「○○、このいかがわしい冊子はなんだい」

ある朝○○が目を覚ますと、女友達の一人であるナズーリンが許可も得ずに家に上がりこんでいた。
まるで主の落し物を探している最中めいて不機嫌そうな表情をした彼女が乱暴に束ねられた成人向け雑誌を投げ捨て、どさりと音を立てる。
ナムサン……勝手に入ってきたばかりではなく、家捜しまでしてくれたようだ。

「アイエエエ!? 何をしているのですか!?」

「それはこっちの台詞だよ。あそこにこんな物を置くなんて、何を考えているんだ」

彼女の指すあそことは、○○宅の天井裏を指す。
一軒家ではあるものの小さな借家であり、隠す為の場所が殆ど無いので、仕方なく天井裏に欲を処理する為のモノを隠していたのだ。
箪笥の奥など他にもあるだろうと読者諸氏は思うだろうが、そこらへんは時折訪れる女友達が許可も得ず弄りまわす為に危険であった。
結局この様に見つけられてしまったが。

「フィーヒヒ!? 仕方が無いでしょう!? 男性の性として、紳士的にいる為にはこういったモノも必要なんです!」

「君は何を言っているんだ。いつ私が春画を買ってはいけないと言った?」

赤面したまま反論する○○に、ナズーリンは呆れた様に溜息を吐く。

「本当なら私だけを重点し前後してほしい所だが、そこは男の性という奴だろうから仕方が無いさ。浮気も男の甲斐性の内だしね」

「貴女こそ何を言ってるんだ…というかそれなら何に対して怒っているのですか…」

「私が言いたいのは、こんな物を子供達の近くに置いたら教育に良くないという事だよ」

「…子供?」

怪訝そうな○○の言葉に頷くと、彼女は天井と床下へ出てくるようにと声をかける。
するとそれに応え、床下から、天井裏から、何人もの鼠耳・尻尾付きの幼子達が顔を出す。
ぞろぞろと出てきた子鼠妖達に甘えるように群がられ、○○は驚きを隠せない様子だった。

「フィヒッ? ここは託児所じゃないのにナンデ?」

目の前の鼠妖に良く似た姿の子鼠達の余りの愛らしさに○○の頬が緩むが、流石に勝手に自宅を託児所代わりにされたのでは堪らない。
見た所子鼠達の服に汚れは見られない。天井裏だけでなく床下も思っていた以上に綺麗であった事も判ったが、幾ら鼠妖でも子供をそんな所に入らせるのは虐待としか思えない。
誰との子供だか知らないが、託児所にするなら相手の男の家か命蓮寺にした方が良いんじゃないか。
そして教育がどうこう言うのであれば、こんな所に子供を居させる事の方が問題ではないだろうか。
そんな事を考えつつ抗議するべく口を開く○○。
しかし。

「託児所も何も、この子達は私と君の子供だよ? この家に居る事に何の問題があるというんだ」

喉まで出かけていた声は、ナズーリンの言葉によって封じられた。彼女はあからさまに調子に乗っていた。
まさか既成事実!? ブルシット、なんたる事か! ナズーリンは○○が寝ている間に侵入し、彼が知らぬ間に前後を果たしていたのだ!
しかもナズーリンの手には、その子供達が○○の因子を保有する事を証明しているDNA鑑定書類があるではないか!
永遠亭から発行された鑑定書には「○○とナズーリンの子供の確率が98.9パーセントで」の文字と八意永琳のサインが妖しげなミンチョ体で書かれている!
あんな物があっては正直に事実を話そうとも逃げられない! 事実を証明出来るのは浄瑠璃の鏡くらいであろうが、閻魔はこんな事の為になど使わせてくれない!
正に前門のタイガー、後門のバッファローだ!

「ナンデ!? いつのまに!?」

「一般的な鼠の妊娠期間は約20日程度だが、私は妖怪だからね。その半分も無い短期間で産めるのさ。まあ実際に産んで判った事なんだがね」

訳も分からず混乱している○○に向け、ナズーリンは実際偉そうに、邪悪な自信に満ちたまま悠然と言い放った。

「例えどんな経緯を経ていようとも、この子達が君と私の子供である事に変わりは無いんだ。くれぐれも捨てたりしないでくれよ、オトウサン?」
最終更新:2017年06月04日 21:41