「私の勝ちね。あなた、弱くなったんじゃない?」
少しからかっただけで妹紅はさらに強く私を睨み付ける。
「何があったのかしら?」
「お前には関係ないね。とっとと帰ったらどうだ?輝夜。」
妹紅が声を低くして答える。
「隠さなくてもいいのに。…○○でしょう?」
そう言うと妹紅が目を見開いた。
「…お前にだけは知られたくなかったよ。こんな弱みを握られるなんて…最悪だ。」
「あら、私は色恋を戦いに利用するような無粋なまねはしないわよ?」
それに、と私は付け加える。
「戦いに集中できなくなるほど異性に夢中になれるなんて素敵じゃない。」
妹紅は溜息を吐くとこう答えた。
「今日は疲れた。もう帰るよ。」
私は慌てて妹紅を呼び止めた。ここで帰られては困る。
「あ、待ちなさい妹紅。一つ忠告しておくわよ。」
妹紅は振り返ると無言で竹に寄りかかった。
「いい?○○はただの人間なのよ?」
「彼は人間。あなたは不死。生きてきた時間もこれから生きる時間も違いすぎる。」
「彼はそのことを知っていながら私たち蓬莱人とも付き合ってくれている。」
「けれどもそれは友人として。果たして彼は恋人や妻としてあなたを受け入れてくれるかしら?」
どんどん青くなっていく妹紅を見ながら私はとどめの言葉を口にする。
「受け入れてくれたとしても彼はあなたを置いて逝ってしまう。」
「あなたはそれに耐えられるかしら?」
ついに妹紅は震えだした。
「忠告はお終い。私は帰るわ。じゃあね」
そう告げて永遠亭へと向かう。
しばらく歩いていると妹紅が動く気配が感じられた。

これで準備は整った。あとは待つだけだ。



○○を夕食に誘った。私の肝を食べさせるために彼に手料理を振舞うのだ。
私は蓬莱人。彼と同じように死ぬことはできない。理解していたはずだが輝夜に指摘されると途端に不安になった。
長いこと悩んだ末一つの結論にたどり着いた。彼が変わればいいのだ。私が死ぬのは難しいが彼が不死になるのは容易い。
○○が来るのは今日の夜。まだ午前中だが血の掃除や傷の回復のことを考えると今から準備するほうがいい。
私は包丁を取り出すと自分の脇腹に刺した。痛い。ゆっくりと腹を割いていく。手が入るほどの大きさになった。
私は傷口に手を入れ、ゆっくりと肝を取り出した。傷は痛むが、準備をしなければならない。

家を掃除し料理が出来た。あとは傷の回復を待つだけだ。
その時家の戸を叩く音がした。約束の時間にはまだ早いのに。戸を開けると○○がいた。
「ちょっと早いけど来ちゃった。って顔色悪いけど大丈夫か?」
傷の痛みのせいだ。上手く誤魔化さなくては。
「いらっしゃい、○○。料理作るのに張り切ったせいで疲れてるだけだ。大丈夫だよ。」
「なんだもう出来てるのか?作ってるとこ見たくて早く来たのに。」
「じゃあちょっと早いけど食べようか?」
「そうだな、妹紅の料理、楽しみだ。」
○○が席に着く間に作った料理を並べる。
「凄いな。妹紅って料理得意なんだな。…うん?これは生なのか?」
○○が肝の入った料理を見て言った。正直ドキッとした。
「ああ、それはちょっと特別な肝なんだ。火を通すと食えなくなるかわりに生だととてもおいしいんだ。」
私はこんなにも嘘が上手だったのか。
「そりゃ楽しみだ。いただきます。…うん、上手い!」
それから私たちは談笑しながら夕食をとった。傷もほとんど塞がった。
食べ終わり二人でくつろいでいた時突然ある衝動に襲われた。
○○に教えてしまいたい。不老不死になったことを実感してほしい。私はその考えに逆らえなかった。
「○○…私は○○に言っておかなきゃいけないことがあるんだ。」
「ん?なんだ妹紅?」
「さっきの特別な肝。あれ私の肝なんだ。」
「何を言って「分からないのか?」
「お前は私と同じ、蓬莱人になったのさ。」



妹紅は何を言ってるんだ?俺が蓬莱人?不老不死?
人里にいれない。身を守る力もない。妖怪の餌。また復活。
様々な考えが浮かぶ。どれも酷いものだ。俺は急に妹紅が恐ろしくなった。
頭は真っ白だったが体が勝手に動いた。俺は妹紅の元から逃げ出した。
しばらく走っていると建物が見えてきた。永遠亭だ。竹林の出口を目指していたのに奥地に来てしまったのか。
今から竹林の出口に向かうより入れてもらったほうが賢い。おれは戸を叩いた。
「はぁーい。あら、○○さん。どうしました?」
出てきたのは鈴仙だった。息を整えながら訊く。
「え、永琳か輝夜いるか?」
「姫様なら部屋にいますけど…。」
「ありがとう。」
礼を言うと輝夜の部屋へ急ぐ。
「輝夜っ」
「きゃっ、○○!?襖叩くなり声かけるなりしなさいよ、びっくりするじゃない。」
最初は文句を言ってきた輝夜も俺の様子を見ると態度が変わった。
「…何があったのか言ってみなさい。落ち着いたらでいいから。」
輝夜の優しい声に落ち着きを取り戻した俺は今回のことについて話し出した。
「なるほど…妹紅が…。」
「俺、これからどうしたら…。人里にもいられないし…。」
「それならここに住みなさい。」
「え?いいのか?」
「当然よ。安心しなさい。私はいつでもあなたの味方だから。」
そう言うと輝夜は俺を抱きしめてくれた。俺は思わず泣き出してしまった。
「ありがとう…本当に…」
やっとのことでそれだけ伝えると輝夜のことを強く抱きしめた。

(ここまで上手くいくとはね…)
○○は輝夜の笑みに気付くことはできなかった。

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最終更新:2012年08月05日 16:24