俺は、自分の運に自信があった
どんな状況にあっても、不運は俺を避けていく
そう信じていた
この妙な世界に来てからもその思いは変わらなかった
俺の常識からすれば明らかに異常な世界
それでも俺の強運をもってすればここで生きていける
そう信じ、現に暮らしには不自由していなかった
野良仕事も楽しくなってきていたし、村人との関係も好調だった
去年までは
「○○、元気ないわよ」
「・・・・誰のせいだ」
俺のそばを片時も離れない少女
俺の強運に引かれてきた厄を引き連れる神、鍵山雛
こいつが俺の強運に惹かれたのが、運の尽きだったんだ
朝一に転がす、俺の幸運を計るサイコロ
数字が大きければ大きいほどその日はいい日になる、一種のジンクスだ
畳の上に落ちるのは、もちろん俺特性の全面6サイコロ
幸運を力づくでも呼び寄せるっていう気概の表れだな
俺にもう幸運は残っていないんだろうか
「あなたの幸運と私の厄。交じり合ってすごく薄れてる
だから私にとってあなたは無くてはならない存在・・・・・絶対に、離さないわ」
「おい、マジかよ、夢なら覚め―――!」
「あなたは私のそばにいてくれればいいの。そして私の厄を薄めて
あなただけは、私がそばにいてもいい人間。そして私だけが、あなたのそばにいてもいいの
そのかわり住む場所も食べ物も、みんな私があげるから・・・・・ね?」
「支援、足りないぞ!」
そう、ここは雛の住む山奥の住居だ
村人も厄神を恐れてめったに近づいてこないから、俺がここに連れてこられたことなんて知らないだろう
上白沢さんなら調べればすぐにわかりそうだが・・・・・・無駄な期待か
なにせ俺は今、不運の中にある。厄が薄れてると言ったって、本当に[薄れてる]ってだけの話だ
そんな不運の中にある男のことを、彼女が気にするとは思えない
そういうところで気づいてもらうってのも、また一つの[運]なんだからな
一度、雛が留守の隙に逃げたこともあった
しかし無駄だった
この家の出入り口すべてに厄の塊が配置されてるらしく、ひどい目にあった
山で転び、川でおぼれ、熊に追いかけられ、生傷だらけでここに戻ってきたんだ
で、そうなることはわかっていた、と言いたげに雛は待ってたんだったな
額に青筋を浮かべながら
「・・・・・○○、どこ行ってたの?」
「待ってくれ、降参だ! それに、俺はここに帰ってきた
ノーカウントだ、ノーカウント!!」
この際プライドは抜きだ、とひょこひょこ踊りながら完全投降
これ以上の厄をおっかぶらされないためならなんだってやってやるぜ
「大物ね、感動したわ」
「だろ? だから―――」
「でも、あまり意味があるとは思えないの。というわけで」
「クソがぁ・・・ついてねえ、ついてねえよ!」
雛の厄、それは俺程度の凡人が浄化するなんておこがましいにもほどがあった
人間の幸運なんて、神の集める厄に比べれば大海を漂う小船みたいなもんだ
おそらくこの家を一歩でも出れば、俺は消えてなくなる
雛が背負った厄、そのすべてを一身に受けて
今にして思えば、雛は本当に俺の幸運に惹かれたのか
こんなちっぽけな幸運を雛がほしがったのか
本当は、俺を逃がさないための詭弁だったんじゃないか
そこまで考えて、いつものように思考を打ち切る
よそう、いまさら考えても仕方の無いことだ
そして最後に、もはや口癖になった言葉をぽつりとつぶやいた
「おい、マジかよ、夢なら覚めてくれ」
最終更新:2012年08月05日 20:12