紅魔館の外伝。お盆も近いので。ヤンデレというよりか世界観的なもの?

無縁塚

そこは幻想の郷に這入り込み力尽きたり食われたりして死んだ外来人達が眠る場所。
霊力の力場が不安定な為危険度が高く、まともな弔いや鎮魂が行われず放置されていた。
最近になって有志達により墓場としての整備が行われ、訪れる者は数少ないものの慰霊の地として体裁は整いつつあった。

「元気かリーダー」
「今年も盆が来たからね。挨拶に来たよ」

夕暮れ時、逢魔が時も近いと言うのに墓場に人影が2つ存在した。
事実、墓場のあちこちにボンヤリと人影や鬼火がユラユラと動いている。
墓地が整備され定期的な弔いが為されても、異郷で非業の死を遂げた者達にとって無念は死んだ後も残るのだろう。
だが、男達は力を持っていた。この辺りの危険を打ち払えるだけの力を。

「今年はピイスライドを持ってきたよ。リーダー、煙草が好きだったからな」
「うん、リーダー、何時か外界に戻って煙草を肺が真っ黒になるまで吸ってやるって息巻いてたよね」

四方型の石段に長方形の石を突き立てた墓の前に、日傘を畳み分厚いコートを着込んだ男が煙草をカートンサイズで置く。
後ろに居たローブにフードを被り宝石が埋め込まれた杖を持った男も、同じく煙草を添える。

「あんたが居なければ、俺も□□も最初の頃で挫けて死んでいた。どんな形であれ、こうして存在出来るのはあんたのおかげだ」
「そうだよね。リーダーが居なきゃ、何人の仲間が死んでいただろうか解らないよ」

1つだけ取りだした煙草に火を点け、○○と□□は煙草を吹かす。
妻達が煙草を嫌うので、自宅となった館では基本的に禁煙だ。

「リーダー、あんた、今の俺達の事、見たら笑うかね」
「不屈だったリーダーの様に……俺達、強くなかったよ。もっと強ければ、俺達、あんたが言うように元の世界に戻れたかもしれないのにな」

お互いに顔を見合わせ、苦笑いする。
○○は不可思議な程に魔力を纏った□□を、□□は赤い瞳と鋭い犬歯を持つ○○の顔を。
この場所は現世に近いとされる。だからこそ現世から流れ出した物品が幾つも漂着する。
ひょっとしたら神社経由でなくても、□□が念入りに儀式を行えば現世への穴を作り出せるかもしれない。
だが、その穴が出来たとしてどうなるのだろうか。□□の試算では穴は不安定で普通の人間では堪えきれない。
かといって自分達ではこちら側に括られ過ぎて、通り抜けるのは不可能だろう。

「俺達……こんな有様だからさ。もう、元の世界に戻れないよ」
「そうだね……戻れないし、戻れたとして……居場所なんてないさ」

自分達は現世から幻想の郷に追いやられた者達と同類になった。
即ち、彼らの居場所もまた、幻想の郷にしか存在しないのである。
二人の男は溜息を漏らし、深々と紫煙を吐き出した。

「リーダー、あんた、最後の願い通りに元の世界に戻れたかねぇ」
「せめて、魂だけでも……ね」

男達は完全に陽が沈むまで、墓前に佇んでいた。


真夜中、リーダーと呼ばれた男の墓の前に1つの暗がりが産まれた。
開いた暗がりから出て来たのは、紫色のドレスを着た淑女だった。
女は妖艶な笑みを浮かべると、リーダーの墓に時季外れのリコリスをそっと献げた。

「まだ……戻って来てないわね。まぁ、時間は幾らでも存在する……何れ、会いましょう。
 死を持ってしても我が手から逃れられない事を、身にも、魂にも刻んであげるわ」

さざめくような笑い声が墓場に響いた後、残されたのはリコリスの花束だけだった。

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最終更新:2012年11月20日 13:01