冥界に一人の男が迷いこんできた。
曰わく、行く場所がないとのこと。私ー西行寺幽々子は保護、という形でその男をかくまうことにした。

「紫~どうやら結界が緩んでるみたいよ」
私は何も居ない空間に古くからの友人を呼ぶ。
妖夢は今顕界に買い出しに出かけている。
本当は妖夢の役割ではないのだが、人間の好物を少しはわかっているのがあの子だけだったからだ。
「う…うぅ」
「あら、お目覚めかしら?」
私の膝の上で目が覚めた男は、寝ぼけているのか変な声を出し、暫く私を凝視した後
「!?」
驚きからか地面に落ちた。
縁側からだから余り怪我は無いと思うけど…せっかちねぇ。
私は扇子を2、3回閉じたり開いたりする。
すると隙間から紫が出てきた。
「はぁい幽々子?何かしら。」
「いえね、この人生きてるのよ。きっと迷いこんだんだわ。里の人間では無いみたいだしね。」
私は考察を述べる。
実際のところ人間をかくまうのは嫌だ。

「あーん、幽々子。諦めて。何だか結界が…」

紫は急いで隙間に戻っていった。
…?
「ですって。哀れねぇ…」
私は男を見ずに言う。男は少し縮こまった様に見える。
「名前は?」
「○○…です。」
「敬語じゃなくていいわ。」
ひらひら桜が舞う。それは、まるで桃色の雨のようだった。

「…幽々子様?」
いつの間にか寝ていたらしい。人間…○○に寄りかかる様になっていた。
「お帰りよ~むぅ!今日の献立はぁ?」
「途中で紫様にあいまして…何だか沢山外界のものを」
袋を見る。うーんいっぱいだわ。
「でも、作り方が分からないんです…」
「あ…」
その時、○○が手を挙げた。どうやら自分に任せて欲しいとの事だった。
「…ふぅん。そうですか」
袋を押し付け、台所に案内する妖夢。あらまぁ、もうそんな時間なのね。

出来た料理は、白いドロドロした人参やジャガイモが沢山入ったものだった。
しちゅー、というらしい。それ以外には、見た目も綺麗なサラダがあった。
「…ふん」
妖夢はぱくり、と野菜を口にする。しばし止まった後、妖夢は下を向いてしまった。
私はしちゅーを口にする。…美味!
「お…美味しいわ。サラダも…」
○○は外では料理人だったらしい。成る程。
私はその味を偶然だと決めつけた。
だって私を魅了するなんて。ありえないもの。

次の日。私は朝ご飯を○○に頼んだ。
すると、しっかり栄養を考えたとても美味なものが出てきた。
私はその日から○○の料理の味の虜になった。

毎日毎日、食事をとる。これを食べると料理の美味しさを忘れていたかのように思える。

私はある日○○の調理の現場を見ることにした。
こっそり台所への扉を開ける。…そこは、正に職人が、居た。
一目見れば、どれだけ真剣なのか分かる。
私は見たことを後悔しそうになった。
胸がドキドキする。

私は、○○に恋をした。

一方従者は。
「幽々子…様」
主への思いでいっぱいだった。頭を撫でて欲しい。話かけて欲しい。もっと私を見て欲しい。
○○への嫉妬。
幽々子様、西行寺のお嬢様。

そして、里では文々。新聞で○○のことがかかれていた。
「主を魅了する料理を生み出す!外来人、○○!幻想郷の料理革命起きるのか!?」
この記事のもとは、妖夢の愚痴からだったが、肝心の妖夢は知らない。

「さとり様~」
ここは地霊殿。そこのペット、お燐がさとりに文々。新聞を渡した。
さとりは退屈していた。そこに、魅力的な文章が広がっている。
「…ふふっ」
さとりは含み笑いを漏らした。面白いわね。
さとりはお燐を撫でた。びくんっ、と体が震え、お燐は目をトロンとさせる。
「ダメよ。まだです。成功してからね?」
席を立つさとり。新しい玩具を与えられたかのようなはしゃぎよう。
そこには、妖怪さとりが居た。

「○○ぅ、あーん」
「ゆ、幽々子様?」
○○と幽々子は昼間から果物を食べていた。
近くに妖夢が居るが、○○を死んだ目で見ながら果物を捻り潰している。
「で、では俺は買い出しに!」
そそくさと立ち去る○○。うぅん、残念。
私は妖夢で遊ぶ事にする。
妖夢に○○へ剣術を教えるように言ってから数ヵ月。時が経つのは早いもの。
しかし妖夢が○○に教えているのを見ると、どうしようもない苛立ちに苛まれるのだ。
私は膝の上に頭を乗せている妖夢に話かける。
「○○の事、どう思ってる?」
妖夢は気持ちよさそうにしながら言った。
「…どうも思ってないですよぉ?」
私は尚もしつこく妖夢に問う。
「本当に?本当に?本当に?本当に?本当に?本当に?本当に?本当に…?」
壊れたテープレコーダーのように呟く幽々子。
それを見て妖夢はざっ、と体を起こす。
「…?」
「ほんとぉに?」
「えぇ、本当ですとも。何故主に嘘をつかねばならないのです。」
ため息。知ってるわ、と言う。
「ねぇ妖夢。私ね。○○の事を思うとね、全てが欲しくなって楽しくなって壊したくなってずっと一緒にいたくってでもなんか悲しくなって愛しくなって大変で…」
壊れたテープ。止め方なんて知る由もなく

その頃。
里で買い出しの終わった○○は団子を買って食べていた。
すると前方から肌の白い綺麗な人がやってきた。
「…○○さんですか?」
「あ、はい」
○○は驚いた。何故自分の事を?
くすくす笑う目の前の少女。いいでしょ?と笑う。
その妖怪が心を読み、支配する悪魔だと知らず。

「遅いわねぇ」
もう5時近い。いつもならこんなに遅くないのに。
私は妖夢に出掛けてくるわと言い、里に降りた。

里。
そこにはさとりが○○と手を繋いでいるところだった。
「キスでもしましょうか?」
さとりは甘い誘惑を放つ。
心の支配はされているも同然だった。
「あぁ、うん」
頭がぽわぽわして、何も考えられない。
さとりに引き寄せられ、されるがままにキスをされた。
「ねぇ○○さん?私と一緒にきませんか?」
ペロリと舌を出すさとり。
もう少しでこの人間は堕ちる!さとりが確信した時ー…

「いひっ、見つけたわ」

幽々子が見つけた。
最悪だ、とさとりは思った。だって相手の心は自分への悪意で満たされていたのだから。
ならば、とさとりは遊び方を変えた。
「私の○○!あぁかわいそうに!そんな妖怪に襲われて、つらかったわよねー、」
助けてあげる。

いくつもの反魂蝶が生み出され、さとりめがけて放たれる。
するとさとりは○○を盾にしー…
「え」
幽々子は何が起こったか分からなかった。
さとりじゃくて、○○が、死んでる?
「いや、いや、いやぁあああああぁっ!」
くすくす笑うさとり。
そのままさとりは闇夜に消えていった。

「幽々子様お帰りなさ…え?」
そこにはボロボロになった主と○○が居た。
妖夢は主を介抱しようとした、すると主はこう言うのだ。
「○○、○○を助けてあげて、」
妖夢は人間を触る。
…冷たい。死んでいる?
脈を確認する。見当たらない。
「死んで、る?」
「○○、○○、○○ぅ!好きよ好き好き、大好きなのよ、死んでないわコロしたのはだぁれ?私!わたし…違う、」
幽々子を見て思う、このかたは壊れてしまったと。

そして暫くした後。
妖夢は○○の死体に近付いた。
幽々子は埋めずに桜の近くに横にしておいた。
「…貴様」
もう憎しみしかない。主を魅了し、最後は壊していった。
「…私が直々に」
処理してやる。刀を振り上げる。
そのとき、お腹に鋭い痛みが走る。
「ようむなにしてるのたのしいことぉ?ぜんぜんたのしくなーい!」
「ゆ、ゆこさま、」
刀が腹に刺さっている。そのまま地面に崩れ落ちる。
「よーむも好きぃ、○○はあいしてる!」
幽々子は笑う。
そしてまた、届くことのない愛を死体に投げかける。

ん?ヤンデレ…なのか?

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最終更新:2012年08月05日 16:17