○○の部屋からは、べりべりと言う何かをはがす音と共に。木片がいくつも吐き出されている。
「鈴仙・・・・・・入るよ~・・・」
畳の下に敷かれた床板でもはがしているのだろうか。少なくとも、今は畳だとかの当たれば痛いではすまない物は飛んでこなさそうだった。
それでも、○○の室内がどうなっているかも不安だし。不意に何かが飛んでこないとも限らない。
少し大きめの声を出して、身の安全を確保しながら、恐る恐る室内を覗き込む。

「ああ・・・・・・」ある程度予想はしていたが。実際目の当たりにすると、やはり頭を抱えたくなってしまった。
「てゐ!やっと来たのね、遅いわよ。ちょっと手伝って」
鈴仙は畳の下の板張りをべりべりと引きはがしている最中だった。○○の部屋にはふすまも障子も無く。
ましてや家具の類など。間違いなく、あらかた庭に放り出してしまった後だろう。

「いやー・・・隠すにしてもそこには無いんじゃないの・・・・・・?」
他にも言いたい事はあったが、まずはこの破壊活動を止めるのが先決だろう。
「そんな事ないわ!天井裏に沢山合ったもの!!」鈴仙はそう言って部屋の隅を指差す。
確かに、まぁまぁな量の本が隅に積まれていた。確かに、天井裏などそうそう確認する物ではない。
隠し場所としては最適だろう。
「だから・・・もしかしたらこの下にも!!」いや、それは無いと思うなー。それを言えたらどんなに楽か。
後、鈴仙は放り投げるべき物を間違えているのも間違いないだろう。何故に家具やらを放り投げて、春画の類を大事に積んでいるのだろうか。

「んー・・・どうだろう。床下は湿気もあるからさぁ・・・天井裏と比べたら本の隠し場所には向かない気が」
出来るだけ柔らかく、床板を引っぺがす鈴仙を嗜め。その暴挙を止めようとするが。
「無いなら無いで構わないの!確認だけはしなくちゃ!」
ベリベリと。豪快な音を立てながら、鈴仙は破壊行為を続ける。
「ああ・・・もうしばらく無理だね。この部屋使うのは」
ついでに言えば、放り投げられた家具も・・・・・・大半は修理不可能な状態だった。
(軒先で眠りなおして・・・ずっと気絶してたふりでもしようかなぁ)
もうてゐは、鈴仙の行く所まで行ってしまった行動を止める気など無かった。あるのは、今回の叱責をどう回避するかの算段だけだった。

「てゐ!突っ立てないで手伝って!!」
しかし、今の鈴仙が。手の空いてる風に見えるてゐを黙って見過ごすはずは無かった。
「分かった!手伝うから!人差し指をこっちに向けないで。弾幕は撃たないで!!」
結局てゐは強引に、○○の部屋を破壊する作業を手伝わされる事となった。
間近で見る鈴仙の表情は非常にピリピリした物だった。
「サボらない!」その上、逃げ出す機を見計らおうにも。ほんの少し手を止めただけで、鈴仙は目ざとく気付いてきた。
その度に、人差し指をてゐに突きつけ。弾幕を撃つ一歩手前まで力が高まっていくのが分かった。
「分かった!分かったから!!弾幕撃たないで!」
(撃てる!今のこいつなら、何十発も本気の弾幕を撃ち込めるよ・・・)
その鬼気迫る迫力。輝夜が月の力を行使したように、鈴仙も月の世界で兵士だった頃の精神状態に戻りつつあった。
いつもは、罠にはめるはずのてゐと。てゐに軽くあしらわれる鈴仙の立場が、今は完全に逆転していた。

(怖ぁ・・・人一人くらい何の躊躇もなく仕留めれるよ。今の鈴仙なら)
ああ・・・きっと全盛期の鈴仙はこんな顔と雰囲気だったんだろうなぁ、と思いながら。明らかに間違った道を突き進むしかなかった。
意図しているかどうかは分からないが、永琳が鈴仙を連れて行かなかったのは正解だろう。
今の彼女に、敵を目の前にして引き金を引かずにいるほどの忍耐力は。全く期待できないだろうから。


「良かった・・・屋根裏にある分だけで全部だったみたい」
○○の部屋は見るも無残な状態であった。
あれから鈴仙とてゐは、残った畳も放り出して。その下の床板も全部引きはがした。
○○の部屋に残されたのは、骨組みだけであった。

「忌々しい・・・忌々しいわ・・・・・・私ですらまだ手すら触ったこと無いのに」
○○の部屋を破壊し終えて満足したのか。鈴仙は見つけ出した春画本の中身を、一枚一枚確認していた。
(んー・・・この春画何か趣が偏ってるよう無きがするなぁ)
「忌々しい・・・売女が○○さんの上にのしかかるなんて・・・・・・」
ギリギリと歯を軋ませる音をしながら読み進める鈴仙は気付かないが、てゐは○○が好んでいたある趣向に偏りを見つけた。

(この春画・・・・・・女が男の上に乗ってる物の方が多い気がするなぁ)
何冊も詰まれた春画本をいくつか手に取り、パラパラとめくって行くてゐ。
(鈴仙が読んでるのだけじゃないなぁ・・・さっき見たのもそうだし、これもそうだ。こっちに至っては男の方が縛られてるじゃん)
そして、てゐの中に湧いた疑問は徐々に確信へと変って行った。
(・・・・・・妙な性癖持ってるんだなぁ○○って。虐めたいよりはマシ・・・だと思いたいけどなぁ)
ほんの少しだけ、引いていた。てゐは苦虫を噛むような表情をしていたが、鈴仙は違っていた。
真反対の反応といっても良かった。てゐと違って鈴仙の顔は、上気していた。

「○○さんが呻く声を・・・売女如きが聞いて良い筈が・・・・・・私ですら無いのに・・・」
春画を読み始めた頃と比べて、今の鈴仙の顔からは怒りや憎しみの感情は大分薄くなっていた。
その興奮の仕方は、てゐも何度か見た事がある。○○の寝具の匂いを嗅ぐ時の興奮の仕方に、そっくりだったからだ。
うっわぁ。という感情と共に背筋がゾクリとした。どうやら鈴仙の好む趣向も、偏っていたようだ。

(○○逃げてといいたい所だけど・・・・・・何だかなぁ)
これはこれでお似合いなのかなぁ。と、ほんの少し冷めた物の見方をしていた。
(何か残念だなぁ・・・一緒に鈴仙辺りを罠にはめる遊びがしたかったけど)
(それで、たまーに鈴仙ごと罠にはめて“話が違うぞー”って反応が見たかったけど)
そして、てゐは何度か○○を罠にはめた時の事を思い出していた。
(鈴仙と違って・・・○○って罠にはまった時は内心喜んでたのかなぁ。そういや怒り方も何だか緩かったね)

てゐにとっては、罠にはめた後の追いかけっこも。情熱を注いでいる悪戯遊びの重要な部分であった。
その点、鈴仙は非常にてゐ好みの標的であった。面白いように怒って、自分を追いかけてくれる。
だから、怒り方が穏やかな○○は。余りてゐの欲求を満たしてはくれなかった。○○の事は好いていたが、その点だけは残念であった。

(・・・・・・あれ?)
余り怒らないし、追いかけっこにも発展しない○○の事を考えていると。てゐはある疑問を自分に向って投げかけていた。
(私って・・・悪戯にはめるのと追いかけっこ。どっちが好きなのかな)

その疑問への答えを見つけるために、てゐは記憶の中にある悪戯が炸裂した時の事をいくつも思い出している。
(私って・・・悪戯してる時って、いつが一番楽しいと思ってるのかな)
うんうんと唸るてゐ。その横で鈴仙は一体何を思っているのか、春画を読んでいるその姿は最早完全に欲情の感情がむき出しになっていた。
(うわ何この鈴仙の笑い方・・・・・・完全に性的興奮だ)
○○を虐めて喜んでるのかなぁ・・・本当に、面白いくらい感情が分かりやすい。どうなっても知らないぞと、完全に他人事だった。

(そうだよなぁ・・・罠にはまった後何も反応が無かったら。正直寂しい)
結局、てゐが鈴仙を標的に据える事が多いのは反応の分かりやすさだった。
(鈴仙って凄い顔で怒ってくれるからなぁ・・・思わず笑っちゃうくらい・・・・・・・・・あっ)

かつて何度も罠にかけた鈴仙。その度に見せてくれたあの怒り顔。
てゐはその度に普段とは違う笑みをこぼしていた。そしてその笑みを、今こうやって思い出しているときも浮かべていた。
そしてその笑みは、何かに似ていた。
その何かとは、今目の前に合った。それに気付いた時、てゐは絶句するしかなかった。
何年も続けたこの悪戯遊びの本当の理由を。実はてゐですら分かっていなかったのだから。

「ふふふ・・・・・・○○さん。本当に貴方は・・・・・・ふふ、ふふふふふ・・・・・・」
鈴仙の笑い方は相変わらずだった。相変わらず欲情の感情がだだ漏れだった。
(同じだ・・・・・・)そしてその笑い方に、てゐはあることを気付かされた。
(私・・・・・・罠にかかった奴の反応を見る時・・・今の鈴仙と同じ顔してる)

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最終更新:2012年03月16日 12:38