今日の戦いはなかなか酷かった。
そう、片腕を跳ね飛ばされてしまったのだ。
幸い、青娥に頼めば治るが、あの女め。ん?あの女って誰だっけ?
そんな自問自答をしていると、奥から見なれない男がやって来た。む。
「ちーかーよーるーn」「あ!そこの人!」
呼びとめられた。なんだ。普通ゾンビを呼びとめるか?
「ケガしてるじゃないか!今すぐ手当てを」
「あ、いや、私はだな」
そう言っている間に腕に包帯が巻かれていった。うーん、血はでないんだけどな。
「よかった。よし、今日も善行善行。それでは。」
この人…治療してくれた。眥、そんなことしないのに。
「…まて。あの、名前は?」
…その男の名は。〇〇と言った。そう。ー目惚れ…してしまったのだ。

「青~娥!腕治してくれー!」
「分かったわ。」
青娥はちくちくと腕を縫い始めた。
何故取れたの?と聞かれたが、思い出せなかった。でも、〇〇のことは忘れなかった。
〇〇は良くお墓にやって来た。そのうち意気投合し、話すようになった。それと同時に、心の中の想いも大きくなっていった。
…忘れっぽさは加速したが。

ある日。〇〇がやって来た。わくわくしながら待っていると…
「待って下さーい!」
奥からヤマビコがやって来て〇〇をさらって行った。…胸が、もやもやする。

ほどなくして、〇〇は戻って来た。すかさず、〇〇に飛びつく。
「どうしたんだい芳香?」
「さっき、ヤマビコ妖怪と話してた…。」
「あぁ。そうだよ?彼女とは寺でー緒でね。」
「…るな」
…あぁ、もうゲンカイだ。言ってやらないと。
「へ?」
「みるな!私以外を見るな!わたしだけ…うぅ」
「よ、芳香?」
「わたしは、」
あぁう。止まらない。やめないと。〇〇に迷惑が、…迷惑ってなんだ?
よし、言ってやろう!
「わたしは、お前のことがー、好きなんだ!」
言ってから、ぽかんとした。○○も、私も。
あ、あわわわわ!?何をいっているんだ!私は!?
…内心ビクビクしている私に、私の頭に温かな手が置かれた。
そうして、○○は言った。

「俺も。」

こうして、幸せな日々が続くはずだった。でも私は重要な事を忘れていた。

人間と、キョンシーの差を。




そうして恋人同士のような甘い生活が続いた。時折主人…○○に釘をさすこと、注意することなどもあったが、充実した日々だった。
けど、人間とキョンシー。
そこには寿命という、壁があった。
そうしてそのときはやってきた。
「○○!○○!?」
○○はー、死んだ。90くらいだろうか。幸せそうな、顔で。最後に、愛してるよ。などと言って。
「うわぁああああぁん!!○○!」
そんな泣き続けていたキョンシー。3日くらい泣いただろうか。こんな提案が脳内をよぎった。

「○○を、キョンシーにすればいいじゃないか。」

そう思いたった芳香は早速○○の肩を喰い千切った。その肉のうまいこと!
芳香は一心不乱に食べ続けー、残るは生首、そこで正気に戻った。
「…あ?」
食べた。キョンシーにしたかったから。
でも、明らかにー、食べ過ぎ、だ。
「あああああああぁあああ!!!!」

もう、無理だ。こんなのでは○○を蘇らせられない。
そんな彼女に、最後の希望が見えた。
そうだ、青娥なら。

そうして、青娥に託した。あとは、待つだけ。
○○。早く、あいたいよ…

「さあて、このこをキョンシーに、と。」
まず青娥は○○の生首を若返らせた。話しはそれからだ。
「あら、あのこもいい趣味してるわね。いい感じじゃないの。」
ふぅ、と息をはいて、足とリボンの間に挟まっていたとっときのお札を手にする。
可愛い部下のために。
そうして○○の肌に触れようとした瞬間ー、
バチッ!
「あ、ら?」
青娥の手を○○は拒絶した。
そうして理解した。
本当にあのこは、この人を愛していたのだと。

「せ、青娥さま!○○は!」
「いい?芳香ちゃん。○○をキョンシーにはできないわ。」
「な、なぜです!」
「ひとつ。体が、無い。もうひとつは、あなたが呪祖をかけていたこと。その○○が、あなた以外の女と触れられなくなるような。」
あ、あああああ。
つまりつまりつまり、私は、私は。
○○に迷惑をかけながら暮らし、
○○の体を蝕み、
○○をー、キョンシーにする、永遠に一緒にいる機会を奪った張本人。
「あ、あああああ、ああああああああ!?」

宮古芳香は、壊れた。

その後、墓場では。
「○○…今日も幸せだね?」
濁り、どこをみているか分からない少女と。
墓場の上におかれた生首を、見るようになったと巫女は言った。

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最終更新:2012年07月17日 01:03