やあ、君か。いらっしゃい。
お茶でも飲むかい。茶菓子もどうだい。
ああ、気にしなくていいよ。君は、きちんと代金を支払ってくれる貴重なお得意様だからね。サービスだよ。少し待っていてくれ
待たせたね。それで、今日は何が入り用なんだい? 
えっ? そうか……ついに、外の世界に帰るのか。寂しくなるね。
てっきり、ずっとこちらで暮らすのかと思っていたよ。外来人は、たいていこちらに骨を埋めているからね。
こちらの生活が気に入ったり、異性と恋仲になったりしてね。
君にはそういう人は出来なかったのかい? 周りには綺麗どころがたくさんだろう?
ははは……なるほどね。怖い、か。
気持ちは分からないでもないよ。弾幕ごっこは、見ている分には綺麗なんだけどね。
それに、幻想郷の女性達は少し……いや、なんでもないよ。
しかし、それなら安心したよ。つまり、君には意中の異性がいないというわけなんだね? 今回の仕事は楽に済みそうで安心したよ。
何を言っているか分からないって? いやいや、気にすることは無いよ。こちらのことさ。ふふ。
おやおや、どうしたんだい? 
急にカウンターに突っ伏したりなんかして。具合でも悪いのかな。身体が痺れて動かない? 
まあ、そうだろうね。後遺症が残ったりはしないから、心配はいらないよ。
何をしたのかって? 大したことじゃない。痺れ薬を盛っただけだよ。
そんな目で見ないでくれよ、親友。仕方が無いんだ。こちらも生活がかかっているからね。君も良い友人だったけど、これも商売だからね。悪く思わないでくれ。
……入ってきてもいいよ。
彼女に見覚えがあるだろう? 覚えていないって? 
やれやれ、罪作りな男だ。まあ、だからこそとも言えるか。
彼女はね、君の事をいつでもどこからでも見ていたんだよ。
仕事中も食事中も就寝中も入浴中も排泄中も自分を慰めているときも、いついかなるときも、君の一挙手一投足をずっと見つめていたんだよ。片時も目を逸らさずにね。
当然さ。彼女は君に想いを寄せていたんだからね。
だけど、君はそれに全く気が付かなかった。
その結果がこれさ。自業自得だと思って諦めるんだね。
……確かに。代金は受け取ったよ。ああ、そうだ。
別料金になるんだけど、最近仕入れた八意印の排卵誘発剤も一緒にどうかな? 
毎度あり。きっとそう言ってくれると思ったよ。ベビー用品のご入用も香霖堂へ……ってもう居ないか。
やれやれ。扉ぐらい閉めて行って欲しいもんだ。まったく、天狗はせっかちでいけないね。
さて、と。久しぶりに纏まったお金も入ったことだし、これでまた暫くは悠々自適な暮らしが出来るぞ。
ふふふ……まったく、良い副業だよ。
最終更新:2017年06月10日 23:28