娘々がきたよー

そう、それはある日のこと。
私が芳香を連れて歩いていると、一人の男が話しかけてきた。
私は柔和な笑みで迎えた。

男の第一声が「ご飯を分けてくれ」だった。
私は正直なところご飯は余り食べないので、お金を渡し「これで買うといいわ」と言った。
しかし男は首を振った。
ふむ…

私は芳香にお使いを頼んだ。
芳香はにこにこして食べ物を買ってきた。
「えらい、えらい。うふふ…さぁ、これでいかが?」
「あ、ありがとうございます…」
男は苦笑いをして品物を受け取った。
そして立ち尽くした。
「あら?どうなさいました?」
「あの…台所を貸して頂けませんか?」
「え?」
驚いた…家に帰って調理すればいいものを。
…いやまて。
さっきも、なぜ私に買い物を頼んだ?十分にお金はあったはずだ。
「…もしかしたら、帰る場所がない…とか?」
「…お恥ずかしいことに」
私は当たっていたことに気を良くし、しばらく質問をした。

分かったことは、この男は帰る家がないこと、里におりてはいけないこと、外来人だということ、名は○○ということだった。
へぇ、平和そうな人里だけれども…差別なんてあるのね…。
またかわいそうに。
○○はなかなか使えそうな男。
それに、見た感じだと優しい。
頭も悪くはなさそうだし…
人間性に欠点はなさそうだが。

そう考えていると、○○が話かけてきた。
「あの、お名前は…?」
「あぁ、そう言えば私はまだ名乗ってませんでしたわね。私は青娥。青娥娘々、とも呼ばれます。」
私はつらつらと言葉を重ね、男をどうしようか迷っていた。
ほうっておくか、連れて帰るか。
私は目の前で何かを待っている○○を見つめた。
「…あの」
「…はい?」
「台所…貸して下さいますか?」
あ、忘れてた。

男を連れて家へ。
芳香はいつもの所へ配置してある。
22時になったら起こさなきゃ。
「ねぇ、何を作っているの?」
「あ、ただの野菜炒めです。」
「頂けるかしら?」
「はい、いいですよ。」
小皿に盛られた野菜を眺め、口にする。
…美味しい。
私はこの味、好きだわ。もう少し欲しいけど…
私はちらと○○を見る。
すると、ニコッと○○は笑い少しの野菜炒めをくれた。
…いい人ね。何でこんな人ほうっておくのかしら。
私はもぐもぐ食べながらそう思った。

○○が泊まって、一晩過ぎた。
「んー、仙人は別にあれだけど…ご飯、作ったほうがいいかしらね」
思い立ったら行動するのみ。
私はここにある材料を駆使し、朝食を作った。
…我ながらなかなかに。
私は笑顔で食卓へ運んだ。

「…おはようございます。…わぁ!」
○○は料理を見て少し驚いた。
多分泊めてくれた相手が朝食を作ってくれるなど思いもしなかったのだろう。

「…すっごい美味しいです!」
「そう?」
お世辞のようなこの言葉は、○○が言うとキラキラした言葉に変わった。
○○はおいしい、おいしいとご飯を全て食べてくれた。
「ご馳走様でした!青娥さん、凄く料理が上手いですね!」
「そんなことないわ…私は貴方の作る野菜炒め、好きよ?」
私と○○はふふふと笑う。
少なくとも私、○○のことは嫌いじゃないわね。



さて、そんなわけで○○と住むことになりました…が、
○○は想像以上に世話をやく男だった。
部屋の掃除も、洗濯も、料理も。
殆どの家事をこなすのだ。
私はすることがなくなったので、○○がたまに料理をしてくれ、というのをのんびり待ちながら芳香ちゃんの手入れに時間をかけた。

ある日、○○が料理を作ってくれと言った。
私は嬉々として台所に立つ。
そして、ふと思った。

ー…?
何故私は嬉々として料理を作ろうとしているのだろう。
(決まってる、○○が喜んでくれるから)
-…それだけ?
(えぇ、それだけ。…二度もあの人を裏切れないわ)

私はくだらない自問自答をして、○○への料理作りに没頭した。

「できましたよ~」
私は数々の皿を宙に浮かしテーブルへ持っていく。
○○が呆気にとられているのが面白い。
「青娥さん…手品ですか?」
「ん…あぁ、言ってなかったわね?私…いや、何でもないわ。手品よて・じ・な。」
私はくくくと笑う。
○○は暫く私をちらちら見ていたが食べものに箸をつけ食べ始めると途端にそっちに集中した。
笑顔で、本当に幸せそうに食べる○○。
私はそれを見て頬杖をつく。
(食べ物を食べるより、お腹いっぱいになるわよ…)

○○と過ごし始めて半年余りが経った。
私は里へいつものように買い物に出かけた。
すると、とある人を見つけた。
里の人とは明らかに容姿の違う人。
妖怪ではない。
ならば、外来人ー…?
そうか!
私は心から込み上げる喜びにしばし頬を緩めた。
「外来人も、受け入れられるようになったんだわ!○○…」
私は○○が里へ行き来できるようになる光景を思い浮かべ、にこにこしながら家路についた。

「ねぇ○○…聞いてくれない?」
「なんですか?青娥さん」
私は里に行った時のことを話した。
よくはみなかったが、あれは絶対里に溶けこんでいる。
「そう、ですか…」
話終えると○○は微妙な顔をした。
まるで里にはいきたくなさそうに…
あ、そうか。
「ごめんなさい…里には、良い思い出なんてないかしら…?」
顔を伏せる。
○○は慌てて言葉を紡いだ。
「いいえ…大丈夫です。」
「本当?じゃあ、善は急げ。行きます?」
「…はい!」
かくして、○○と里に行くことになった。

「わぁ…余り、変わってませんね」
○○は今までと違う里を堪能していた。
私は里の色々な所を案内した。
そして蕎麦屋で蕎麦を食べた後、寺子屋を案内した。
そこで、○○の顔がこわばった。

私は上白沢慧音を呼んだ。
するとすぐに彼女は出てきた。
そして私に軽く挨拶をすると、○○の方を見て彼女は驚いた。
そして、こう言ったのだ。
「…○○!?どこ行ってたんだ!」
私の思考が 停止した。

「いや、すまないな。取り乱してしまって…」
さっきから○○にベタついている彼女に苛立ちを覚えながらも私は受け答えをしている。
何でも自称(ここ重要)婚約者だとか。
○○は否定している。
そうだ。
当たり前だ。
だって○○は私のものだから。
私のことを一番に気にしてくれる、私の僕にするのだから。

「それで○○。ここに住まないか?」
「え…」
苦痛の時間が終わり、私が○○の腕に絡みついたときだった。
彼女が提案した。
私は○○にぎゅっとしがみつき、逃がさまいとした。
だが○○は…
「そう、ですね…何時までも青娥さんのお世話にはなれないし…里に馴染めるチャンスかもしれない」

私はトボトボと家路につく。
もともと○○のものはあまり家になかった。だからすぐにお別れになった。


…私はいつも気付くのが遅い。
だからあの人を置いていったあと、少し後悔したのだ。
でも、今回は違うわ。
○○は私のもの、○○は私のもの…

家に帰って酒を少し飲んだあと、私は深く眠った。
深く、深く。

…目が覚めた。
しかし一体なんだろう?何だか雰囲気がいつもと違う。
何だか…とっても、寒い。
私は窓を開けた。
そして、驚いた。
「…え、うそっ…」
雪だ。
雪が、降っている。
おかしい!
私が眠りについたのは、春。
…つまりは。

私は里を見に行った。
○○とあの憎きワーハクタクの経過を見る為。

「…?」
寺子屋がない。
代わりに綺麗な家が建てられている。
な、何故?どうしてっ…?
私は扉をノックした。
すると、○○が出てくる。
その懐かしい顔を見て、思わず抱きしめた。
「○○っ…良かったわ、無事なのね…!」
思わず涙しそうになったが、次の言葉で全てが崩れ去った。

「あの…どちらさまでしょうか?」

…え?
「わ、私よ?青娥、娘々…」
泣き笑いで酷い顔になっているだろう。
でも、それ位衝撃的だったのだ。
「セイガ…?」
そうして暫くすると、ワーハクタクが顔を覗かせた。
「おやおや、いつぞやの仙人さま。何かご用で?」
にこりと笑う彼女。
私は悪意が詰まった笑みを彼女へ向けた。
「今日は先生と、お話がしたくて参りましたわ」

「いや、どうぞおかけになって。」
私は椅子に座りワーハクタクを睨みつけた。
「どういうことなのかしら」
「…さてはて。何のことやら。」
彼女は首を振りにやりと笑った。
挑発するような笑みに苛立ちを覚える。
ガン、と机を叩いて彼女に迫る。
「…○○を、どうしたって?」
「…結婚したさ。指輪が見えるだろう?」
ワーハクタクは左手を見せる。
だが、私が聞きたいのはそっちじゃない。
「○○の記憶。どうしたのよ」
「ん…?あぁ、君の存在が邪魔でね。少し…歴史を消した」
…歴史を消した。
つまり○○はもう私のことなんて
どうでもよくて
料理を食べて笑ってくれなくて
こいつに一生を捧げる…
ということか。
「さぁさぁ如何かな?もう用はないだろう。」

「…ないわけないわ」

私は渾身の一撃を彼女にかます。
ワーハクタクは半人半獣。
軽く吹っ飛んでいった。
私はキッチンから包丁を持ち出す。
「…なに、するんだ」
「…私の、可愛い可愛い…僕にしてあげる」

丁寧に丁寧に。
私は彼女に印をつけるように…刻んでいく。
さぁ、早く起きて。

彼女が死んだとき、調度○○が帰ってきた。
「ただいま……………え?」
大惨事。
私は笑顔で○○に近寄る。
「…おかえり。何をする?料理、作ろっか。ねぇ、ねぇ…」
○○は青ざめて後ずさりする。
しかし、私は歩みを止めない。
ね、なんで逃げるの?
私だよ、せいがだよぉ…
○○は途中で止まった。
私はガバッと抱きつく。
やっと会えたーー…

○○が、私の首を締めはじめた。

…え?
会えたよ、会えたのに…
どうして?どうして?
やめて、そんな言葉あなたには似合わないわ。
苦し-…

気づいたら、○○が倒れていた。
私はにこりとして死体を手にとった。
「…ようやく、ようやく。」

私は二人を持ち帰ってキョンシーにした。
片方の女は毎日いたぶり、片方の男は顔がくずれるまで愛した。

「…本当は、もっと素直に愛したかったのに」

そう呟きながらキョンシーを壊れた笑みで抱きしめる、邪仙がいた。

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最終更新:2012年08月05日 22:06