布都でひとつ。

物部布都は、ある男を好きになった。布都は彼を盲目的に愛した。

それは、ある日。
神子と屠自古と一緒に散歩をしているとき。
「わぁ!?」
布都は盛大にすっころんだ。びたーん、と音がする。
神子達とは違う場所で遊んでいたから、神子達は布都に気づかない。
ううぅ…。と目に涙を溜め、そのままぐすぐすと泣き出す。

その時。

「…?大丈夫ですか?」

ある男が布都に手を差し伸べた。布都は顔を上げ男の顔を見ようとした。
しかし、目に砂が入って目を開けられない。
ごしごしと目をこする。
そして、男の顔を見た。男は、ハンカチを手にしている。
「あぁ、もういりませんか?」
ははは、と笑う。
始めてあったのに、優しくしてくれる。助けてくれた。
布都は笑う。そして、こう言った。
「ありがとう。我を助けてくれたこと、感謝するぞ!」
盛大にふんぞり返っていう。
男はそれじゃあ。と歩み始めた。
がっし、と男の肩をつかむ布都。

「え…?」
「我を助けてくれたのだから、礼をしないとな!いいや、遠慮しないでいいぞ!」
「え、ま、ちょ!」

そのままずるずるとひっぱり、屋敷に招待して、ご飯を振舞って…。
そしてしばらく付き合った後、晴れて、恋は叶った。
まぁ、一方的な布都の愛のささやきに男が負けた、という感じだが男はまんざらでもなさそうだ。
それから布都はその男―○○を不老にした。
まぁ、手段は聞かないでほしい。

それから○○と布都は、幸せな生活を送っていた。
しかし、しばらくして大変なことが起こった。

○○が、重い病気を患った。

布都はうろたえた。大切な婿殿が、重い病気。
何としても直さねば。
しかし、布都が東奔西走して得た結果は、○○はもう長くないというものだった。
めまいがした。
なくしたくない!
婿を、我が初めて愛した男を。
なくしたくない。

日々衰えていく○○。布都はその手をぎゅっとつかみ、泣き出した。
その顔は悲痛極まりないもので、見ている此方が耐えられない。
だから○○は言った。

「俺が、仙人になれたらよかったのにな。」

布都は顔を上げる。
そこには、○○が自分を愛してくれていたという安堵と、そのような提案があったのか、という喜び。
布都は早速実行した。
まず、○○の魂と肉体を分ける。
つまり布都がおろおろしながら、○○の首を絞める。

○○は、最後まで幸せそうな顔だった。

布都はその動かなくなった体をきつく抱きしめる。
そして、尸解をした。
これで、準備万端。
あとは、○○の復活をまつだけ。
布都は微笑んだ。

そして1000年の時は流れ―…。
○○が復活した。
しかし、○○は何かを呟いた後、こんどこそ他界してしまった。
布都は目を丸くする。

「え…?なんで?え、えええええええぇ!?」

布都は絶叫した。なんでなんでなんで。
我は完全に○○を仙人―もとい尸解仙にできたと思ったのに!
布都は、混乱した頭をフル回転させる。
そして、一つの結末にたどり着く。

「もしかして…。尸解が、完全ではなかった…?」

そもそも布都は○○の肉体を大事にとっておいた。それが原因。
肉体が『消滅』しなければ、尸解仙にはなれはしない。
誰もいない部屋に、絶叫がこだました。

それから、布都は異常な行動をするようになった。
もう死体の○○の、世話をするようになった。

愛の言葉を延々と囁いたり
ご飯を食べさせたり
服の着せ替えをしたり。

それを見ていた神子達は言った。
「手遅れだ。」
と。

今日もまた、壊れた少女は宝物を愛でる。

自身で壊してしまった、それを。

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最終更新:2013年01月08日 14:35