深煎りのヨーロピアンローストで濃いめに入れたコーヒーを人肌の熱さにしたミルクと合わせる。
高い位置でコーヒーとミルクを合わせて入れるのが、フランス式のカフェ・クレームの流儀。
「おや白蓮さん!どうしたんですか?そんなものものしい恰好は?」
「本日は節分!季節の変わり目には邪気(鬼)が生じ、それを追い払うための悪霊ばらいを命蓮寺で執り行う!」
「ちょっwwww!俺は一般ピープルだから悪霊なんて関係ないって!」
「一輪・・・・例の物を」
「これは俺のSHUNGA・・・・誰が!」
「このような魔導書を読むなんて悪霊が取り付いている証拠!いざ南無三!!!!!!!」
ハードボイルドに茹で上げた卵にソースをかける。
お隣が五月蠅いようだが、それだけで気分を悪くするほど狭い心ではない。
パーコレーターを準備する。
外の世界でも使う人間が少なくなったのだろう、道具屋で安く入手できた。
お湯が沸いたのを確認し、浅煎りのコーヒー豆をセットする。
手間はかかるが、アメリカンコーヒーを楽しむためには手を抜いてはいけない。
「なあちょいと酌してくれないかい?たっぷりサービスしてあげるからサァ」
「忘れたと言わせないぞ!勇儀!お前達が俺に何をしたかを!!!」
「アンタが持ってきたハブ酒で滾っちまって、ナニが乾く前に楽しませてもらっただけさ?」
「アンタにとっては天国でも俺にとっては地獄だ!!!」
「ならなおさら旧地獄へ招待しないとね・・・」
「今は懐かしのサバゲ用ゼンマイ式手榴弾だ!!!中には炒った豆を仕込んでいる」
「弾幕勝負かい?いいね」
「喰らえ!!!!」
「・・・・炸裂しないかい?知り合いの鬼に頼んでゼンマイをあらかじめ切ってもらったんだ」
「畜生!!!」
「さて弾幕勝負に負けた奴は好きにしていいんだよな?」
「たすけてぇぇぇぇえぇぇぇえぇぇぇ!」
秘蔵のハブ酒を楽しんでいただけたようだ。
送った側としても鼻が高い。
パーコレーターの覗き窓から抽出具合をみる。
良い頃合いだ。
火を消すとファイアストーンのマグカップに淹れる。
昼食用のクラブサンドを用意し、ゆったりとした時間を楽しむ。
夕食を食べ終えた後はカフェ・ロワイヤルを楽しむことにしている。
カップに渡したスプーンの上に、コニャックに浸した角砂糖を慎重に乗せる。
マッチで火を点けると青白い炎に包まれ角砂糖がカラメル化していく。
十分にアルコール臭が消えた頃合いで手早く混ぜ合わせる。
「○○様はおられますか?」
「こんばんわ咲夜さん」
「主人から事付けを預かっております」
瞬間移動したかのように、いつものように彼女は立っていた。
そしていつものように分厚い茶封筒を手渡す。
こちらが提示した額よりも多い。
「主人・・・
レミリア様はあなたからの情報に満足されておいでです」
「それは何より」
「その後の動向は?」
「遊廓に誘ってみたりしてみたが、顔を赤らめていたからな・・・おそらくまだ童貞だ」
「紅魔館就職については?」
「やはり根深い不信がある。通いで様子を見てはどうだ?」
「的確なアドバイス感謝いたします」
十六夜咲夜はスカートの端を摘む、優雅な仕草をすると銀髪を靡かせ夜の闇へと消えていった。
「俺としたことが・・・・」
やや若い豆を使ったのが悪かったのだろう。
何か生臭い匂いがしていた。
「まあいいか」
数週間後、「貴賓室」という名の監獄で何度も味わう味であることを、このときの彼はまだ知らなかった。
最終更新:2012年03月20日 13:47