輝夜の手によって脱衣場に立たされている○○は、赤子同然の扱われ方だった。
そこに向う途上から、輝夜からかもし出される物は、もう怪しい物は感じていたが。脱衣場においてそれは最高潮に達していた。
「ふふ・・・っふ、ふふふふふ」
輝夜は○○の服を丁寧に丁寧に、一枚ずつゆっくりと脱がして行っていた。
○○の服を脱がしながら、輝夜は大層歪んだ笑みを。目の前にいる○○の視線など気にもせずに浮かべていた。

今まで輝夜がその表情を必死に取り繕っていたのは、一体なんだったのだろうか。
先ほどまでの努力が全て無駄になっているのではないか。
○○からすれば、状況は先ほどよりは、多分よくはなっている。
しかしながら、表情の制御が完全に出来なくなっているとは言え。行動の制御は未だ確固たる物が合った。

○○の服を脱がすと言う所作にも現れるとおり。輝夜はとにかく○○に対して、異常なほどに優しく当たっていた。
無論、輝夜本人もちゃんと自覚はしている。過保護と言う範疇を何週かぶっちぎっているというくらいには。
そして、その異常なほどの猫可愛がりに対して。○○の方もむず痒さや、どうにも得体の知れない物がまとわり付くのを感じている事も。
そこが重要だったのだ。○○の意に反して、虐められたいと言う願望を無視して優しくすればするほど。
○○は困惑の色を強くしていっている。その様子が輝夜にとってはたまらなく愉快で、欲情するのに十分な輝きを持っていたのだ。

無論、○○の方だって何もしない訳ではない。。籠の中にいるときから、それとなく動いてはいる。全て空振りに終わってしまっているだけで。
喜色に塗れた表情で自分の衣服を脱がす輝夜を見ながら、ある決意を固める。
もっと、踏み込んだ行動をしようと。
今までの○○は、輝夜が自分の被虐嗜好に気付いていないと仮定していたから。分かりにくいやり方をしていたのだが。
輝夜の洞察力は、被虐嗜好にも、分かりにくいやり方にも。その両方ともに完全に気付いている。
ならば、もう遠慮はいらない。

輝夜に向って、言おうとしている言葉を喉の手前間でもって行き・・・出し切る前に息を1つ、深めにつく。
「・・・どうたの?○○」その息のつき方に、何かを感じ取った輝夜は、顔を○○の方に向けなおし声をかける。
その顔には、少しだけ。凛としたものが戻っていた。
「輝夜、単刀直入に言う。虐めてくれ」
「やだ」



輝夜が答えを返すまでに掛かった時間は・・・一秒にも満たなかった。
下手をすれば、瞬きをするくらいの速さで。考える素振りを見せることなく、輝夜は○○の頼みを即答で拒否した。
ただし、拒否しながらも満面の笑みだったので、少しだけ○○の被虐嗜好は満たされたのは・・・かなりの皮肉としか言いようが無かった。

「・・・・・・しまった!○○の服を先に脱がしたら。私が脱ぎきるまで、○○が寒い思いをするじゃない!!」
重要な事に気づいた輝夜は、固まる○○を尻目に。自分の服を急いで脱いで行った。
輝夜の裸体を前にしても、○○は精神的な衝撃からまだ立ち直れず、固まるばかりだった。
最も、被虐嗜好に対して完全に気付き、また肯定している○○にとっては。輝夜の裸体にもそこまで大きな意味を見出すかどうかは疑問ではあるが。
お互い裸の状態で虐められれば、悦ぶであろうが。


しかしながら、○○はまだ諦めなかった。意地でも虐めてくれないなら、こちらとしても意地でも虐めてくれるように仕向ける腹積もりであった。
また、輝夜は全てを知っている。その大前提が○○に次の行動を起こしやすくする、下地としても機能していた。

「輝夜」
その時の○○は、多少なりとも吹っ切れた状態であった。だから、自分が行う次の行動に対して。
思いついてから即、悩むことなく動けた。
「何?○・・・・・・」
バサバサと衣服を脱ぎ捨てる輝夜が振り向いた。それとほぼ同時だった、○○が次の一手をさしたのは。
○○はおもむろに、手を前に差し出した。その手は、しっかりと輝夜の胸を。わしづかんでいた。

「・・・・・・・・・」
流石の輝夜も、時が止まったように固まった。
通常ならば、通常の女性の見せる反応ならば。この後、あらん限りの悲鳴を叫んだりするであろう。
突然の出来事に悲鳴などが上がらなかったとしても、その後には冷たい反応が待っているのは必定ではないか。
○○はそれらの事象が起こる事に期待していた。賭けていたと言うのがより正確な表現だろう。

賭けの結果はすぐに出た。
「○○~」輝夜の、目もちゃんと笑っている満面の笑みを見て。○○は賭けの結果について即座に判断が付いた。
見るも無残な大惨敗だと。

輝夜はそのまぶしい笑顔と、本当に嬉しそうな表情を崩さずに。○○の顔を優しくなでるように触れる。
そして静かに、長く、深い口付けを行った。
その最中、○○は声が出なかった。声が出なかったし、頭の中も空白感が支配していた。
口づけをされている事にすら、考えが及んでいない。○○の思考回路は全くの無反応であった。
輝夜がにっこりと笑ってくれたそのときからずっと。

「うふふふ・・・ねぇ○○」
輝夜の目が笑っている事から分かるように。○○に胸を触られたことは、全く嫌ではなかった。
むしろ嬉しい事だった。それが今の輝夜の感情を八割ほど埋めていた。
そして、残りの二割は。
「すこーし、舐めてかかってたわね。私の、○○に対する気持ちを」
勝ち誇る気持ちだった。正直な所、予想以上に何とも思わなかった、と言えば多少の語弊があるが。
○○に胸を触られても、全く心に波風は立たなかった。むしろ嬉しかった。
心模様が揺れていたとしても、それは嬉しさから来る物であると。輝夜は断言できた。
例え、今の行為が。○○が虐めて欲しくて行った類の物でないとしても。
ただ単に、性欲に理性が吹っ飛んでしまったと言う理由で行った物でもよかった。
それはつまり、○○が自分の裸体を見て興奮してくれている。男としての反応を見せてくれていると言う事なのだから。
輝夜として、それは嬉しくないはずが無い。

本当に、ここまでの物だったとは。そう思っているのは、○○も同じであった。
輝夜が自分を好いている事は、今更疑いようも無かったが。
だとしても、突然胸をもみしだくのは。恋仲にあるとは言っても、はばかられるべき事であろう。
そんな不意打ちに対する不満。どんなに仲が良かろうが、いささか眉根を潜められるような行為ならば、あるいは。
そう思っていたのだったが。そんな常識は、今まさに月の彼方にまで飛んでいってしまったのではないか。


「・・・なんて事だ」
ここまで何も無いと、いよいよ打つ手がなくなってくる。
立ちくらみにも似た感覚に、○○の体が前後左右に小さく揺れる。
このまま輝夜ごと、後ろに倒れてしまおうかな。○○がそう思うよりも早く、輝夜はその嗜好に○○が辿り着く前に。
がっしりと、両腕を持ってして抱きかかえ。○○の体の揺れを抑えてしまった。
半裸の男にしっかりと抱きつく、全裸の女。素晴らしいほどに淫靡だった、芸術だと言い張って、絵の構図にしてしまえそうなくらいだった。

体の揺れは収まったが、手持ちぶさたとなった○○の手の方は相変わらず揺れていた。
そのままユラユラさせたままと言うのも、見っとも無かったので。何となく輝夜の背中に、その手を回した。
輝夜の背中ともお尻とも取れるような、両方の中間地点にその手は置かれた。
手から感じる柔らかい肌の感触は、興奮を大きくするには十分な刺激だった。
興奮の絶頂ではないとは言え、反応してしまえる事に対しては、いささか悲しさがあったのだが。

「・・・・・・」何もしないのも癪だし、自分の中での間が持たなかったので。○○は無言のまま、何となく手を下のほうに降ろして。
「あんっ」尻を揉んで見た。
淡い期待を持って、かなり強めにもんでみたが。黄色い声が出たのですぐにやめてしまった。
「あら・・・もっと続けても良かったのに。何ならもっと強く揉んでもいいわよ」
強めに何かをやってほしいのは、○○の方であるのに。その言葉を聞いて、ただ溜め息が一つ。弱々しく漏れるだけだった。
「・・・・・・・・・何というか、その何なんだろうね」
最早まともな文章を考える気力も無くなっていた。ただ、天を見上げるしかなかった。

「さっ、○○。早く入りましょうよ、湯冷め以前の段階で体を冷やしちゃうわよ」
○○の体に残った衣服を手早く脱ぎはがし。輝夜は○○の手を取って、風呂場に入っていった。





今の○○に、抵抗する気力は残っていなかった。
ただなすがままに、輝夜に体を洗われて、たまに口づけをしたり。体の泡を流したり、その合間に軽く接吻をしたり。
湯船に入ったり、その中で唇を重ねて見たり。
輝夜は全力で○○と愉しんでいた。
○○の方に至っても、悲しい事に決して楽しくないわけではない。なので、折に触れて笑顔を見せていた。
何となく力ない笑顔では合ったが。

輝夜はキャッキャッとはしゃぎつつも、○○と一緒にいるための。
また、○○を虐めないと言う虐め方を持続させる為の思考だけは。頭の片隅で働かせ続けていた。

と言っても、注意すべきはてゐだけであった。
暴走癖のありそうな鈴仙は、永琳に任せておけばいい。
その、唯一気がかりなてゐも、今は輝夜の頼みを聞くのが癪で別の働き手を寄越してくれている。
始め、てゐに風呂焚きを頼んだ理由は手近にいたのに加えて、てゐがどんな行動を起こすつもりなのか気になっていたが。
思えば、不意に堪忍袋の緒が切れて、水を差される心配を孕んだやり方だなと考え直していた。
だから今は誰はばかることなく全力ではしゃげるのだ。方々を飛び回っているイナバに至っては、歯牙にかける必要も無かった。
元々○○にとって。輝夜、永琳、てゐ、鈴仙の四人以外との交流はほぼ無かった。イナバ達との交流は永琳が主導して、意図的に少なくしていたのだから。


そんな永琳も、牛車を飛び降りてから先の行動を鑑みるに。鈴仙ほどではないとは言え、今は激昂しやすい状況だろう。
○○を虐めたいと言う願望より、輝夜への忠誠心がギリギリ勝っているとは言え、気を抜く事は出来ない。
はなから命令を聞く気の無いてゐに比べれば、大分安心とは言え。刺激を与えないに越したことはない。
しばらくは鈴仙の歯止め役に注力してもらう事にした。

鈴仙は論外だろう、彼女はかなり激情的な性格をはらんでいる。
そんな性格をしているから、緒を切ろうと思って切ってやるのも楽しいが。いきなり爆発されて冷や水を被るのはごめんだった。
なので、鈴仙は少しの間遠くに置いておくのが良いかもしれない。頭が冷えるかどうかは別問題だが、○○の近くに置くのは危険すぎた。
外で懸命に火吹き棒を吹いたりしている因幡の動きを耳で感じながら。しばらくの間は、頼み事はイナバを使った方が安全だろう。

イナバを使う。そこで輝夜の頭の中にピーンとひらめく物があった。
「ねぇ、貴女」
「はいっ!何でしょうか、姫様!?」
「夕食の少し前くらいに、私の部屋に来て。大丈夫よ、ちょっと頼みたい事があるだけ」


輝夜に声をかけられて、イナバは過剰な程にはきはきとした声で受け答えをしていた。内心ビク付いているのが丸分かりだった。
輝夜の永遠亭内での権力の強さは、論じるまでも無いくらいの物であった。永琳と同じく絶対強者所か、神聖不可侵の存在だった。
そんな人物に声をかけられて、ビク付かないはずが無い。

「羨ましいな・・・・・・」
きっと、風呂を沸かしてくれているイナバは。心臓がバクバク高鳴り、恐怖や窮屈感で一杯だろう。
そんな心の状況を思えば・・・・・・呟かずにはいられない。羨ましいと。
輝夜には、もう聞こえても良かった。どうせ虐めてくれないから。虐める以外の事は、全身全霊でやってくれると分かるから、余計に呟きたかったのだ。

この呟きも、きっと聞こえているだろう。

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最終更新:2012年04月25日 03:24