醜い容姿の綺麗な○○
外来人たる○○は非常に醜い姿をしていた。いわゆるブ男であった。しかし、外来人の誰もが彼に好感を抱いていた。それは彼が非常に美しい心を持っていたからだ。
「おう○○、今日も仕事かい?」
「ええ、今日は紅魔館の方へ」
○○は行商を生業としていた。扱っているものは幻想郷において珍品とされるものばかり。仕入れ先は香霖堂と河童である。
「あっちのほうか、気いつけろよ」
「ご心配ありがとうございます。行ってきますね」
そう言って、○○は出発した。
「あ、○○さん。少々お待ちください」
紅魔館に辿り着き門番である紅美鈴に用件を伝えた。ここの住人は幻想郷内でも屈指のお得意様だった。それというのも○○の珍品が紅魔館の住人にひどく受けたというのもあるが、一番は○○を受け入れてくれているという部分にあり、○○も自然と紅魔館に足を向けてしまうのだ。
「いらっしゃいませ○○様。どうぞ中へお入りください」
いつのまにやら目の前に来ていた銀髪のメイド、十六夜咲夜は○○を誘(いざな)い館へ入っていった。
しばらく歩き、見覚えのある部屋にたどり着いた。いつも商談をする部屋だ。
扉を開け、中へ入ると奥で荘厳な雰囲気と佇まいで椅子に座る少女、レミリア・スカーレットと、その妹のフランドール・スカーレット、そして大図書館の管理人パチュリー・ノーレッジとその使い魔の
小悪魔がいた。
「皆さんこんばんはです」
○○はできうる限り愛想の良い顔をして挨拶をした。
「挨拶は良いわ。○○、早く品を見せてちょうだい」
レミリアは柔和な笑みを浮かべながら言った。
「はい、ただいま」
○○は持っていたバッグから珍品を出して見せた。
「……ふーん、今日も面白そうな品がたくさんね」
パチュリーが興味深く品を見ながら呟いた。
「ねえねえ○○! これは何?」
フランが手にしたのは植木鉢に入ったサングラスをかけた花のカラクリだった。
「ああ、それはですね……」
○○はそのカラクリを手に取り、スイッチを入れた。そしてそれをテーブルに置き、
「いいですか? 見ていてくださいね」
皆が注目する中、○○は花の手前で手を叩いた。すると、花はくねくねと動きながら歌い出した。
「わあ! すごいすごい!」
「へえ、なかなかね」
「はあ、どうやって動いてるのでしょうか?」
「ふうん、刺激的ね」
「外にはこのようなカラクリがあるのですね」
紅魔館のみんなには好評のようで○○は安心した。
「ええ、それは昔外で流行った玩具が幻想入りして香霖堂に置かれてたものを私の設計で河童が改良したもので、エネルギーがほぼ半永久的に枯渇しません」
その後も様々な品を見せ、説明し、そしていくつかを買ってもらった。その間、○○は咲夜特製ブレンドティーと小悪魔の手作りクッキー、パチュリーのお手製香料を楽しんだ。
「さて、名残惜しいですが、そろそろお暇させていただきます」
そういうと皆が不満そうな顔をしたがすぐに笑顔に戻った。
「○○、私の眼をしっかり見てちょうだい」
これはもはや恒例となったやりとりだ。レミリアの眼を見つめて○○は約束をする。
「はい、また近いうちに新しい品を仕入れて寄らせていただきます」
そして、フランにも同じことをし、○○は紅魔館から出る。そして門でこれも恒例といえるやりとりをする。
「○○さん! またいらっしゃってくださいね!」
美鈴に手を握られ満面の笑顔で言われる。その時、微かに手が光っているような気がするが、○○は気づくことができない。
「ええ、また近いうちに寄らせていただきます」
こうして、○○は紅魔館を去っていった。
○○は時々期待してしまう。もしかして自分は好かれているのではないかと、しかし、自分の容姿を思い、あり得ないことだとその幻想を振り払う。
一方、○○が去ったあとの紅魔館――――
「ふふふ、○○、早く、早く私達のモノになりなさい」
妖怪は肉体ではなく精神に左右されるもの。故に○○の容姿は関係なく、その心に惹かれるのは自明の理だった。
○○は気づかない。○○は紅魔館に依存しているということに。いや、依存させられているということに。紅魔館の住人各々が○○を縛り付けようと少しずつ何かしらをしている。
○○が気づく頃には恐らく紅魔館の虜となった頃だろう。
あとがき
咲夜も中身重視に考えるという設定でお願いします。
ヤンデレてると信じる
最終更新:2012年11月12日 12:29