河童に直して貰ったテレビで無縁塚に流れてきたビデオやDVDを観賞する。
強化した耐魔仕様の防護服と護符が必要だが、意外に無縁塚漁りは得るものが多いのだ。
(最近になって、『素養の高い残留希望者』や『変異者』によって外来人が眠る無縁塚は定期的に手入れが為されている)
彼もまたその内の1人だ。なまじ成功しすぎた為に外界で倦み、こちらに流れてもそれなりに成功している。
ただ、幻想郷は○○を危険な部分も含めて退屈させなかった。彼が外に帰らないのも、こちらが非常に(彼の基準で)COOLな世界だからだ。
今回の収穫はエロDVDが十数本と映画が数本、アニメが数本だった。
エロDVDは早々にテレビを持っている同輩に売り捌く。女については最近やたらと引っ付いてくるにとりで発散出来るので問題ない。
「しかし、懐かしいねぇ……」
彼が観賞していたもの。それはアニメ界の大御所原作のアニメ映画だった。
彼が一番好きなのはラストシーンで、
主人公が桜の木の下で自分が殺してしまった妻の化身であるテントウムシを見て涙するシーンだ。
アニメだけでも充分に泣けたが、原作で涙を流す時に主人公が妻との思い出や彼女を失った絶望などを回想するシーンを見てから更に感慨深いものとなった。
どちらかと言えば虚心であり、身に染みるような愛情は現世でも幻想郷でも感じた事の無い○○にとってそれは羨望だった。
愛妻を、住む場所を、両腕を失い絶望の未来しか無くても、あの男の胸には確かに大切なものが残ってる筈だ。
「いいなぁ……」
ふと、スタッフロールを見ながら男は呟いた。
あんな、焦がれるような思いをしてみたいと、○○は呟いた。
まぁ、出来る訳もない。それを知ってるからこそアニメの主人公に嫉妬にも似た気持ちを抱くのだと笑う。
「そう言えば……」
自分もそう言えば、虫を助けた覚えがあると○○は思い出す。
とは言え、里外れの外来人達が住んでいた居住区を守る対妖怪トラップに引っ掛かってた間抜けな虫妖怪だったが。
仕掛けられていた殺虫剤で弱ってた有様があんまりだったので助けたのだ。(殺虫剤をオプションで仕掛けたのは彼だった
「そう言えばアイツも虫で、しかも女性だったな。はは、同じ事なんて有り得ないけどな」
助けた虫が恩返しに来る、そんな筈はないなと○○は苦笑してベットで休んだ。
○○は知らない、部屋の片隅で一部始終をずっと見詰めていたテントウムシが居た事を。
そのテントウムシを使役していた虫妖怪が、歓喜に澱んだ目付きで1つの決意をする事に。
更に、監視カメラの映像で全てを見ていた河童が病んだ笑みを浮かべている事に。
最終更新:2012年11月20日 12:21