幻想を覆い隠す為に作られた世界に移住した女妖怪。
花を愛でつつ畑にちょっかいを入れる輩を吹き飛ばす毎日。
このまま何ら変わりなく世界が終わるまで過ごすのかしらと思っていた矢先。
植物図鑑を調べに行った時に地下大図書館で白黒魔法使いに絡まれていた外来人の青年を戯れで助けた事で事態は動く。
「何……この心の揺らめき」
ただの人間だった。人の良さそうな顔立ちのただの人間。
言い知れぬ感情が妖怪として生を受けてから一度も感じたことの無い精神を刺激する。
助けてくれてありがとう、そう言われて手を握られた時の温もり。
ささやかなお礼ですが、と言われて渡された彼が偶然持っていたらしいティーカップ。
日長一日それを眺めているだけで時間が過ぎ去っていった。
彼は何を思ってこれを自分に渡してくれたのだろうか。
いやいや、ただ、手持ちのものでお礼をしただけだろう。
でも、どうしてだろう。ただのお礼に対して、こうも気持ちが揺らぐとは。
気が付けば彼に触れた指を自分の唇に含んでいた。
もう一度、あの人に会いたい。
機会は思うよりも早く訪れた。
そこそこの頻度で人里に訪れる彼女と、人里外れの外来人共同体に属する青年の活動領域は意外に近かったのだ。
「ああ、おひさしぶりですね幽香さん。この間は本当にありがとうございました。ティーカップ、気に入られましたか?」
「え、あの、その、ひ、こ、こちらこそお礼なんかしひゃくてっ」
「え?」
「わ、わらひ、私のい、家で……ランチなんかどうかしらっ!?」
簡単なお礼の粗品で済ませればいいのに、テンパって自分の家に彼を招く約束をしてしまった女妖怪。
でも、花を咲かせたり外敵を吹き飛ばす事には百戦錬磨でも、男と接するなんて今まで無かった彼女。
勿論、男性経験もなく処女である。
「ど、どどうしましょう……」
幻想郷に来てからこれ以上ない程に混乱した彼女だが、元々一匹狼気質な彼女の事なので友達は非常に少ない。
行き詰まった彼女は、よりにもよって某神社の宴会時にその場に居た面子に相談してしまったのだ。
今度、男を自宅に招く事になった。助言、どうか、頼む。
「押し倒せばいいのよ!」
「経験談を基づけば食事に媚薬を盛り込んでとっととベットインね」
「監禁!」「監禁洗脳!」
「私だけのものにおなりなさい、この一言で片づくわそうよね咲夜?」「Exactly」
濁った目付きで実体験に基づく成功談を語る彼氏持ち(自称)の女妖怪達。
彼女らの様々なアドバイスと大いに歪んだ励ましを元に、「こいばなおんな」と渾名を付けられた幽香は、男との初デートへの準備に勤しむのであった。
「ええと、媚薬効果のあるハーブの調合はこれでいいのよね……ダブルベットは購入したし……彼、悦んでくれるかしら?」
心と下腹部が艶めかしく湿り気を帯びるのを感じながら、青年○○との距離を詰めるべく一歩、一歩。
「いらっしゃい、○○。待っていたわよ」
ヤンデレ純愛ストーリー『こいばなおんな』 劇場版、今夏公開予定
最終更新:2013年11月27日 17:00