「う~ん…」
今、あたいこと小野塚小町は困っている。
運んだ霊から銭と一緒に落とし物を頂いたのだ。
いやまあ…確かに持ち物全部出せとは言ったが…届け物までやりますと言った覚えはないんだがね。
ちらとその財布を見る。茶色のベタな物だ。
振るとチャリン、と音がした。
…あの男、今頃地獄行きだね。生前何やってたんだか。くわばらくわばら。
うーん、死者最後の頼みだしね。
ちょっくら下界に行きますか。
「××○○?財布に名前とは。いいねぇ。」
あたいは人里に行くことにした。その○○って奴は人間だろうし、ここらへんで探していれば見つかるだろう。
「××かぁ。変わった名前だね。うんうん、これは一回でいいから会いたいよ。」
あたいはその××さんの家を探す。
あたいが通るとそのまわりにいる人間避けて通る。まあ、人里に死神。
これほど似合わないものはそうそうないだろう。
その茶色の財布をぷらぷさせながら人里を進むと、その××って表札が見つかった。
あたいは扉をガラッと開ける。
いや、死神が挨拶なんて…それこそお迎えみたいだろう?
入ると一人の人間が居た。そいつに財布を渡す。
「ほら。◇◇ってやつからお届け物だよ。あぁ、安心しな。あたいはあんたをお迎えに来たわけじゃないよ。」
…まだ○○は固まっている。うーん、初々しいねぇ。
それにしても声があがらないくらい驚いてるのかい?
すると○○っていうのは声をあげた。
「え…◇◇?あいつ、死んだ筈じゃ…」
「あたいは死神。知らないのかい?それはそいつからのお届け物さ。」
すると、○○は泣き出した。
ぐすぐすと。
え、あ!?泣いてる!?大の大人が?
取りあえず背中をさする。
「およしよ…な、なくんじゃないよ?」
暫くさすってやると、○○は泣き止んだ。
そして、ありがとう…といったのだ。
あたいは驚いた。
だっていつも聞くのは愚痴かお説教だったから。
「あははは!いいねえ、気に入った!明日も来ていいかい?」
○○が頷くのを確認する。○○はお菓子をくれた。
いいやつ。
「こ~ま~ち~」
「きゃん!?し、四季様…!」
それからあたいは一時間お説教を聞いていた。おぉ、今回は短い。
それからあたいは真面目に仕事をした。
舟で運んで、銭を貰う。
いつも通りの生活。いや、満足してるんだよ?
でも、○○とお喋りしたいな。
いつもと変わらない日常。
でもあたいの中の○○への気持ちは膨らんでいった。
四季様からは「感情を持つのはいいことです。が、仕事は疎かにしないように。」
というありがたーいお言葉を頂いた。
あたいからも○○に何かできないかな?
あたいは死者から貰う銭で○○に本などを買ってあげることにした。
すると○○はありがとう、と可愛い顔ではにかむのだ。
その一言が乙女心を揺らしているのを知らずに。
この色男。
そういってあたいは○○をからかう。
○○が楽しそうにしていて、なんだ微笑ましくなった。
で、最後にお菓子を貰う。
やっぱ、いいやつ。
あたいは幸せ者だ。
出会ってから一年後。
「えっ…籍をいれる!?」
あたいは耳を疑った。○○は無表情に頷く。
どうやら本当のようだ。
「村長からの、お見合いなんだ。人里の教師の、上白沢さん…」
な、なに?あのワーハクタク?なぜ、なぜ。
どうして受け入れたんだ。そう問うと、
「外来人に、拒否権はないって。」
○○はうつむく。
………………あ。
「○○…ごめん。急用、が出来た…」
あたいは、彼岸へ戻った。
畜生っ…畜生!
○○とあたいの幸せを奪いやがって…!
悔しい、どうしてあいつなんだ。どうして!
こんなにもあたいは…無力なんだ。
「うわあああぁん!ああああぁん!」
あたいは泣いた。○○のように、子供のように。
四季様は何も言って来なかった。
いい人さね。
…暫くして泣き止むと、さわさわと彼岸花が揺れた。
これは魂の入っていない、ただの花だ。
あたいがこれを育て始めた時、四季様はこういってたっけ。
「この花は毒性です。…言いたいことは、分かりますね?」
その言葉に、あたいは食べませんよー。と返した覚えがある。
………そうか。
あのワーハクタクに、とられるくらいなら。
あたいは彼岸花を手折り、○○のもとへ行った。
その瞳はどこまでもくらかった。
1日たって。
○○が肉じゃがとかいう料理が食べたいと言ったので、あの隙間妖怪に土下座等をして頼みこんだ。
おかげで材料はある。
「本当にいいのか?小町。」
「いいさいいさ。それとも、嫌なのかい?」
いいや、ありがたいよ。と○○は言った。
慣れぬ作業に戸惑いながら、料理を完成させた。…彼岸の味。
「出来た!…さて。あたいは用があるから、ここでね。」
「ありがとうな、小町。」
○○はにこり微笑む。
それをみないようにして、あたいは彼岸を目指した。
もう少し、聞いていれば。小町の運命は変わっていたのかも、知れない。
「できることなら…小町と、むすばれたかったよ。」
彼岸であたいは黄昏ていた。
○○はしんだ。どこぞのワーハクタクが狂ったらしい。
くっくっく。ざまあみろ。あたいだけ愛されていれば十分さね。
四季様の要望であたいは運べなかったけど。
○○はきっと転生できるだろう。
そしたら、今度こそ愛し合おう。大好き。
そうだなあ。
「また会う日を楽しみに。」
最終更新:2012年07月23日 20:38