霊夢/14スレ/266
俺は地下牢の床に倒れていた。
今まで雪原でも歩いていたかのような防寒装備。そして泥と冷たい水にまみれた靴。
そりゃしょうがない。数日間、神社から逃げ出して雪山の中を逃げ回っていたのだから。
あの勘が良い霊夢から、だ。どれだけ俺が無茶をしたのか解るだろう。
灯りが灯り、人影が俺の上に覆い被さる。ああ、霊夢かと思った瞬間、重圧がかかった様に俺の身体が動かなくなる。
どうやら、拘束の呪符を使用したようだ。更に霊夢のか細い手が俺の胸を叩き始めた。
どうして自分から逃げようとするのか。
一体何が不満なのか。
誰か好きな女でも出来たのか。
ドンドンと叩かれつつ彼女の顔を見る。
逆光で見えにくいが、はっきりと見えた。
髪はボサボサで服装も乱れ、普段の無重力状態など何処へ行ったのか。
一度死んで濁った魚の目が蘇生したらこんな感じになるんだろうな、って感じの視線だけがギラギラと俺を射抜いている。
しかし、彼女がここまで追い詰められたのは、彼女自身を蝕んでいる病みだけではない。
……実は、俺自身の所為なのだ。
神社に居ると、幻想郷の男女の悲哀交々をゲップが出るほど見る事が出来る。
神社に連れてこられた旦那達の、諦観と捻れた情愛に満ちた視線。
嫁達の占有と偏愛に満ちた態度と、依存と脆さに満ちた情念。
最初はそんな事に興味は無かったんだ。世話をしている内に好きになり。
こっちに残ることを決意した霊夢と一緒に居られればソレで良かった。良かったのに。
「どうしてなのよぉ、○○ぅ…………!!」
涙をボロボロと流しながら叫ぶ霊夢を見ていると、自分の中の何かが歓喜を叫ぶのだ。
澱んだ目付きで俺を痛めつけ、地下牢で監禁する霊夢を見ると愛おしくて堪らないのだ。
数日して地下牢から出して貰い、日々の日常で見せる霊夢のちょっとした俺に対する偏愛がいじらしい事この上ない。
俺は断じて言える。
俺は、博麗霊夢の事が大好きだなと。
普段のフワフワとした無重力で平等な彼女も。
この郷で見られる病みに満ちた女達と同じ目付きの彼女も。
どちらも、俺は大好きだと断言出来てしまうのだ。
「霊夢」
「何?」
数日後、あちこちに包帯を巻きながら俺は神社の境内で霊夢と一緒に茶を啜っていた。
雪解けの時期を迎え、徐々に春の気配が近付いてきている博麗神社の中で俺は囁く。
「霊夢」
「何?」
「愛してる」
「……………………私も」
断言しよう。俺は、霊夢を愛している。
感想
最終更新:2019年02月09日 18:50