ここは稗田家。
今は阿求が紙を片手に睨み合いをしている。
「うーん」
どうもおかしい。私が書いてきた一部の「歴史」と、現実に起こっている一部が違うのだ。
まぁ、それらは全て大事に至らないものなのでいいか、と阿求はお茶を啜る。

「!?」

不意に頭が割れる様に痛む。
お茶が手から滑り落ち、割れる。

「阿求!」

襖が開き、阿求の愛しい夫-○○-が入ってくる。
慌てて妻を抱き起こし、そのまま寝室へと運ぶ。阿求はその手で頭をおさえ、申し訳無さそうな顔をした。
「ごめ、なさい。いつも、い…うっ」
「阿求。喋るな。それに俺達は夫婦だろ?気兼ねはいらないんだ。」
それを聞くと阿求はこてっ、と布団に身を預け可愛らしい寝息をたて始めた。

二人はお見合いで出会った。
最初は二人とも乗りきではなかったが、だんだん二人は惹かれていった。
そのときに阿求は決めた。
この人を、死んだ後でも愛そう。
二人は時が経てばたつほど相思相愛になった。
それはとても初々しくて、目を背けたくなるくらい。

「…は!?」
阿求は飛び起きる。ここはどこだ?愛しい旦那様は?
パニックに陥る阿求。しかし隣に寝ている○○を見ると、その愛しい旦那様に頬をすりすりする。
(旦那様…離したくない…でも、私は寿命が短いの…どうすれば)
阿求の今の悩み。それは自分と○○が何時まで一緒にいられるか。
一回、旦那様も一緒に死ねばいいじゃない!と思っていた自分。今思うと馬鹿げてる。
旦那様には幸せになってほしい。なら、殺してはいけない。
阿求は隣に居る旦那を見つめ、布団を抜け出した。
幻想郷縁起。私達の歴史。
○○様の寝顔可愛い、と。きゃっ、下の名前で呼んじゃった♪

暫くして○○が起きてきた。
何も言わず阿求の隣に座る。そして、阿求が歴史を綴るのを見ているのだ。
無言。けれどそこには幸せオーラが蔓延している。

挨拶をしにきた八雲紫は、それにびびって逃げていった。
「す、すごいわね。あの子!」
もう既に亡くなっていてもおかしくない月日。けれど、それを凌駕して生きている。なんて生命力!
けれど…
「そう長くは続かなそうね。」
そう隙間妖怪が呟いたのを阿求達は知らない。

「旦那様!」
阿求はお風呂に入った後、○○に頭を撫でてもらうのが日課である。
「~~♪」
「…可愛いな、阿求。」
その瞬間、阿求の顔が真っ赤になる。
そして幸せそうに笑うのだった。

「それでは。お休みなさい。」
「あぁ、お休み。」
布団が一つしかれていて、その半分は○○が既に寝ている。
阿求は電気を消そうとした、瞬間-…

「あぅう!?」

襲う激痛。頭が割れる…!いた、痛い!
どさりとその場に倒れる。
○○の呼びかけにも答えずー、阿求は気絶した。

「求…あきゅ…阿求!」
○○の呼びかけで目が覚めた。少し幸せである。
「よかった、本当に…」
脱力する○○。既に時は寅の刻。さぞ疲れたろうに…
お屋敷の人に伝えてくるよ、と○○は出て行く。
それを見て思った。○○に迷惑をかけてしまった。同時に嬉しくもある。

いけない、いけない!旦那様に迷惑をかけるのが嬉しい?
自分で自分を戒める。でも、でもー…!
阿求は、決めた。

○○が林檎を持って来てくれた。
しかし持ってきたのは包丁と林檎だけ。皿を忘れたらしく、頬を赤らめて取りに部屋をでる○○。
阿求は包丁を手にとる。

さよなら○○様。どうか、どうか私を忘れないで…
お幸せに。

帰ってきた○○が目にしたのは、血まみれの阿求。
それは、既に息絶えていて。

それから○○は塞ぎこんでしまった。
凶器が○○のもってきた包丁だということもあったのかもしれない。
夜な夜な阿求を思い出しては泣き、思い出しては泣き。
○○の精神は限界だった。愛しい人の自殺。
「…阿求」

それから暫くして、10代目稗田の子が誕生した。
そう聞いて、○○も見に行った。
…その姿は阿求に似ても似つかぬもので、少し落胆した。
しかし何故だか○○と10代目稗田の子と二人きりで話す機会が与えられた。

「…」

無言。当たり前だ。
話すことなど無いのだから。
「…9代目稗田の旦那様と聞いて。お話伺いたく。」
「…特に無い。歴史を見ればいい。」
○○は唇を噛む。こいつも、俺の傷をえぐるのか。
「あのとき後を追えばよかったのかも、な。」
俺は早々と退室しようとした。
しかし立った瞬間、10代目に肩をつかまれる。

「本当ですか、旦那様」

凄い力で首を締め上げられる。意識が遠のく。
俺が一体何をした?
そう思い10代目を見ると、そこには…

幸せそうな顔の、阿求が居た。


「旦那様!」
彼岸。阿求が抱きついてきた。
「…えんま様には随分怒られました。」
ここにいられるのは私が阿求であるからでしょう、と呟く。
「あの時俺を締めたのは…?」
「はい、私です。…旦那様を酷く愛し過ぎた故、あいつ…あのこと話したのに嫉妬してしまいまして…すみません」
しょんぼりする阿求。俺はそんな愛しい妻の頭を撫でる。
「俺を愛してくれて、ありがとうな。」
「…!旦那様、」
その口を口で塞ぐ。もう死なないんだから、無理をしてもいいだろう?

「あぁ、うー」
四季映姫は浄瑠璃の鏡を見て顔が赤くなった。
夫婦の営みなど沢山みてきた。
でも、始終いちゃらぶやんでれーENDなど見た事が無い。
「あーあ、幸せそうですね。…私だってあの方が来れば…うふふふ」

四季様がその二人と同じ結末を迎えるのは、また別のお話。
最終更新:2012年08月05日 16:00