永遠亭には数多くの部屋がある。
その内の一つに、縁側を挟んで庭に面した和室がある。
室内の気温はちょうど良く、閉じた障子から入ってくる日差しの暖かい、昼寝をするなら最高の部屋。
そんな部屋に蓬莱山輝夜はいた。
長い黒髪を有した少女で、また見る者を魅了するような美貌を持つ。
その輝夜は顔を下に向け、自分が膝枕をしている少年に声をかける。
「ねえ、○○」
○○と呼ばれた少年は若いより幼いという形容詞似合うような外見の少年である。
今の二人を見た者は、その幼い外見もあって中の良い姉弟と言うだろうか。
その○○は今、輝夜と一列になるように膝枕されている。
なので○○は、必然的に逆さまになっている輝夜の顔を見上げながら返事をする。
「なぁにー」
「ううん、なんでもない」
他愛のない、恋人同士のするような会話。
輝夜はどこか嬉しそうに答えると、部屋の中は再び静寂に包まれた。
畳の匂いや温かな日差し、遠くから微かに聞こえて来るイナバ達の遊び声。
これらに加え、膝枕をされている○○が眠るのも時間の問題だった。
既にうつらうつらとし始めた○○を見て、輝夜は彼の頭を撫では始めた。
優しく、丁寧に、まるで母が子にするように。
とどめを刺された○○はそのまま意識を手放し、夢へと旅立った。
古い、古い○○の記憶。
そこには大きな○○と輝夜がいて、輝夜があるお願いをしてくる。
曰く恋人である○○を誰にも取られたくない、ずっと一緒に居てほしい、だから……
そのお願いに○○は……
「あら、目が覚めたの」
○○が目を覚ますと日差しはだいぶ赤みがかってきていた。
ぼんやりとした頭で○○は先程の夢を思い出す。
輝夜のお願い、それはとんでもないものだった。
永琳の薬で体を子供に戻し、蓬莱の薬でそれを永遠のものとする、そんな内容だった。
子供なら他の女に取られる事もなく、自分がずっと守ってあげられる。
蓬莱の薬であなたと永遠に生きていきたい。
それが輝夜の主張だった。
子供の姿に戻すのは子を成せない蓬莱人の憧れもあったのだろうか。
そんなとんでもないお願いを、○○は受け入れた。
そのおかげで○○が大人になる事は、もう二度と無い。
かわりに○○と輝夜は、母と子、姉と弟、恋人同士、それらすべてを内包し、またそれらすべてと違う関係になった。
歪んで、壊れている、二人だけの閉じた世界。
「いきましょ、○○。そろそろイナバ達が晩ご飯作っているころだわ」
輝夜に手を引かれ○○は起き上がる。
数百年前から続き、これからもずっと続いていく日常風景である。
最終更新:2012年11月11日 12:37