何も見えない 何も話せない 何の匂いも感じない
分かるのは、自分が住まわせてもらっている家の
聞きなれた二人の声と、片腕を握る少女の手だけ

「妖夢、もう一度聞くわ。それは 〇〇なのね?」
「顔がなくなったくらいで分からなくなるなんて、幽々子様らしくないですね」

ああ、やっぱり
朝から何が起こったのかわからなかったが、やはり今の僕は のっぺらぼうと言うわけか

「……どうやったの」
僕の疑問を幽々子様が代弁してくれる
「簡単ですよ。人魂を食べれば、その者の顔を奪う事ができる
紅魔館の図書館で、そう書かれた文献を見つけたんです」
その本なら、僕もこの世界に来る前から知っている
隻腕の妖怪学権威の書いた本にそんな話があった
ってことは、昨日妖夢が夜食に作ってくれた天ぷらが…
いや、材料が何なのか教えてくれない上に
夜食に天ぷらってところで何か変だなとは思ったけどさ

「それで、どうしてこんなことをしたのかしら」
いつものおっとりした口調ながら、幽々子様の声に怒りが混じっているのが分かる
「だって、〇〇さんがのっぺらぼうになってしまえば、他の女が寄ってきたりはしませんから」
「(は)」?
僕の出ない声と幽々子様の言葉が重なった
「明るくて人気者の〇〇さんじゃない、ただの妖怪なら、私が独占できるんです
こうでもしなければ、私なんかじゃ、〇〇さんを繋ぎ止めておけないんです」
そんなことない
そう言いたくて、その一途な心が嬉しくて、僕は妖夢と繋いだままの手を握ろうとする

「それに、私たちは、もう一つになれましたし」

手が 止まる
嘘だ
僕には全く覚えがない
そう感じたのを察したのか、妖夢が初めて僕に向かって 言った

「〇〇さん、昨日、人魂の天ぷら 食べましたよね?
あれ、実は

ワタシノナンデス」

何を言っているのか理解できない
いや、理解したくない
いつも彼女の傍らに浮いていた魂を、僕が食べてしまったなんて

「嘘を言わないで! 妖夢とあの魂とは感覚を共有してるはずでしょう!?
油で揚げるなんてできるわけが……ッ!!?」
妖夢が服のボタンを外す気配の後、幽々子様が絶句した
つまり、その服の下は……
「服で隠せるところだけに火傷を作るように揚げるのはなかなか難しかったです
けれど、そのおかげで私は〇〇さんと一つになれたんです!
それなら、こんな火傷なんて痛くもなんともありませんよ!
あはははははははははははは!」
狂ったように始まった笑い声
それを静止するすべを、僕らは何一つ持っていなかった

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最終更新:2010年08月27日 01:22