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 彼と会ってから数ヶ月が過ぎた……どうしてだろうか、少しずつ私の中で彼が大きくなっていく、
最初この気持ちに気付いた時はただの気の迷いだと思っていたはずなののに。
彼はただの友達、そうでしょ? 私。
「どうしたのルナ? ボーっとして」
「へ? あ、な、なんでもないわ」
サニー話しかけられて少し驚いてしまう、いけないいけない彼の事を考えないようにしないと。

「そんなんじゃ、また人間に捕まるわよー」
「最近のルナは変よ、悪戯の時も集中してないし……」
そういえば彼の家に行く頻度も心なし増えたような気がするというより最近はも
う毎晩毎晩彼の家で本を読んだりコーヒーを飲んだり彼をからかったり……いつ
も夜行っているから二人には知られてないけどこのままじゃいつ発覚してもおか
しくないでも彼の家に行かないのはそれはそれでつまらないしいやサニーとスタ
ーと一緒に居るのが楽しくない訳じゃないんだけど何と言えばいいのかしら落ち
着くしそれに軽い悪戯ならしても怒らないし本についてもよく話すし私の疑問に
も答えてくれるしなんだかんだいって気を遣ってくれるし彼は変人かもしれない
けどだけどそこが結構素敵で魅力的でできればもっと傍に居たいと思っ……

「「ルナ?」」
「あ……な、何?」
「もしかして、恋でもしたんじゃないの?」
スターに考えを逸らしていた所をブスリと突かれる。
「な、な、なに言って、ってるの、こ、こ、恋なんて、し、してないわ!!!」
自分でも表現しきれない気持ちが湧き上がり、取り乱してしまう。
ああ、これじゃあ、はいと言っていることに変わりないじゃない……
「「*1」」
うう……二人の視線が痛い。
「ねーねー、ルナの好きな人って誰? 私、興味あるんだけどー」
「そうそう、ぜひ知りたいわ」
ニヤつく二人。
『私に好きな人はいないわ!』 
……そう言いたかったけど、彼の顔を思い浮かべると、はっきりとは言えなかった。
いてもたってもいられず外へ飛び出す。

二人は追ってこなかったが、私の聞いていない所でどんな会話をしているかと思うと
恥ずかしくて堪らなかった。
これからどうしよう……やっぱり彼の元へ遊びに行こうかしら。
(ただ、遊びに行くだけ遊びに行くだけ)
そんな風に言い聞かせながら彼の家へと向かった。


 彼の家に着いたときにはもう空が茜色に染まりかけていた、相変わらず縁側の扉は開けっ放しで
いつ妖怪に食べられてもおかしくない状態だった。
(……仕方ないわね)
彼を起こさないようにゆっくりと扉を閉める。
何か悪戯をしてやろうか、そう思いながら炬燵で寝ている彼の元へ移動する。
「ZZZ」
少し小さめの鼾をかきながら仰向けに寝ている彼、少しだけ可愛いと思ってしまった。
(とてもじゃないけど悪戯する気は起きないわね)
となると、何をしようかしら。

そういえばもう夕方だった……私が見る限りでは彼はちゃんとした物を食べていないみたいだし
ここは一つお料理でも作ってあげましょう。別に冷蔵庫の中の物使ってもいいわよね。
台所に向かう途中、思わず鼻歌を歌ってしまう。
(これじゃあまるで新妻じゃない……私はただ心配してお料理を作ってあげるだけ、それだけ!)
しかし、どうにも私の気持ちは浮つくのであった。



「ね…、起き………」
ううんもう少し。
「起き……いっ…ば! お料…冷めちゃ……ゃ…い!」
ふぁ……誰だ? ああ、家に入り込むのは彼女しかいないか。
「ああ、もうこんな時間……まだ6時半じゃないか」
彼女が来たから寝すぎたのかと思ったがそうでもないらしい。
「やっと起きたのね。ほらお料理作ってあげたから、冷めないうちに食べなさいよ」
炬燵の上には見事な和食が作られて置いてあった。
いい匂いで、盛り付けも外見も素晴らしい出来だ。
ただ一つ欠点を上げるならば私の家の冷蔵庫にこんな食材はなかったということだけだ。
「ルナ、この食材どこから取ってきた?」
「そのへんのいろんなところから取(盗)ってきただけよ?
もちろん冷蔵庫の食材も幾らか使わせてもらったけど」
「……ほどほどにな」
妖精だから仕方ない……のか?
ともかく、不吉な考えは忘れて、目の前の美味しそうな料理を堪能することに集中する。
「いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」

「いやー美味かった美味かった」
久々に手の込んだ料理を食べた。これくらい美味い料理が作れるようになりたいものだ。
「そ、そう? なら良かったわ」
こころなしか、彼女の頬が赤い気がした。
「なあ、ルナ。どうして私にこんな料理を作ってくれたんだ?」
一番疑問に感じていた事を質問してみる。
「……貴方の何時も食べてる物が酷すぎて心配になったからよ」
確かに私の食べている物は主にインスタント食品が多く栄養は偏っている。
だが……いや、止めておこう気にしすぎだ。
「……ありがとう」
「別に感謝される程の事でもないわよ。また暇があったら作ってあげるわ」
「……」
「どうしたの? もしかして嫌だった?」
「な、なんでもない。これからも美味しい料理を頼みます。ルナ様」
「ふふん。任せなさい!」
少しづつ彼女との距離が狭まっている気がする。良いことなのだろうが
それがいつか苦痛と恐怖が伴う事になる日がくるかもしれない。
その時に私は彼女を傷つけないようにすることが出来るだろうか?
(母さん父さん……)
そしてあの金髪の妖怪。今でも思い出したくない幼少期の心の傷。
ちょっと疲れた、横になろう。

「お腹いっぱいで眠たくなる気持ちは分かるけど、
ご飯食べた後に寝ると牛になるわよ?」
「ならないならない、それに寝ないちょっと休むだけ」
「お風呂沸かしておきましょうか?」
「ああ頼む」

 帰り際
「なあルナ、三月いっぱいはこっちにこないでくれないか「どうして?」
言い終わる瞬間、彼女はすぐさまそう言った。
「……聞かないでくれ、ともかく絶対に来ないでほしいんだ」
「……」
しばらく彼女は沈黙した、顔は無表情だ。
「分かったわ、三月いっぱいでいいのね?」
「ああ、ごめんな」
「気にしないで、一つ楽しみが減るだけだから」

幾つか言葉を交わして。

「じゃあな」
「お休みなさい。また一ヶ月後に」
そう言って彼女は飛び去っていく、背中がとても寂しそうに感じられた。


「やあ、お邪魔だったかなー♪」
「てゐか……」
彼女が去ってから数分もたたずに、物陰から一匹の兎が飛び出す。
因幡てゐ。私の取引相手。彼女のお陰でここでの暮らしは成り立っていると言っても過言ではない。(のかもしれない)
「私の知らない間に彼女を作るなんてあんたも隅に置けないねぇ~」
「彼女じゃない」
てゐは私の周りを回りながら面白いものを見たと言わんばかりにからかう。
「じゃあ奥さんかな?」
「ただの友達だ」
そう今は。
「ふ~ん、そう。じゃ本題ね。来月は何匹相手してくれるの?」
「何時も通り三匹」
「え~もっと増やしなよ。薬はこっち持ちなんだからさ」
「腹上死させる気か」
そう、私は彼女から幸運を分けてもらう代わりに(本当に貰っているか怪しいものだが)
その部下?である兎達の発情期の相手をしているのだ。無論、普通の人間では一匹を相手することすら厳しい、が、
永遠亭に住む薬師、八意永琳の作った薬を使うことで、なんとか私は兎達の相手をしている。
てゐ曰く、この時期になると自分だけでは発情した部下を制御できず、
かといって放置していると里の方に相手を求めて行くことも結構あるそうなのでほとほと困っていたらしい。
そんなこんなで、兎達の相手になってくれる人間(じゃなくても構わないらしいが、なるべく生物の方が満足するらしい)
を探していたら私と知り合った訳である。
ちなみに楽しそうと思わないほうが良い、確かに気持ちはいいかもしれないが朝昼晩一日中
相手をしなければならないので結構体にくるものがある。もっとも薬のお陰で幾らかは緩和されているが
下手をしたら死ぬ。間違いなく。それくらい激しい。
「ねえ、あんたもそろそろ落ち着きなよ。もうあの子達の相手をするのも苦しいでしょ」
「私を老人みたいに言うな。まだ二十八だ。それに結婚する相手なんて居ない」
「あの妖精がいいんじゃない、私が見るにあんたに惚れてるね。
あの子と一緒になったらきっと幸せになれるよ。私が言うんだから間違いないね」
てゐは無視して言葉を続ける。
「まさか」
「それとも子供の頃の出来事が、あの妖精からの愛情を受け入れるのを拒絶させるのかな?
母親を妖怪に食い殺され、父親はその妖怪と駆け落ち……酷い話だね」
「どうしてそれを」
知っているんだ、一部の人を除いて誰にも話していないはずなのに!
「取引相手を調べるのは当然の事、詐欺にでもあったら堪らないからね。
まっ、あんたは信用できる相手で良かったよ。これからも末永く
お付き合いしていきたいもんだね」
「とにかく、来月の相手はいつもどうり三匹……」
「おっと、まだ話は終わってない! ちゃんと全部聞いてよ、さもないと不幸にするから」
そう言われては黙るほかない



「あんたの気持ちも分かるよ、とっても辛い出来事だったよね。でもさ、だからって彼女の
気持ちを受け入れないのは良くないね。ああ、もしかしたらまだ伝えてないかな?
もしかしたら彼女自信もあんたを好きって気持ちに気付いてないかな?
まあどっちでもいいや。ともかく私が言いたいのはさ……」

「私もあんたのこと結構好きだから、幸せになってほしいんだ。怖がる必要なんてないよ。
ううん、むしろ怖がってちゃあんたの父親の二の舞になるかもしれないね。あっ、ちょっと意味が違うか!」

「……その顔、意味が分かってない?じゃせっかくだから教えてあげる。
あんたの父親はね、母親を殺した相手と一緒に仲良く……いやどちらかというと一方的な愛情を与えられて
暮らしてるよ」

「ふふ……驚いた?私は知ってるんだ、あんたの父親はね、妖怪に愛されちゃったんだ。
まあ分かってると思うけど、彼は結婚してたから当然その妖怪と一緒になることはできない。
でもね、それで諦めるほどその妖怪は諦めが良くなかった。で、結果としてあんたの父親と
一緒になるためにあんたの母親は食い殺されたって訳さ」

「あんたは結婚してない、確かにそう、なら安心?違う違う、私の言いたい事はそんなんじゃない。
例えるならあんたにほしい物があったとする、そしてそれが目の前にある。
しかしそれはどうやっても手に入らない……自分の手を汚さない限りは。
普通そんな酷い方法はとらない。でもね、毎日毎日目の前にそれがあり続けたらどうなると思う?」

「……そう、あんたならそうかもね。でも私達は違う、あんた達人間と違って妖怪……もちろん妖精も含むよ、
には力がある、それを自分の物にし続ける力が、誰にも気付かせず隠し続ける力が、
そんな力があったらあんたはどうする?
ううん、言わなくていい。その時なってみなきゃ分かんないと思う」

「ね、もう分かったでしょ、彼女を受け止めてあげたほうがいいよ?
あんたが兎達と交わってる所を見たらどうなるかな?
少なくとも良い方向には作用しないね、絶対」



「来るなって言った?無駄無駄、三日も持たないね。
明日は三月一日、もしかしたら彼女は約束破って来るかもよ?
……まあ要は歪んだ方向に愛情を向けさせないために、
あんたは彼女と一緒になる必要がある!拒否権なし!分かった?」
色々と衝撃的過ぎで思考が整理できない。


「……ごめん一気に喋りすぎちゃった。
私はもう貴方のところに来ないから焦らずにじっくり考えて」

「聞いてないか……頑張ってね応援してるよ。                                       『好きだよ○○幸せになってね」



                      7
                                        三月一日の朝
 昨晩の出来事以来どうにも頭が回らない、父さんが生きているという事自体は
そこまで驚くことではなかった。しかし、ルナがあの時の妖怪のようになる? そんな馬鹿な。
可能性としては0%ではないが幾らなんでも無理がある。
だが、てゐの言ったことにも納得できる部分があるのもまた真実だった。
私はやっぱりルナに好かれているのだろうか? だとしたら私はどのような行動をとればいいのか。
「分からない……」


 夜、子供の私は物音に気付き目を覚ます。両親の寝室からのようだ。
妙な胸騒ぎがした、心配になって寝室へ私は向かった。
……月明かりに照らされた寝室には惨たらしい光景が広がっていた。
そこには一人の金髪の女性と、もう肉塊と変わりない母さんの亡骸があった。
私はショックで呆然としていると金髪の女性がこちらに気付いた。
こちらを向いた彼女には大量の血と肉片がべったりと付着していた。
私は恐怖で一歩も動くことができなかった。
金髪の女性がじょじょに近づいてくる、私を食い殺そうとしているのは血走った目を見れば一目瞭然だった。
その時、どこからか現われた父さんが女性の前に立ちふさがった。父さんは女性と何やら会話をした後、私にこう言った。
「すまん」と。
もうここから先は覚えていない。
その後の私は隣人に発見され無事保護された。父さんの行方は分からなかった。



 私は昨晩から眠れなかった。
貴方から三月いっぱいは家に来ないでほしいと言われた瞬間から心の中に様々な負の感情が渦巻いていた。
だた一ヶ月来なければいい、それだけの話なのにとても悲しくてとても苦しい。
ああ、私は明日から貴方の所に行ってはいけないのだ、ねえどうして? 
ねえ○○私は貴方に嫌われるようなことをしたの? 教えて?
私がこの気持ちと正面から向き合わないからなの? そうなの?
知りたい、何故貴方の家に行ってはいけないのか、知りたい。知りたい知りたい知りたい。
貴方のことは何でも知りたい、辛いこと苦しいこと悲しいことなら助けになってあげたい。
だから行くわ。約束を破って貴方の元へ。もう自分の気持ちは誤魔化せないから。
「ルナさんルナさんどこ行っくの~」
「私とサニーをお供に付けませんか~」
木の中から出ようとすると、サニーとスターがおどけながら話しかけてくる。
「いいわよ。ちょっかいをださないのならついてきても」
「「えっ?」」
私の反応が予想と違ったのか、二人とも唖然としている。
どの道後からついて来るくせに。
「そ、それなら遠慮なく付いていくわよ!」
「さ、さあ鬼ヶ島へ出発!」
もう私はあの人の事でからかわれても、はぐらかしたりしない。
だって好きだから。

『サニー、ルナの好きな人ってどんな風なのかしら?』
『う~ん、私にも分かんない。でもあのルナが好きになった人……
たぶん人間だよね?もしかしてもっと別のおぞましい……』
「聞こえてるわよ」


 貴方の家に着いた、相変わらず縁側は開けっ放しで無用心、ちょっと開放的すぎるわね。
でもそのお陰で私と貴方が知り合えたのかもしれないけど。
「サニーとスターはここで隠れて待ってて」
「了解!」
「仰せのとおりに」
……どうせ能力で入り込むのでしょうけど。

 私は能力で音を消しながら、それでも細心の注意を払って、ゆっくりと貴方の家の縁側へと向かう。
(また寝てるのかしら)
特に変わった気配は感じられない、私がいつも来ている貴方の家だ。
(……いい加減炬燵をしまった方がいいような気がするわ)
めんどくさがり屋の貴方のことだ、片づけが億劫になって出しっぱなしにしているのだろう。
この容態ではきっとまた寝ている。
(貴方が私を嫌がる理由は何なのかしら?)
そう思いながら炬燵の向こう側に回り込む。
(寝てるわね)
貴方は安らかな寝顔で鼾をかいている。普通だったらもうすぐお昼なのでまたお料理を作ってあげたいけれど、
今それはできない。何故私を家に来させたくなかったのか、急いで調査しなければならない。
私は別の部屋へ手がかりがないか調べに行った。



(どうして!どうして何一つ手がかりになる物が出てこないの!)
あれから、30分ほど貴方の家の中を急いで調べたけれど、それらしい物は一つも出でこなかった。
奇妙な物はあるにはあった、錠剤が数粒ほど残った薬瓶。しかし、調べた限りでは
貴方が重い病気に罹っているということでもなかった。
もっと時間があればこの家を隈なく探せるのかもしれない、でもその時間はもうない、
貴方はそう何時間も寝ていたりはしないだろう。
(やっぱり直接聞くしかないのかしら……)
貴方を傷つけずに聞きだせるだろうか? 今ですら私は貴方との約束を破っているのに。

『どうなっちゃうんだろうね』
『ルナがここまで必死になるなんて……』

 私はここまで来てまだ覚悟を決めていなかった、今貴方を起こして問いただせば済む話だけど、
どうにもそれができない、躊躇ってしまう。
そうして決めあぐねて、何気なく貴方を見ると、顔に汗をかいていた。
悪夢でも見ているのだろうかとても苦しそうだ。

そう考えていたら、何時の間にか私は貴方を抱きしめていた。
私は貴方のように大きくないから、全部は包んではあげられない、
だから私は精一杯の愛情をこめて、貴方の頭を中心に守るように包み込む。
これで貴方の苦しみを少しでも減らせたのなら私は幸せ。



 あの悪夢から目を覚ますと、私は誰かに抱きしめられていた。
「……ルナか?」
返事は返ってこない、代わりに抱きしめる力が苦しくない程度に強くなった。
「ルナだな」
服装と匂いで判別できた。しかし彼女は相変わらず何も言わない。
てゐの言った通りルナはやって来た、となるとやはり彼女は……
「私、貴方が好きなの」
……そうか。
「ねえ教えて? どうして貴方の家に来てはいけなかったの?」
彼女は抱きしめる力を緩めた。
彼女を見上げると、目がとても悲しそうに潤んでいる。
「ゆっくりでいいわ、時間をかけて全て話して。全部聞くから、どんな事実でも受け止めるから」
ありえないと思いつつも私は感じとってしまった。あの時の妖怪と同じような狂気、その極々一部の芽が存在するのを。
私は父さんと同じ結末を迎えるのか? だとしたらそれを防ぐにはどうしたら?
そして私と彼女、両方が幸せになれる方法は?
「○○、どんな自分勝手な理由でも、私は怒らないわ」
分からなかった、だが今取れる選択肢は二つだけ、理由を話すか、話さないか。

……私は話す方を選んだ。

『ねえスター、私達ここにいてもいいのかな……』
『でももう後には引けないし……』

「そう、だいたいは分かったわ」
彼女は大きく深呼吸して。
「一つ、私は貴方を傷つけたりしない、ましてや貴方の知り合い・友達には手は出さない。
二つ、一方的な愛情の押し付けもするつもりもない。嫌な事があれば言って頂戴。
三つ、……貴方がしたいって言うのなら、そ、その、体も自由にしていいから……
四つ、私には貴方の心の傷は完璧に理解はできないけれども、
それでも私は精一杯努力して、私の何もかもを貴方に受け入れてもらえるようにするわ。
五つ、今すぐに私のこと好きにならなくったっていいわ。時間はまだたっぷりあるんですもの。
……これでも駄目?」
不安げな瞳をこちらによこす。問題は何もない、むしろ都合が良すぎる気がした。
だがルナはここまで言った、自分の欲望を抑えてまで。
だったら、私もそれに真摯に答えなければならない。
「分かったよルナ、今日からまた私の家に来てもいい。いや、来てください。
本当は私は一人じゃ寂しいんだ。友達や知り合いも連れてきていい、いつだって歓迎するよ。」
大丈夫だきっと良い方向に向かっている。そうだ万事上手くいくさ。
「本当!?」
ルナの顔がパッと明るくなる。これでいいはずだ、
彼女の言うとおり時間はたっぷりあるのだから。

『告白成功?』
『ちょっと違うんじゃないかしら』
『でも、あんな嬉しそうなルナの顔初めて見た……』
『私もよ』


                8
 この二人を見ているのはサニーミルクとスターサファイア以外にもう一匹いた。
(良かったね○○……)
因幡てゐは羨ましそうに、悲しそうに、幸せそうに、一つの決断をした二人を見ていた
(○○私はね、貴方の心の傷を知ったとき喜んじゃったんだ。
これを利用して、貴方と一緒になれるかもしれないって思ってね。
……でもね、すぐこうも思ったんだ、好きな人の苦しい出来事を知って喜ぶなんて、
彼女として、伴侶としても、失格だって。確かに私の能力を使えば幸運を
貴方にもたらすことができる。でもその幸運が貴方の本当の幸せとは限らない。
そして私は貴方の不幸を喜んでしまった、そんな私が貴方を本当に幸せにできる訳がない)

(彼女と幸せに○○、こんな私だけどせめてもの罪滅ぼし、
貴方達二人にいつまでも仲良く暮らせるような幸運を送ります。
……さようなら)
因幡てゐは泣きながら森を駆けていく、普段の彼女を知っている者が今の彼女を見たら
さぞ驚くだろう。



 彼女はいつもの竹林に戻ってきた、その手には丸薬が握られている。
彼女は少し悩んだ後、意を決してその薬を飲み込んだ。
その後彼女が○○の所へくる事はなかった……


 その薬の包装紙にはこう書かれていた、『忘却の薬』と、
因幡てゐは○○を忘れ去った、それが一番の幸せだとでも言うように。
最終更新:2012年03月14日 22:07

*1 分かりやすい……