前スレで「河童は深きもの」というネタがあったので書いてみた
妖怪は零落した神だと偉いじいさまが言ってた


妖怪の山を覆う影 

私○○は誓う
あの夜見たものや、その日以来続く奇怪な現象は私の脆弱な精神が生みだした哀れな幻影ではないと
いや、幻覚であると信じたい
善良な彼らがあのようなおぞましい所業を行っているなど信じたくない
だがいくらその考えを振り払おうとしても、嫌がおうにも地下室で見た光景が頭をよぎるのだ


当時私は外来人長屋でレンズ磨きを生業にしていた
明治時代ほどの技術レベルしか持たない幻想郷でも、メガネから望遠鏡に至るまでレンズを必要とするものは多い
そのためレンズ製造は割のいい仕事といえた
私は生来より厭人病気味であるため、日がな一日作業に没頭できる環境はありがたい
そこそこ食っていけるほどの仕事がこなせるようになったころだった
私の所を注文主と見知らぬ少女が訪れた
少女は自らを河童のにとりと名乗った


少女は自らの事を河童と言っていたが、とてもそうは見えなかった
注文主は私の磨いたレンズをこの少女が高く評価していることを私に告げた
私が礼を述べると、少女ははにかむように笑みを浮かべた
その日から少女は私の作業所に入り浸る様になった
私が外来人で外の世界でもエンジニアであったことを伝えると少女は目を輝かせ、質問をし始めた
厭人病的な私でも専門分野で話が合うと楽しい
私は少女を妹のように感じていたのだ


少女が私の作業所に通い始めた頃だ
少女から何か生臭いにおいが漂うようになった
また熱があるかのように上気した顔で来ることもあった
そして
その日、私が初めて少女と出会った日のように注文主と少女が私の作業所を訪れた
河童と人里の交流会が行われるとのことで私を誘いに来たとのことだ
生来より人の多い場所を苦手とする私であるから、誘いを断ったが研修会扱いで給金も支給されるとあってしぶしぶ参加することにした


交流会といっても一通り彼らの工場をにとりと一緒に見て回り、そこで働くエンジニアたちと話をするだけだった。
驚いたことに彼らの工場には私と同じ人間のエンジニアも働いていた
しかし彼らの技術は素晴らしかったが、その表情は皆虚ろであった
私が工場の裏で休息をとっていると一人の青年が隣に座った
どうやら彼は私の煙草に興味があるようだ
私が両切りのたばこを手渡すと彼は語り始めた


「あいつらは何時も笑顔でやってくる・・・俺は奴らを信頼しきっていたんだ・・・・」

青年は言う
人懐っこい彼らを友人と思っていたが、彼らも所詮は人外だった
気を許したばっかりに青年は・・・・・

「お前さん尻子玉を抜かれると言ったらどう想像するね?死ぬ?いいやそれよりもひどい」

「奴らは欲しいのさ人間と妖怪の長所をもった子供を」

そこまで言うと青年は後ろを振り向く
何かに怯えているようだが、私には普通の沢にしか見えない

「いいか!奴らが酒を出しても絶対に飲むな!決してベットで眠るな靴を履いて床に眠るんだ」

私は病んだ青年の手を振りほどくと工場の正面へ向かった
一度振り向くが既に青年の姿はなかった



一日の日程を終えると宿に向かった
そこはにとりの工場兼住居であり、とても広く彼女一人にしては部屋数が多かった
食事はにとりが用意したらしくおいしかったが、湯気とともにあの日嗅いだ生臭い匂いがした
にとりが酒を勧めてくれるが青年の言葉が脳裏を過る
私が丁重に断るとにとりの顔に微かな苛立ちが見えたのを私は見逃さなかった
その夜、私は何時でも逃げ出せるよう靴を履いて床に寝た


深夜
静まりきった工場にギシギシと階段を上る音が響く
私は荷物の中からビクトリノックスのソルジャーナイフ取り出すとそれにロープを結え、2階の窓から手頃な木に投げつけクローゼットに身を隠した
ゆっくりとドアが開くと、そこには口にすることすらおぞましい電動きゅうりを持ったにとりが現れた
にとりは全裸だった
彼女は空になったベットと開け放たれた窓とロープを見ると、すぐさま窓から飛び出し夜闇に消えた


もはや疑い余地もない
私は妖怪の口の中に居るも同然だった
とはいえ、夜の妖怪の山から逃げ出すことは難しい
私は工場で何か武器になるものはないか探し始めた
その時見たのだ
工場の地下
手足を拘束する鎖と口にすることすらはばかれる用具が並べられていた
そして黒革の首輪には私の名前が・・・・


私は工場の裏口が沢に続いていることを思い出した
水の中では私の匂いは消える
この闇の中、妖怪に襲われるリスクは少ないだろう
私は可能な限り潜水し人里の方向へ泳ぎ始めた
あともう少しで人里と言うところで言い知れない感覚が私の頭を貫いた
水の中から伸ばされた艶めかしい指が私自身を愛撫していたのだ
振り向くと、その濡れた水色の髪を顔に張り付けたにとりがいた
満面の笑顔を浮かべて


気がつくと私は人里の外れに倒れていた
何処も傷ついていなかったが、あの日以来身体の火照りが止まらない
もはや何も手につかず、手で自らを慰めることが続いた
そして作業所にあの日のような生臭い匂いがしはじめた
おそらくこの火照りを止められるのはにとりしか居ないのだろう
私はあの夜彼女に尻子玉を取られてしまったのだ
自らの命を断つ勇気のない私ができることは「これから」ためにこの手記を残すことだけだ
私はこれからあの沢に出向いて彼女の求愛を受け入れる
そして私とにとりの子に囲まれて零落した神の栄光のもと永遠を生きるのだ

いあ いあ にとり 

いあ いあ にとり

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最終更新:2012年07月08日 12:35