834を是が非でも追い込むため拙作で即興。猟師と椛に出て来る妖怪そーなのか
ぽたり、ぽたり。
額から流れ出る血が止まらない。
痛い、痛い、痛いヨォ。
あの人間はドコ。私を撃った人類はドコ?
あの日、あの晩に出会った外の世界の人間。
山犬の変化達が騒いでたから様子を見にいったら、そいつ等に追われてた人間が1人。
歳が若いし肉が固そうだったけど、何となく気になったので食べようとした。
ちょこまかと逃げ回って、変な音を立てる棒で此方を撃ってきた。
ちょっと痛かったけど我慢できる範囲。追い詰めて食べようとした。
そしたら、そいつがまた撃ってきた。大したことないと思ったら、額に中った。
痛い、痛い、凄く、痛い。銀の玉、私達の大嫌いな銀の玉が額を抉った。
私が悲鳴を上げているウチに男は去っていった。許さない。ユルセナイ。
それから私は妖怪の山に行くようになった。あの男を食べたい。食べないと気が済まない。
哨戒天狗に何度も追い返され、弾幕で撃たれても、隙を見ては山に忍び込んだ。
人間が、居た。前みたいに、棒を持ってこっちを見ている。
人間、食べたい。食べさせて! 私はがむしゃらに突進した。
あの人間が食べられる時にどんな顔をするか見てみたい。怖がるだろうか、泣くだろうか、どうしてと嘆くだろうか。
兎に角見てみたい。問うてみたい。私を撃った時、どんな気持ちだったかと。
人間が撃った銃弾を人間に差し出して問いかけようとした時、胸から銀色が生えた。
ぞぶりと音が立って、力が抜けて斜面を転がる。
人間が何故か悲しそうに私を見てて、凄く冷たい目付きの哨戒天狗が血塗れの山刀の血を払っていた。
どうして、どうしてそんな目で見るの?
私は凄く気になった。人間に聞きたかった。どうして私をそんな目で見るのかと。
そして、ますますその人間の肉の味を知りたくなった。あんな目で私を見た人類は彼の他に居なかったからだ。
私はひたすらに、その人間、○○(哨戒天狗の話し声で知った)を食べようと山に這入り込もうとした。
数年後、いつもの様に這入り込んだ私の前に、○○は現れた。
銀の髪、あの天狗と同じ目の色、そして天狗の服装、空にも浮いていた。
顔付きと鉄の棒だけ、私を撃った鉄の棒だけが○○だった。
人間じゃ、無くなっていた。
私は叫んだ。どうしてと、人間じゃないのかと。○○を食べたかったのに。
自分を撃った気分はどうか聞きたかったのに。どうして、自分がこんなに○○に執着してるのか知りたかったのに。
きっと、○○を食べれば、食べてしまえば全てを知る事が出来たかもしれないのに。
食べていいのは人類だけ。外の人類と里の外の人類だけ。
では、天狗は食べて良い人類? いや、天狗は人類じゃない。
じゃあ、○○は天狗? 天狗は食べちゃ駄目なの?
○○を食べられないのなら―――私の気持ちは一体なんなのか?
解らないよ、教えてよ○○、食べられないのなら、教えてヨォ!!!
○○は答えてくれなかった。ただ、悲しそうに私を見詰めるだけだった。
私はその場に座り込み、泣きじゃくった。○○を食べられなくなって、泣きじゃくった。
○○は何も言わず、そんな私を黙って見詰めていた。
遠くから、勝ち誇ったような女の笑い声が私の耳に届いた。
山は私の闇よりも深く暗くなり、シトシトと雨を降らしていた。
最終更新:2013年01月08日 14:13