしいことばかりしているからなのだろうか。本当に不思議なものね。

 そしてまたランプに火を灯し、私は『人間の神秘』を読み始める。

「……」
暫く読んであの言葉が頭に浮かぶ。
(変態!)



                 4
                             さらに数日後の夜
「どうだった?」
ルナの顔はやっぱり赤い、前に釘を刺しておいてよかったと思う。
「ま、まあ興味深かったわ……貴方はどう思うのよ?」
炬燵の上に借りた本を置き、スルリと炬燵に入り込む。
「どう思うって……別になんとも思わないけど」
「ええっ! 自分達の事が書かれている本を読まれたのよ、何か感じないの?!」
「んな大袈裟な」
「信じられないわ……」
何をそこまで驚く必要があるのだろうか、詳しく書かれているなら他の図鑑だって同じことだ。
なにより、私の持っている本に書かれているのは精々特徴・構造あたりが限度だ
自分の思っていることや過去まで手は伸びて来ない。むしろそこまで書けるはずがない。
「自分自身を見知らぬ誰かに知られるのよ、怖くはないの? 恐ろしいとか思わないの?」
「ルナは犯罪者か? 私は暗殺者に狙われているわけじゃないぞ」
「それはそうなのでしょうけど、もっとこう違和感とか……見えない何かとか……」
「考えすぎだよ、それとも後ろ指を刺されるようなことばかりしたんじゃないのか?」
彼女達は悪戯ばかりしているから、報復が怖いという理由なら考えられる。
「う、う~ん……」
答えが出ないのか、心当たりがあるのか、彼女は思考を巡らせている。

 時間がかかりそうなので彼女は放置しておく、それよりも暇だ、ものすごく暇だ
彼女が来てからこんな時間は前よりは減るのだろうが、やっぱり暇だ、
真夜中に外に出るわけにも行かないし、もうこのまま寝ようか……



 やっと答えが出た、悔しいけれどやっぱり私は人間達の報復が怖いのだと思う。
今までしてきた悪戯は数え切れないし、ましてや木の中で隠れたように暮らしている。
サニーやスターがいない時に、人間に襲われて抵抗できるだろうか?
私達は何だかんだ言って人間を見下してはいるけれど、私一人で敵う相手なのだろうか?
弾幕や能力を使ってでも、偶に捕まりそうになる時もある。
今までの事を思い返してみると私は色々と抜けている、そんな気がする。

 あ、○○さん寝てる。
何で妖精を放っておいて、こう暢気に眠れるのかしら、縁側の扉も開けっ放しで、妖怪に食べられるわよ?
……帰るときに閉めておいてあげましょうか、きっとこれからも私の秘密の遊び場になるんだし。


私を襲わないでね? 初めての人間の友達なんだから。これでも貴方のこと信じてるのよ?


 私は戸を閉め夜空に飛び立つ。
(今度は昼にも来て見ようかしら)



                 5
               時は流れ12月
 前にも増して私は炬燵に潜っていることが多くなった、外は寒い、寒いのは嫌だ。
いつものように昼食を食べ、温まっていると縁側の扉になにかが当たる音がする。
妖怪か?そう思って対妖怪用のお札を手に取り扉を開けると……
(ぐへぁ)
「あははっ、当たった当たった~」
雪玉が顔の真正面に直撃する、すっげー冷たい。
声を聞く限り、投げたのはルナだろう。彼女が昼に来るなんて珍しい。
「……」
無言で構えて、お返しになけなしの弾幕を放つ、
その辺の下級妖怪や妖精すら倒せない代物だが驚かすには十分だろう。
「えっ!」
彼女にとっては意外だったのか、間一髪の所で弾幕を避けた。
「弾幕も出来るんだ……それなら、月符『ルナティックレイン』!」
おい馬鹿やめろ、スペルカードに対抗できるわけ……


「弱いわね……」
彼女は雪の上に大の字で仰向けになった私を見下ろす。
結局私は5秒と持たず被弾した。雪合戦のノリで彼女に弾幕を撃ったが、スペルカードを
使われてはこちらは手も足もでない。まあ、スペルカードを実際に使用している所を
見れただけいい経験になったと思うことにする。
「当然だろ、何の能力も持ってない人間がまともな弾幕を放てるわけないじゃないか。
それにこんなんでも時間をかけて習得したものだぞ。はあ冷たい冷たい」
私は立ち上がり雪を振り払いながら、部屋に戻ろうとする。
「ちょっと待ってよ」
彼女に袖の先を掴まえられる。
「何だよ?」
「弾幕勝負に負けたんだから、言うこと聞いて」
……詳しくは知らないがそんなルールがあった気がする。
なってこった、一体何をやらされるやら。
「なにをお望みですか?」
一呼吸おいて彼女は……

 「一緒に雪遊びしましょ」

彼女の口から出た言葉はとても意外なものだった。
「そんな風に呆然とされると困るわ」
「い、いや、もっと別の事を要求されるかと思って」
人としてのプライドを捨てるような……そんな事を。
「じゃあ……」
「ゆ、雪遊びでいいです。お願いします!」
「最初っから余計なこと言わなきゃいいのに……」


「へぶしっ! うう、きついな……」
普段から体を鍛えているわけではないので、すぐに私はへばってしまった。
「もう? たった三時間くらいじゃない。これでも私はあんまり動かない方なのよ?」
彼女は息切れ一つしていない、あれだけ激しく動いて疲れを見せないのは
さすが妖精といったところか。
「三時間!? そんなに運動したのは子供以来だな」
結構時間が経っていた。思ったより熱中していたということだろうか。
「体力がないと私達にはついていけないわよ」
「もともとついていく気もねーよ」
庭は彼女との遊びで、すっかり地面の雪が減りぐちゃぐちゃに掻き回されている。
縁側の前にある巨大な雪達磨が三時間も遊んだという時間の長さを実感させる。

「……ちょっと寒いわね、家に入っていい?」
「御自由に」
彼女と一緒に愛しい炬燵の元へと向かう、熱い茶でも飲もうか。



「いつまで居座るつもりだ」
現在時刻7時、私は夕食を食べようとするも、彼女は相変わらず炬燵に入りコーヒーを啜りながら
私から借りた本を読んでいる。
「ん、別にいいじゃない、悪いことは何もしてないし」
「まあ、そうなのかもしれないけど……」
なんだか妙な違和感を覚える、それと同時に安心感も。いつも家で一人だったから
感覚が麻痺でもしていたのだろうか。
寂しい……彼女がここに来ることが多くなってから、一人の時にそんな風に感じる
ことが多くなった気がする。
(まさか、な)
そんなことはありえないはずだ、それに三月になるとアレをしなければならない。
ここで暮らしてゆくには恐らく必須であるアレを。
ああそうか、そうなると彼女を三月いっぱいはここに来させないようにする必要があるのか。
まあ、まだこのことは言わなくてもいいか。

 結局彼女は夜遅くまで私の家に居た。
最終更新:2017年04月08日 04:55