この寺に俺が世話になってもう数年になる。
住職等の勧めで寺に住み着いてから、寺に軟禁されているのに変わるのは案外早かった。
里に逃げ延びてきた時、この世界の女の業は凄まじいと聞いていたがこれ程までとは驚いている。

「父様」「ちちうぇ」

足下にまとわりついてきた子供達をあやしながら自分の仕事をこなす。
自分を好いてくれた女性から産まれた自分の子達だ、可愛いに決まっている。
だが、最近ちょっと怖い想像が俺の脳裏に付きまとっている。

舌切り雀の逸話を知っているだろうか。
あれの大人verで、爺さんではなく若い夫婦の夫が雀たちの国に招かれる話だ。
雀たちは人間に化けられるおなご達ばかり。若い男は歓待を受ける……勿論、性的な意味合いでも。
やる事やれば彼女達の腹に撒かれた子種が芽吹くも道理。
そんな頃に欲が張った妻がやってきて大事なものを返してくれと言う。
この妻はその前にも色々ごねて雀たちから金銀をせしめてて、更に毟ろうとやってきた訳だ。
大事な者を返せ、と解釈した雀たちは夫を帰した……股間の一物を抉り抜いた状態で、だ。


確かに大事なものであるけど、ある意味「用済み」とも解釈できるよな。


「○○、聖様がお呼びですよ」
「ああ、解ったよ星」

お腹の膨らみがだいぶ目立つようになった寅丸星が、俺の自室の襖を開けて入ってきた。
思えば彼女も、俺を寺に引き留める為随分と張り切っていたし、聖と同じぐらい女の業を見せつけてくれていた。
彼女はどう考えているのだろうか少し気になったが、自分を見詰める潤んだ目を見て考えを変えた。

あの雀たちはある意味打算的に男を里に引き込んでいた。
だが、自分を寺に引き込んだ彼女達は……打算などという生易しいものではない。
誰かに返せ、と言われて返すようなものではない。寧ろ、返せと言った相手を、

「○○、どうしましたか?」
「ん、ああ、解った、直ぐに行くよ……それよりも星。あんまり無理はしないでくれ。身重なんだから」
「え、ええ……解っています」

彼女のお腹を優しくさすると、彼女は頬を染めて俯いた。
彼女達にとって、一番大事なものとは俺なのだろう。
だから、舌切り雀の逸話のようにはならない。

男は外の世界に戻れず、女達の園の中で永遠に暮らしましたとさ。
これを幸せと取るか不幸ととるか。それは男次第なのだろう。
少なくとも、女達は幸せそうだ。

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最終更新:2012年11月20日 00:16