そう言えば、情報屋もそうだがこういう職業も儲かるんじゃねと思うた
「これで調査は全て終了ですよさとりさん。大丈夫です、貴女の旦那さんは浮気などしていません」
「そうですか……」
ジィーと眺めてくる第三の目、恐らくは僕の心の中を窺っているのだろう。
買収などの可能性が無いと断じたのか、
さとりはフゥと溜息を吐き、お盆に乗せた金子をそっと此方に寄越してきた。
「解りました。調査ご苦労様です。今後も依頼するかもしれませんのでその時はよしなに……」
どれだけしっかりと愛されても、どれだけ愛してても。
それが深ければ深いほど猜疑というものは湧いてくる。
先程のさとりのような、誰かに裏切られたりした過去がある女性であれば尚更の事。
そしてそんな彼女達の猜疑心や不安に解決をもたらすのが僕の仕事だ。
探偵、外界でのしょっぱい仕事、子供の頃憧れた内容とは程遠い仕事を僕はこの郷でもしていた。
勿論、無くしモノや何らかの事件の解決を行う事もあるけど、殆どは浮気調査である。
しかし、浮気調査と言えども大概の事件なんて目じゃないスリルや結末が待っている事もあるんだ。
例えば姉妹で男を取り合っていた事実が発覚し、館の半分が消失した事件。
好意で金を貸していたのに、その金の行き先が他の女であり弾幕が飛び交う修羅場とかした事件。
場合によっては「嘘つき扱い」されたり「逆切れ」して弾幕を撃たれたりという愁嘆場に巻き込まれるのだ。
本当、小説とかで読んだ探偵レベルの危機とスリルを何度も味わっている。
端から見たら、特に女難で悩んでいる外来人達から見たら怖すぎる仕事であるが、僕にとっては天職になりつつあるのだ。
しかし、解決する側であったのに、何時の間にか当事者になっている事も有りうる訳で……。
「やぁ、○○君。また依頼を受けて欲しいのですが……」
事務所、人里の外れの一軒家に戻ると彼女が来ていた。
寅丸 星。外れから少し離れた位置にあるお寺の住職補佐である。
どうやら不在時に来て待っていてくれたらしい。
お茶を淹れて来ますねと言うと嬉しそうに、本当に嬉しそうに頷いた。
台所でお湯を沸かしている内に、自室の襖を開く。挟んでおいた紙が無い。
書斎の襖を開く、やはり紙が無い。風呂場と厠も同じく。
台所に戻りいつの間にか補充済みの茶葉を取りだし、ピカピカに磨かれた急須に入れ、虎柄の湯飲みを出してあげる。
ふぅ、とちょっと呆れた溜息を吐きながらお茶を淹れ、応接間の星さんの元へ戻る。
「それでご依頼は?」「ええ、実は……」
彼女は頬を染めてこういった。
「あの……宝塔をまた無くしてしまったんです……一緒に探して貰えませんか?」
今回で五十回目に達する同じ依頼を僕に頼んで来たのだった。
最終更新:2012年07月08日 12:24