前に書いた新妻椛と猟師の続き


囲炉裏の傍で、銃の手入れを終える。
河童から譲って貰った精製油は良い塩梅だ。潤滑油からさび止めまで、外界で売ってたガンオイルに匹敵すると言っても良い。
爺さんの趣味の思い出である銃を油紙で慎重に包み、雑貨屋で手に入れたケースに入れ、保管庫に居れる。
随分と銃の手入れに時間をかけたから、そろそろ向かいで口を尖らせている椛にかまって上げないといけない。
彼女の嫉妬の範囲はかなり広いのだから。

無言で拗ねたように囲炉裏を火箸で突いている妻の隣りに座る。
ぷいっと顔を背けた椛の肩を軽く抱き、こちらへと引き寄せた。
抵抗は無かったし触った瞬間に力が抜けていたので、妻はこれを所望してたのだろう。
トロンとした目で上目遣いに此方を見ながら、喉を鳴らして俺の胸に頬ずりをしている。
彼女の気性はこういった『業愛』と言うべき苛烈な愛情を秘めた幻想郷の女性達に通じる。
だが、長年の付き合いである程度制御が出来るようになったと個人的には思っている。

要は椛が何を求めているかを知りそれを満たすかだ。
男女の関係は色々見てきたが、全体的にどうにも男は女を知らず、女は猪突猛進過ぎるか引きすぎているかのどちらか。

「だ、旦那様ぁ……」

塞いでた唇を離すと、甘ったるい椛の声が出て来て来る。
色々と堪らず寝間着の隙間に手を入れた所で……動きを止める。

「あ、え……?」

続きを期待して上気していた椛を素早くお姫様抱っこし、寝室への襖をスパンと開ける。
彼女を既に敷かれていた布団の上に転がし、素早く襖を閉める。

閉める直前に見えたもの。
それは残念そうに消える紫色の魔法陣と、戸口から覗いてた姫海棠さんが舌打ちしながら立ち去る所だった。
まぁ、この辺は長年の付き合いである。盛り上がってきた所で水をさされるのはご免だ。

翌日。
今日は俺の出勤日だ。
手に弓を持ち、矢筒を提げ、山刀を吊す。
本当は銃を持って行きたいけど……風習やらでダメだそうだ。
椛からえらく手の込んだと思われる重箱の弁当を渡された。
俺がこの仕事を始めるようになってから以前よりは安定感が出たようで、混ぜものが無くなり普通に美味しい料理になった。

「行ってらっしゃいませ旦那様」
「ああ、行ってくるよ椛。出来るだけ早く帰ってくる」

見送りの言葉と口づけを交わした後、空を飛んで哨戒天狗の待機所へと向かう。
彼女は千里眼なので、見送りは物凄く長いらしい。千里眼だけに長く長く見送れるそうだ。

ああ、今日も良い天気だ。
吹き荒れる風で額にかかる銀髪を手で避けた俺は妖怪の山の空を駆けた。

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最終更新:2012年08月05日 14:00