命蓮寺から二ッ岩マミゾウが消えた。
常日頃からマミゾウを慕っていたぬえはショックを隠せないようだ。
私は薄々気づいていた。
彼女が愛しき人を追って外界へと行くことを・・・
話は数週間前に遡る。

私は人間と妖怪の共存共栄を掲げてここ命蓮寺を建立した。
そのため、人間と妖怪の諍いの調停をすることも多い。
だがその日は違った。
スキマ妖怪の式 八雲藍に案内されて遊郭に降り立った。
マミゾウが座り込んだ部屋はひどい有様だった。
和風の書院作りの床は砕け、そこそこ名のある書家がしたためであろう掛け軸は無残にも引き裂かれていた。

「マミゾウさん・・・これはどうしたの」
私が問いかけても、彼女は咽び鳴いているだけだった。

「店の者が喋っちまったんだよ。アイツは年季が明けて此処を出て行ったって」

その男は象牙のシガレットホルダーに両切りの煙草を挿して吸っていた。

「ううっ、何で・・・何で何も言わずに消えたんじゃ・・・・」
「これ以上居たら店の迷惑になります。命蓮寺に戻りましょう」
私は彼女を抱えた。
「・・・弁償は命蓮寺宛てでお願いします。このことはできれば内密に」


マミゾウが消えた翌日、私は再び遊郭に赴いていた。
私も妖怪相手の遊郭が存在していることを知っていたが、落ち着きのある彼女が男に夢中になるとは考えていなかった。
短い付き合いだったとしても、彼女は命蓮寺の仲間。
彼女を慕う者は里人にも多くいる。
私は番頭に金子を渡し、○○を呼んだ。

香を焚きこみ、化粧を施された○○は娼夫というだけあって並の女性よりも色気があった。
煩悩など捨てはずの私でも体温が上がるのを感じる。

「この前の尼さんか。じゃあ・・・シようか」

○○と呼ばれた少年が絹織の着流しを脱ごうとしたのを、慌てて止める。

「違うのです!そういった邪淫の行いなど・・・・」
「アンタ俺を抱きに来たんじゃなネぇの?」
「それはですね・・・・」

私は事情を話した。

「抱かないならそれでもいいけど、金は戻ってこないぜ?」
「いいんです!それよりもマミゾウさんを見ませんでしたか?」
「マミゾウ?ああ、あの狸女のことか・・・アイツならもう此処には入れないぜ、出禁さ。」
「入れない?」
「掟で決まってんだ。一度でも問題を起こした奴は此処の結界をくぐれなくなる。楼主のスキマのおかげで俺達の安全は完全に守られているってわけさ」
「年季の明けた娼夫はどうなるのかしら?」
「さあな。アイツは外に婚約者がいるって言っていたからな・・・楼主に言って婚約者のところに向かったのかもな」

○○は金色のコウモリが描かれた緑色の紙箱から、一本両切り煙草を取り出すと象牙のシガレットホルダーに挿して吸い始めた。

「そろそろ時間だな。アンタもやるかい?」
「いえ・・・仏法では許されていませんから」

遠くで鈴の音が聞こえた。




「またあんたか。俺を買っても抱かないって他の娼夫が噂にしているぜ」
「金子は払っているわ。」
「アンタがいいなら関係ないさ。でも店からは目をつけられると厄介だがな」
「どういうこと?」
「前に娼夫を連れ出そうとした奴がいたからさ。兎角目立つ奴を警戒するもんだよ商人って奴は」
「楼抜けですか」
「ああ、当然連れ戻されたさ。連れ出した奴・・・確か烏天狗だったっけ、そいつは諦めが悪いばかりか此処の事を新聞に書いてやるって脅した。」
「その方は・・・」
「念入りに仕置きされた。スピード自慢だった奴の羽は引きちぎられ、ペンも持てないくらいに両手を砕かれて妖怪の山へ放り出されたって話だ。」
「そんな酷い」
「酷い?甘いな。俺達を守ってくれているってわかって俺は安心したが」

笑いながら、哀れな妖怪の末路を話す○○を見て私は決心した。

「○○!この様な不幸な境遇にその身を置くことなんてありません!」

○○の顔が強張る。

「じゃあアンタが俺を外界へ送り届けてくれるのか?」
「それは・・・・」
「口だけの宣教師はうんざりだ!」
「口だけではありません!」
「・・・・不幸、不幸ってあんたが判断することなのかい?」
「これを不幸と言わなくして何というのです!知らない女に愛を語り淫らに抱かれることなど・・・」
「不幸てぇのは自分が幸せじゃないって感じているだけだ!ここに居るのはは自分じゃどうにもならない不運に見舞われた奴ばかりだ!!!誰も救っちゃくれない程な!」
「私は・・・・娼夫が・・・・○○が好きでもない女に組み敷かれて犯されるのを見ていられなくて・・・・」
「そう言うのが押しつけっていうんだ!俺が・・・・俺達が不運から逃れるのはこの方法しかないってのにな!」
「・・・・・・」
「もう時間だ・・・・」
いつもなら見送りをしてくれる○○がしてくれなかったことが、投げかけられた言葉よりも深く私に突き刺さった。

その日、私は○○に非礼を詫びる為に遊郭を訪れた。
「○○ですか?○○なら先約がありまして・・・」
「そう・・・何時戻るようですか?」
「できれば、日を改めていただきたいのですが・・・」
「わかりました。すみません」

私が遊郭から出ると、向かいの道を○○が歩いていた。

「○○ッ・・・・・」

○○は白いカッターシャツと紫色のプリーツスカートを身に纏った少女と一緒だった。
紫色の頭巾を付けていることから、天狗と思われる少女は○○と指を絡ませていた。
○○が少女を抱き寄せる。
そして、少女の小ぶりな尻に指をあて割れ目をなぞるように動かした。

「今日はTバックをしているのかい?はたて
「だってぇ○○も好きでしょ?鉄棒よりも硬くなっちゃって・・・」

うまく隠されているが、少女の手は○○の着流しの中に差し込まれ蠢いていた。

「今日の店外デートはどうだった?」
「ココから出れないのは残念だったけど、楽しかったわ。それに最後のお楽しみが残っているし・・・・」
「・・・シようか」
「○○~この前みたいに翼の付け根をペロペロしてね。」
「たっぷり愉しもうよ。全てを忘れてさぁ」

二人は私が見ていることを気付かずに、楼の闇へと消えた。
○○と少女の白い指が何時までも、白蓮の目に焼き付いていた・・・・



闇に包まれた白蓮の寝所

否応なしに想像してしまう。
○○があの娘に抱かれる様を
彼は彼女の平らな胸を愛撫するのだろうか
○○も他の娼夫のように啼くのだろうか

ふと気付くと、白蓮の細い指は淫らに花弁をかき乱していた。

「私は・・・・なんて罪深いことを」

仏法も慾情した自分をおさめることはできなかった。

「そうよね・・・あんなところに○○はいるから不幸だと気付けないんだ・・・・あれがあるから・・・・」

淫らな蜜を滴らせながら、ふらふらとエア巻物へと手を伸ばした。

「何で・・・何で・・遊郭が無いのよォぉぉぉぉぉ!!!!!!」

寝間着姿の白蓮の眼前には唯の森が広がっていた。

「あなたがココにとって有害と判断されたからよ・・・」

白蓮が振り向くと楼主 八雲紫が立っていた。

「あなたが・・・あんたがあんなものを作るから!!!!!」

白蓮の弾幕が紫に殺到するが・・・・・

「無駄よ」

全ては空中に広がった裂け目に吸い込まれていった。
再び白蓮が弾幕を放とうとするが、その四肢はスキマで拘束される。

「さて・・・・」
「私をどうする気!!」
「あなたは私の遊郭を壊してどうする気だったのかしら?」
「私が彼らを保護して正しい道を歩ませます!!!」
「○○を、かしら?」
「!」
「隠してもわかるわよ私も女だもの。あなたからは卑しい匂いがするわ、発情した牝のね」
「○○はもうすぐ年季が明ける。これはどういうことを意味するかしら?」

白蓮の顔が青ざめる。

「このままじゃあなたは○○には会えない」
「このまま?」
「貴方が幻想郷のために尽くすなら・・・・○○を与えるわ」
「○○をこれ以上蹂躙するな!」
「あら?ならこの話はなしね。浅ましく手淫に耽りなさい・・・・」

空中に裂け目が広がり映像が浮かびあがる。

「ああ・・・・」

映像の中では、あの日の天狗と○○が契りを交わしていた。
天狗の娘が○○を嬲るたびに、○○が悦びの喘ぎ声をあげる。

「おや?濡れているのかしら?なんなら手淫に耽ってもいいのよ?ちゃあんと見ててあげるから」

四肢の拘束が解かれ、糸の切れた人形のように白蓮の身体が投げだされる。

「・・・・するわ」
「聞こえないわ」
「契約するわ!!!」
「貴方の血で名前を書きなさい」
「・・・はい」


― 花果子念報 増刊 ―

  • 記憶喪失の妖怪現れる
 人里入口でふらふらとしていた妖怪を人里の門番が発見し、人里の守護者こと 上白沢慧音女史が保護。
 外傷はなく、博霊大結界を抜ける際に何らかの障害を受けたのではないかと見られる。
 対象はまだ幼く、妖力も少ないため命蓮寺の聖白蓮に引き取られている。

「○○いいですか?妖怪と人間は長く悲しい誤解から争ってきました。だからこそ!人妖の共存共栄が必要なのです!」
「はい!白蓮さん」
「良い子ですね・・・○○は」
「?」
「そろそろ昼食の用意をしなければいけませんね」
「僕がしますよ」
「今日は私の当番ですよ?」
「僕は居候ですし・・・・」
「○○は心配しているのですか?ここから追い出されるんじゃないかって」
「いいえ!そんなことは・・・」
「あなたが記憶を失ってしまったのは不幸な出来事です。時間はたっぷりあります。一緒に学んでいきましょうね・・・」
「はい!」

○○を抱きしめ、その髪を撫でる白蓮は聖母のような笑みを浮かべていた。

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最終更新:2013年01月28日 21:36